↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様は見ている  作者: ももらら
幸せになる資格

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/57

ハロウィンと蠢く男

マーティン・クーパーは、ベン・メンデルソーンさんで。普通の人間のようで、どこか得体の知れない雰囲気がある演技が最高です。

 その日の勤務が終わる頃、エリンはスーザンに声をかけた。

「主任、少しお話ししてもいいですか?」

 スーザンは顔を上げた。

「もちろんよ」

 エリンは午後の出来事を説明した。怒鳴り声を聞いて、身体が強張ったこと。呼吸が苦しくなったこと。ノアに付き添ってもらい落ち着いたこと。スーザンは途中で口を挟まずに聞いていた。話が終わると静かに頷いた。

「話してくれてありがとう」

 エリンは少しだけ視線を落とした。

「仕事中なのにすみません……」

 スーザンは首を振った。

「エリン」

「はい」

「あなたが助けを必要とすることと、看護師としての能力は別の話よ」

 スーザンは続けた。

「患者さんのことを大切に思うなら、自分の状態にも気を配らないといけない」

 エリンは静かに頷いた。

「はい……」

 スーザンは微笑んだ。

「必要なら勤務中に少し休むこともできるし、専門家に相談することもできる」

「ありがとうございます」

 スーザンは頷いた。

「あなたはよく働いてくれているわ。この病院の重要な戦力なんだから。それに大切な仲間でもあるの。困ったときは遠慮なく言いなさい!」

 エリンは胸の奥が温かくなるのを感じた。ノアだけではない。多くの人に支えられて、今の自分がある。本当にこの町に来てよかったと思った。


 その夜。エリンはマーサの店に立ち寄った。店内にはハロウィンの飾りが並んでいた。オレンジ色のカボチャ。黒い紙で作られたコウモリ。小さな魔女の人形。ウォルターが脚立に乗り、天井から飾りを吊るしていた。

「おお、エリン!」

「こんばんは」

 マーサがカウンターから顔を上げた。

「ちょうどよかった。日曜日のこと、覚えてる?」

「もちろんです」

 エリンは微笑んだ。

「ノアも来てくれるそうです」

 ウォルターが嬉しそうに笑った。

「よし! これでカボチャ運びは任せられるな」

 マーサは呆れた。

「あなた、本当にそれしか考えてないの? どれだけカボチャに思い入れがあるのよ」

「大事な仕事だぞ」

 エリンは笑った。

 そしてふと店の奥に目を向けた。そこには古い写真が飾られていた。若い頃のマーサとウォルター。2人は今と同じように笑っていた。私とノアもああなれるのかな……。想像すると少しだけ胸が温かくなった。


 日曜日の夕方。マーサの店の前には、大きなカボチャが3つ並んでいた。ウォルターは、そのうち1つを持ち上げようとしていた。

「よいしょ!」

 カボチャはほとんど動かなかった。マーサが腕を組んだ。

「だから無理だって言ったでしょう」

「まだ本気を出してない」

「腰を痛める前にやめなさい」

 そこへノアがやって来た。

「こんばんは」

 ウォルターの顔が輝く。

「おお、ノア!」

 そしてカボチャを指さした。

「ちょうどいいところに来た! 救世主様のご登場だ」

 ノアは少し困ったように笑った。

「これですか?」

「そうだ!」

 ノアはカボチャを見た。そして少し考えた。

「これ持ち上げるより、台車を使ったほうが安全ですね」

 ウォルターは少し不満そうだった。

「若いんだから持てるだろう」

 ノアは微笑んだ。

「持てるかもしれません。でも腰を痛めたら困りますから」

 マーサは大きく頷いた。

「そのとおり!」

 ウォルターは、しぶしぶ台車を取りに行った。エリンはノアの隣で笑っていた。

「さすが理学療法士」

 ノアも笑った。

「職業病かもしれないね」

 やがて仮装した子供たちが店に集まり始めた。魔女。吸血鬼。海賊。スーパーヒーロー。小さな恐竜の衣装を着た男の子もいた。

「トリック・オア・トリート!」

 子供たちが声を揃える。マーサは笑顔でお菓子を配った。エリンは子供たちの衣装を褒めた。ノアは袋がいっぱいになった子供のために、新しい袋を用意していた。ウォルターは店の前に置いたカボチャの横で、得意そうに腕を組んでいた。

