報告
エミリーとヌクミズ、大騒ぎです。
月曜日。エリンは病院のカフェテリアでエミリーと向かい合っていた。エミリーはいつものようにコーヒーを飲んでいる。
「それで?」
取り調べをするかのようなエミリーに、エリンは少し笑った。
「何が?」
「土曜日よ」
「土曜日?」
「ノアと湖に行ったんでしょう?」
エリンは少し驚いた。
「どうして知ってるの?」
エミリーは得意そうに笑った。
「私の情報網を舐めてもらっては困るわね。この町のことなら何でもわかるんだから」
エリンは思わず笑った。
「それでどうだったの?」
「楽しかった」
エミリーはエリンをじっと見つめた。
「それだけ?」
エリンは少しだけ頬を赤くした。
「ううん」
エミリーが目を細めた。
「何があった?」
エリンは少し迷いながら静かに言った。
「私たち……付き合うことになったの」
エミリーの動きが止まった。コーヒーカップを持ったまま固まっている。
「え?」
エリンはハニカミながらもう一度言葉にした。
「恋人になったの」
次の瞬間……
「きゃあああ!」
エミリーが声を上げた。周囲の人々が一斉に振り返った。エリンが慌てる。エミリーは彼女の手を強く握った。
「やったじゃない!」
エリンは少し恥ずかしくなった。
「声が大きい!」
「だって!」
エミリーは嬉しそうに笑った。
「よかったね、エリン!」
「うん」
エミリーの目は潤んでいた。親友の幸せが本当に嬉しかったのだ。
「本当によかった……」
自分のことをこれほど喜んでくれる友情に感謝しながら、エリンはお礼を伝える。
「ありがとう、エミリー」
「美形カップル爆誕! まぁ私は彼氏がいないけど!!」
先ほどまでの感動はどこへやら。やはりエミリーはエミリーだった。
その日の午後。ノアは病院の廊下でヌクミズに呼び止められた。
「ノア君!」
「はい?」
ヌクミズは満面の笑みを浮かべていた。
「聞きましたよ!」
ノアは少し嫌な予感がした。
「何をでしょう?」
「当然! エリンさんとのことです」
ノアは少し頬を赤くした。ヌクミズは嬉しそうに頷いた。
「いやあ、よかった!」
「ありがとうございます」
ヌクミズは彼の肩を軽く叩いた。
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
ヌクミズは少しだけ真面目な顔になった。
「エリンさんを大切にしてくださいね」
ノアはゆっくりと頷いた。
「はい」
「もちろん君自身のことも」
ノアは驚いた。
「僕自身……ですか?」
「そうです」
ヌクミズは頷いた。
「恋人というのは、どちらか一方が我慢するものではありませんから」
ノアは静かに頷いた。
「はい」
ヌクミズは満足そうに笑った。
「大変よろしい!」
そして去っていった。ノアはその背中を見送った。少しだけ不思議な気持ちだった。
エリンを大切にする。それは当然のことだと思っていた。だが自分自身のことも。そう言われたのは、少し意外だった。
ノアは静かに息を吐いてから仕事へ戻った。
その夜。エリンは自宅の居間で携帯電話を手にしていた。画面にはノアからのメッセージが表示されていた。
「今日エミリーとヌクミズ先生に祝福された」
エリンは笑いながら返信を送る。
「私もエミリーに大騒ぎされたよ」
少しして返事が届いた。
「想像できるね」
エリンはまた笑った。そして次の予定を決める。
「今度の日曜日も会える?」
すぐに返事が届いた。
「もちろん」
エリンは安堵して静かに微笑んだ。
「楽しみにしてる」
そう送ると、またすぐに返事が来た。
「僕も」
エリンは携帯電話を胸に抱いて、静かに目を閉じた。
嬉しかった。ただそれだけだった。
同じ頃。ノアは自宅の居間で携帯電話を見つめていた。エリンからのメッセージ。
「楽しみにしてる」
恋人。自分が誰かの恋人になった。それは彼にとってどこか現実味のないことだった。
ずっと1人で生きていくつもりだった。誰かと深く関わることも。誰かに愛されることも。望んではいけないと思っていた。
けれどエリンと出会ってしまった。そしてエリンを好きになった。エリンは自分を選んでくれた。
ノアは自分の胸に手のひらを置く。胸の奥が温かかった。そして少しだけ苦しかった。
彼女は何も知らない。自分の過去を。自分がどんな人間だったのかを。
ノアは静かに息を吐いた。
「いつか話さなければならない」
そう思った。でも今はその勇気がなかった。
ノアはもう一度、携帯電話を見た。
「楽しみにしてる」
その言葉が胸に残った。自然と微笑みが漏れる。そして返信した。
「おやすみ、エリン」
すぐに返事が届いた。
「おやすみ、ノア」
ノアは携帯電話をテーブルに置いた。そして窓の外を見た。夜空には星が浮かんでいた。彼はしばらくその星を見つめていた。やがて小さく呟いた。
「幸せだな……」
その言葉を口にした瞬間ノアは驚いた。自分がそんなことを言うとは思っていなかった。言う資格がないと思っていた。
だがその夜、彼は初めてその気持ちを否定しなかった。
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