初めての……
ノアとエリン、幸せいっぱいです。
食事の後、2人は一緒に後片づけをした。エリンが皿を洗い、ノアが拭いた。ノアは洗い終わった皿を受け取りながら言った。
「エリン」
「何?」
「今日はありがとう」
エリンは笑った。
「どうして?」
「一緒に料理を作ってくれて」
エリンは少しだけ首を傾げた。
「それは私も楽しかったから」
ノアは微笑んだ。
エリンはノアを見つめて静かに言う。
「ノア……私たち、恋人なんだから」
エリンは少しだけ頬を赤くした。
「そんなに何でもお礼を言わなくてもいいんだよ」
ノアは苦笑した。
「そうかな?」
エリンは頷いた。
「もちろん、ありがとうって言われるのは嬉しいけど」
エリンは続けた。
「一緒にいることが、特別なことじゃなくなってもいいと思うの」
エリンは少しだけ笑った。
「普通のことになっても」
ノアはゆっくりと頷いた。
「そうだね……そうなったら嬉しい」
エリンも微笑んだ。
「私も……」
午後3時。2人は居間のソファに並んで座っていた。窓の外には、穏やかな秋の日差しが差していた。
エリンはノアが貸してくれた本を読んでいた。ノアは隣で別の本を読んでいた。しばらく2人は黙っていた。
やがてエリンが本を閉じた。
「ノア」
「うん?」
ノアは顔を上げた。エリンは少しだけ微笑んだ。
「何でもない」
ノアは少し驚いた。
「ただ呼んでみたかっただけ」
ノアは静かに微笑んだ。
「そっか」
エリンは彼を見た。
「変?」
ノアは首を振った。
「ううん」
そして少しだけ笑った。
「エリンに名前を呼ばれて嬉しい」
しばらくしてノアが言った。
「エリン」
エリンは顔を上げた。
「何?」
ノアはイタズラっぽく笑った。
「何でもない」
エリンは声を上げて笑った。
「もう!」
ノアも笑った。2人はしばらく笑っていた。穏やかで幸せな時間だった。
夕方。エリンは帰る準備をしていた。ノアは玄関まで見送った。
エリンは靴を履きながら言った。
「今日は、楽しかった」
ノアが嬉しそうに笑った。
「僕も」
エリンは頬を赤くした。
「また一緒に料理しようね」
ノアは頷いた。
「うん」
エリンは彼を見つめた。そして少し迷った。ノアはそんな彼女の表情に気づいた。
「どうしたの?」
エリンが少しだけ息を吸った。
「ノア……」
「うん?」
エリンはゆっくりと彼に近づき静かに言った。
「キスしてもいい?」
ノアが動きを止めた。エリンは少しだけ緊張した。けれど目を逸らさなかった。ノアはしばらく何も言わなかった。そしてゆっくりと頷いた。
「うん……」
エリンはそっと背伸びをした。ノアは少しだけ身をかがめた。
2人の唇が静かに触れた。ほんの短い時間だった。それがエリンにはとても長く感じられた。
やがて2人はゆっくりと離れた。
エリンはさっきよりも頬を赤くした。ノアも照れくさそうに笑った。
「エリン」
「うん?」
ノアも赤くなりがら言った。
「ありがとう」
エリンが笑った。
「また、お礼?」
ノアは少し困ったように笑った。
「ごめん」
エリンは首を振った。
「私も嬉しかったんだよ。だからお礼はいらない。お互い様でしょう?」
ノアは静かに頷いた。
「うん……」
エリンはもう一度彼を見た。そして少しだけ笑った。
「おやすみ、ノア」
ノアは微笑んだ。
「おやすみ、エリン」
エリンは家を出た。ノアは玄関先で彼女を見送った。エリンは車に乗り窓を開けた。
「また明日!」
ノアは手を振った。
「また明日!」
エリンは車を走らせた。車が見えなくなるまで、ノアはずっと見送っていた。
その夜。エリンは居間でソファに座っていた。窓の外には秋の夜が広がっていた。
彼女はそっと唇に触れた。今日のキス。ほんの短い時間だった。だけど忘れられない時間だった。
エリンは静かに微笑んだ。
「怖くなかった」
以前なら誰かに近づかれるだけで身体が強張っていた。誰かに触れられることが怖かった。
だが今日は……。自分からノアに近づいた。自分からキスをした。それが嬉しかった。
エリンはゆっくりと目を閉じた。
「私、変われたんだ」
そう思った。しかし次の瞬間、その考えを否定する。
「違う。変わったんじゃない。本当の自分を少しずつ取り戻しているんだ」
エリンはノアの顔を思い浮かべた。
「ありがとう、ノア」
そう心の中で呟いた。
同じ頃。ノアはキッチンで夕食の皿を洗っていた。窓の外はもう暗くなっていた。
ふと手を止めた。そして静かに息を吐いた。
今日エリンがキスをしてくれた。そのことがまだ信じられなかった。
ノアはゆっくりと目を閉じた。胸の奥が温かかった。そして静かに呟いた。
「幸せだな……」
その言葉が誰もいないキッチンに響いた。
いつものように否定的な考えが脳裏によぎる。もしかしたらそれは一生消えないのかもしれない。それでも今はこの幸せに身を任せたい。
その日、誰かと一緒に過ごす日曜日がこんなにも短く感じられるものなのだとノアは知ったのだった。
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