「どうだ。立派だろう!」

 マーサが言った。

「運んだのはノアよ」

「選んだのは俺だ」

 エリンは笑った。

 そのとき小さな女の子がノアの前に立った。5歳くらいだろうか。白いシーツをかぶり、目の部分だけ穴を開けた、お化けの仮装だった。女の子はノアを見上げた。

「お兄ちゃん」

 ノアはしゃがんだ。

「何かな?」

 女の子は少しだけ首を傾げた。

「怖くない?」

「何が?」

 女の子は自分のシーツを指さした。

「お化け」

 ノアは考え込むそぶりを見せて真面目な顔で言った。

「うーん」

 女の子はじっと彼を見た。

「ちょっと怖いかもしれない……」

 女の子は嬉しそうに笑った。

「やった!」

 そしてエリンのほうを向いた。

「お姉ちゃんも怖い?」

「すごく怖い!」

 女の子は声を上げて笑った。そして両手を広げた。

「ばあ!」

 エリンは大げさに驚いてみせた。

「きゃあ!」

 女の子は大満足だった。母親に手を引かれ、嬉しそうに去っていった。2人はその後ろ姿を見送った。

 エリンは彼を見た。

「ノア」

「うん?」

「今の上手だったね」

「そうかな?」

 エリンは頷いた。

「うん」

 そして満足そうに温かい笑みを浮かべた。

「子供に優しいところ……好き」

 ノアが赤くなる。

「ありがとう……」

 照れているノアを見てエリンは微笑んだ。


 夜8時。子供たちの姿が少なくなり、店の前も落ち着いてきた。マーサは残ったお菓子を箱に戻していた。ウォルターはカボチャの横に座り込んでいた。

「疲れた……」

 マーサが笑った。

「何もしてないでしょう」

「子供たちを見守ってたんだ」

「それなら私だってやってたわ」

 エリンはノアと顔を見合わせて笑った。マーサは2人に温かいココアを差し出した。

「はい。お疲れさま」

 エリンは受け取った。

「ありがとうございます」

 ノアも頷いた。

「ありがとうございます」

 2人は店の前のベンチに並んで座った。夜の空気は冷たかった。ココアの温かさが全身に染み渡っていく。

 しばらく2人は黙っていた。やがてエリンが言った。

「今日は楽しかったね」

 ノアは頷いた。

「うん」

 エリンは思い出して笑った。

「あの女の子、可愛かった」

 ノアも微笑んだ。

「そうだね」

 エリンは彼を見た。

「ノア、私ね……前はハロウィンが苦手だったの」

 ノアは少し驚いた。

「そうなんだ?」

 エリンは頷いた。

「うん」

 そして、静かに続けた。

「仮装した人が、急に近づいてくるのが怖くて……」

 ノアは黙って聞いていた。エリンは少しだけ笑った。

「でも今日は楽しかった」

 ノアは微笑んだ。

「よかった」

 エリンは彼を見た。

「だってノアがいてくれたから……」

 エリンは静かに微笑んだ。

「ありがとう」

「僕は何もしてないよ」

 エリンは呆れるように笑った。

「また、それ」

 ノアが少し驚いた。

「え?」

 エリンは彼の手を握った。

「何もしてないなんて、言わないで。一緒にいてくれるだけで、安心できるし嬉しいんだから」

 エリンは静かに微笑んだ。

「それで、十分だよ」

 ノアはゆっくりと頷いた。

「ありがとう……」

 エリンは笑った。

「どういたしまして!」


 その夜。ノアは居間でジャケットを脱いでいた。ポケットから、昼間受け取った名刺が出てきた。

 マーティン・クーパー。クーパー建設。

 ノアはしばらく名刺を見つめていた。そして静かに机の引き出しを開けた。中にはいくつかの書類が入っていた。彼は名刺をその一番下にしまった。引き出しを閉める。

 そして窓の外を見た。町の北側には、旧製紙工場の煙突が見えた。夜空に黒い影のように立っている。ノアはしばらくその煙突を見つめていた。やがて静かにカーテンを閉めた。


 一方エリンは自宅で今日撮った写真を見返していた。カボチャの前で笑うウォルター。子供たちにお菓子を配るマーサ。そしてエリンとノアが並んで写った写真。撮影したのはエミリーだった。彼女は途中から店に現れ、2人を見るなり言った。

「せっかくだから、記念写真を撮りなさいよ!」

 エリンは画面の中のノアを見た。彼は少し照れくさそうに笑っていた。エリンは静かに微笑んだ。そしてその写真をお気に入りに登録した。


 翌朝。マーティン・クーパーは、町の北側にある旧製紙工場を訪れていた。錆びた鉄柵の向こうには、使われなくなった建物が並んでいた。

 彼は工場の敷地を歩きながら、携帯電話で誰かと話していた。

「ああ。予定どおり進めてる」

 少し間を置いた。

「病院にも顔を出してきた」

 相手が何かを言った。クーパーは笑った。

「いや、別に。昔の知り合いに似た男がいただけだ」

 彼は足元の割れたコンクリートを見た。

「名前?」

 少し考えた。

「ノア・ベネット」

 相手が何かを言った。クーパーは少しだけ眉を寄せた。

「何だ?」

 沈黙。やがて彼は笑った。

「いや、まさかな……」

 そして電話を切った。クーパーはしばらく工場の建物を見上げていた。その先には古い鉄骨の足場が残されていた。何年も使われていない、錆びた足場。風が吹くたび、金属が軋む音を立てていた。

 クーパーは、顔をしかめた。

「こりゃ、危ないな」

 彼は手帳を取り出し、何かを書き込んだ。そして工場を後にした。

ご意見、ご感想、いいね、ブックマーク登録など頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。