探る男
クーパーが怪しい動きを続けています。
土曜日の夕方。町の古い映画館には、久しぶりに多くの人が集まっていた。赤い煉瓦造りの建物は、かつて製紙工場が栄えていた頃に建てられたものだった。入口には古い映画のポスターが並んでいる。
エリンはノアと並んでチケット売場へ向かった。
「懐かしい感じがするね」
ノアは頷いた。
「うん」
エリンは建物を見上げた。
「この映画館、初めて入るの」
「僕も」
「そうなの?」
ノアは頷いた。
エリンは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日は初めてが2つ増えたね。初めて町の映画館に来た日。私と初めて映画を観た日」
ノアも幸せそうに笑う。
「そうだね」
入口ではエミリーが手を振っていた。
「こっちこっち!」
エリンは少し驚いた。
「早いね」
エミリーは胸を張った。
「いい席を取りたかったから」
そしてノアを見た。
「ちなみにポップコーンは買った?」
「まだ」
「じゃあ、買いましょう!」
エリンは笑った。
「エミリー、映画よりポップコーンが目的なんじゃない?」
「両方よ」
3人は笑いながら売店へ向かった。
上映されたのは40年以上前の恋愛映画だった。小さな町で出会った男女が、さまざまな事情で離れ離れになり、長い年月を経て再会する物語。白黒の画面には、古い駅舎や街灯が映し出されていた。
エリンは物語に引き込まれていた。隣ではノアが静かにスクリーンを見つめていた。
映画の終盤。主人公の男性は、かつて愛した女性に言う。
「君が幸せなら、それでいい」
女性はしばらく彼を見つめた。そして静かに答える。
「私の幸せをあなたが決めないで」
エリンは息を呑んで隣のノアを見た。ノアも彼女を見ていた。2人は思わず小さく笑った。以前、公園で交わした会話を思い出したのだ。
エリンはそっとノアの手を握った。ノアも優しく握り返した。
映画が終わるとエミリーは大きく伸びをした。
「よかった!」
エリンは頷いた。
「うん」
ノアも微笑んだ。
「いい映画だったね」
エミリーは2人を見た。
「ねえ」
エリンが顔を上げる。
「何?」
「最後の台詞、よかったでしょう?」
エリンは頷いた。
「うん」
エミリーは続けた。
「恋愛って、相手のために何かをしてあげることだけじゃないのよね」
ノアは静かに聞いていた。エミリーは肩をすくめた。
「まあ、私には彼氏がいないけど!」
エリンは笑った。
「エミリーなら、すぐできるよ」
エミリーは少しだけ顔をしかめた。
「そういう慰めはいらないわ」
3人は笑った。
映画館を出ると、夜の空気は冷たかった。エミリーは車を停めた場所へ向かい、エリンとノアはメインストリートを歩いた。
街灯の下には、落ち葉が積もっていた。エリンはノアの手を握っていた。
しばらく歩いたところで、彼女が言った。
「ノア」
「うん?」
「昨日、病院で変な人に会ったの」
「変な人?」
「うん。建設会社の人みたいだった」
ノアの歩幅がほんの少しだけ変わった。エリンは続けた。
「ノアのことを聞かれたの」
「僕のこと?」
「そう。リハビリ室で話したって」
ノアはしばらく黙っていた。
「クーパーさんかな? 新しい機器の設置場所を確認しに来てた人だと思う」
エリンは頷いた。
「そうなんだ」
少し間を置いた。
「何だか……ノアのことを気にしてるみたいだった」
「そう?」
「うん」
エリンが首を傾げた。
「以前、どこかで会ったことがあるのかな」
「本人は、そう言ってた」
エリンは少し驚いた。
「そうなの?」
「うん。でも僕には覚えがないんだ」
エリンは頷いた。
「人違いかもしれないね」
「そうだね」
2人は再び歩き始めた。
その夜。マーティン・クーパーは、町外れのモーテルで1人酒を飲んでいた。テーブルには古い書類が置かれていた。彼はその中から1枚の写真を取り出した。10年以上前のものだった。画質は悪く、写っている人物の顔もはっきりしない。
そこには若い男が写っていた。黒い髪。細身の身体。そしてどこか冷たい印象を与える横顔。クーパーは写真を見つめた。
「まさかな……」
彼はもう一度、写真を見た。そして携帯電話を手に取った。登録されている古い番号を探す。
しばらく迷った後、通話ボタンを押した。呼び出し音が続いた。やがて男の声が聞こえた。
「誰だ?」
クーパーは苦笑しながら話す。
「久しぶりだな」
相手は黙っている。クーパーは続けた。
「ちょっと訊きたいことがある」
「何だ」
クーパーは写真を見ながら、欲しい情報について探った。
「昔、あの辺りにいた若い男のことだ」
「誰のことだ?」
クーパーが少しだけ声を落とす。
「ノア……ノア・ベネット。」
電話の向こうで沈黙が生まれた。
「覚えてるか?」
しばらくして男が答えた。
「何の話をしてる?」
クーパーは笑った。
「いや、いいんだ。人違いかもしれない」
そして少し間を置いた。
「ただ……もし本人だったら」
クーパーは写真を指先で叩いた。
「面白いことになると思ってな……」
電話の向こうの男は低い声で言った。
「いいか、余計なことはするな」
クーパーは少しだけ眉を上げた。
「ほう?」
「聞こえなかったのか?」
クーパーはしばらく黙っていた。そしてゆっくりと笑った。
「わかったよ」
電話を切った。彼はしばらく携帯電話を見つめていた。それから写真を封筒に戻した。
「やっぱり……何かあるな」
窓の外では、風が吹いていた。町の北側には、旧製紙工場の煙突が夜空に黒く浮かんでいた。
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