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神様は見ている  作者: ももらら
幸せになる資格

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雨の日の帰路

エリンはノアのことを心配しています。

 午後7時。エリンは病棟の廊下を歩いていた。

 窓の外では雷が光っていた。遠くで空気を切り裂くような音が響いた。

 エリンは思わず足を止めた。胸の奥が少しだけざわついた。

 雷の音。突然の大きな音。それは彼女にとってまだ少し怖いものだった。

 エリンはゆっくりと深呼吸してから強く念じる。

「大丈夫。ここは病院。安全な場所」

 エリンは再び足を進めようとしたとき背後から声がした。

「エリン」

 振り返るとノアが立っていた。

「ノア! まだいたの?」

「うん。少し仕事が残ってて……」

「もう帰るところ?」

「そうだね」

 ノアは窓の外に視線を移した。

「雨がすごいね」

「うん」

「エリンは、まだ仕事?」

「うん。夜勤の人が来られなくて……」

「そうなんだ……」

 エリンは微笑んだ。

「大丈夫。少し残るだけだから」

「無理しないでね」

 2人はしばらく顔を見合わせた。そしてエリンが言った。

「ノア。帰り、気をつけてね」

 ノアは頷いた。

「エリンも」

 エリンは少しだけ笑った。

「私はまだ帰れないけど」

 ノアは少し困ったように笑った。

「そうだった」

 2人は笑った。そしてノアは病院を後にした。


 午後9時半。エリンはようやく仕事を終えた。

 スーザンが感謝を述べる。

「エリン、ありがとう」

 エリンは微笑んだ。

「いえ」

「本当に助かったわ」

 スーザンは疲れた顔をしていた。

「気をつけて帰ってね」

 エリンは頷いた。

「はい」

 そして更衣室へ向かい着替えを終えた。携帯電話を確認すると、ノアからメッセージが届いていた。

「仕事、終わった?」

 すぐにメッセージを返す。

「今、終わったところ」

「よかった。正面玄関にいるよ」

 エリンは目を丸くした。

「え?」

 追加のメッセージが届いた。

「雨がひどいから、送っていこうと思って」

 エリンはしばらく画面を見つめていた。ノアの気遣いが嬉しくて、疲れていたのに笑みがこぼれる。幸せな気分で返信した。

「ありがとう! 今行くね」

 正面玄関に行くとノアが立っていた。濃い色のジャケットを着て傘を持っている。

「ノア……」

 ノアは微笑んだ。

「お疲れさま。大変だったね」

「ずっと待ってたの?」

 ノアは笑いながら首を振った。

「ううん。一度帰ってから来たんだ」

 エリンは少しだけ眉を寄せた。

「そんなことしなくてもよかったのに……」

 ノアは少し困ったように笑った。

「そうかな……」

 エリンは彼を見つめながら静かに言った。

「心配してくれたのは嬉しい」

 ノアは少し安心したように笑った。

「うん」

「でもこんな天気の日に、何度も車を出すのは危ないよ。ノアが事故に遭ったら、私悲しいから」

「そうだね……」

 ノアの不安を吹き飛ばすように、エリンは少しだけ笑った。

「次からは、相談してね」

 ノアは微笑んだ。

「わかった」

 エリンは彼の手を優しく握った。

「でも、ありがとう」

 ノアも優しく握り返した。

「うん」


 車の中は、暖かかった。窓の外では、いまだに雨が激しく降っていた。ワイパーが忙しく動く。エリンは助手席に座りながら言った。

「今日は、いろいろあったね」

 ノアは頷いた。

「うん」

「ウィルソンさん、少し落ち着いたみたい」

「そうだね」

 エリンは少し考えながら言った。

「家のこと何とかなるといいね。大切な場所だから」

「そうだね」

 2人はしばらく黙っていた。車内には雨音だけが響いていた。やがてエリンが言った。

「ノア。私ね……帰る場所があるって大事なことだと思う」

 エリンは続けた。

「ウィルソンさんにとっては、あの家なんだよね」

 ノアが頷いた。

「うん」

 エリンは少しだけ笑った。

「私にとっては今の家かな……。この町に来たときは、ただ隠れる場所が欲しかっただけだった」

「うん」

「でも今は違う」

 エリンは窓の外を見た。

「あの家に帰ると、ほっとするの」

 ノアは微笑んだ。

「いいことだね」

「うん」

「それに……」

 ノアは彼女を見た。

「うん?」

 エリンは心からの言葉を口にした。

「ノアがいてくれるから、この町がもっと好きになった」

 エリンは照れくさそうに笑った。

「変かな?」

 ノアは静かに微笑んだ。

「嬉しい」


 エリンの家に着いた頃、雨は少し弱まっていた。ノアは車を停めた。エリンはシートベルトを外した。

「送ってくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

 エリンは少しだけ彼を見つめた。

「ノア」

「うん?」

「今日はもう帰って」

 ノアは少し驚いた。

「ちゃんと休んでほしいから……」

「わかった」

 エリンは彼の手を握った。

「おやすみ」

 ノアも優しく握り返した。

「おやすみ、エリン」

 エリンは車を降りて玄関へ向かった。ドアを開ける前に振り返ると、ノアの車がまだ停まっていた。エリンは手を振った。ノアも手を振った。そしてエリンが家に入るのを見届けてから、車を発進させた。


 その夜。エリンは温かいシャワーを浴びてから、居間のソファに座っていた。窓の外ではまだ雨が降っていた。

 彼女は静かに息を吐いた。

「今日、ノアが迎えに来てくれた」

「嬉しかった」

 けれど少しだけ心配でもあった。彼はいつも人のことを優先する。患者のこと。同僚のこと。そして自分のこと。

 エリンは少し考えた。

「ノアにもちゃんと自分を大切にしてほしい」

 そう思った。

 恋人なんだから。彼を心配するのも。彼に無理をしてほしくないと思うのも。自然なことなのだ。

 エリンは携帯電話を手に取った。

「無事に帰れた?」

 しばらくして返事が届いた。

「うん。今、家に着いたよ」

 エリンは安堵のため息を漏らす。

「よかった。温かくして寝てね」

「エリンも。おやすみ」

 エリンは微笑んだ。

「おやすみ、ノア」

 そして携帯電話を置いた。窓の外では雨が静かに降り続いていた。


 同じ頃。ノアは自宅の居間で、濡れたジャケットを椅子に掛けていた。エリンの言葉が耳に残っていた。

「ノアが事故に遭ったら、私悲しいから」

 ノアは静かに息を吐いた。自分が誰かに心配される。それはまだ少し慣れないことだった。だけど嬉しかった。

 ノアはゆっくりと目を閉じた。胸の奥が温かかった。そして少しだけ痛んだ。彼女は何も知らない。自分の過去を。自分がどんな人間だったのかを。

 ノアは静かに息を吐いた。

「いつか話さなければならない」

 そう思った。けれど、今はその勇気がなかった。

 ノアは窓の外を見た。雨が静かに降っていた。そして、ふと呟いた。

「帰る場所……か」

 エリンには帰る場所がある。そして自分にもこの家がある。

 ノアは少しだけ笑った。

「いつか誰かと一緒に帰る場所ができるのだろうか?」

 そんなことを考えながら、彼は部屋の明かりを消した。雨音が静かな家に響いていた。

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