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神様は見ている  作者: ももらら
幸せになる資格

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23/57

ノアの料理

不器用でも一生懸命作ってくれた料理は最高に美味しいですよね。

 ノア・ベネットが料理の練習を始めてから、2週間が過ぎた。

 最初の失敗は卵だった。火を強くしすぎたせいで、フライパンの底にこびりついてしまった。

 2度目はトマトだった。水分が出すぎて、炒め物というよりスープになった。

 3度目は、塩を入れすぎた。4度目で、ようやく食べられるものができた。もっともそれを料理と呼んでいいのか、ノア自身には判断がつかなかった。

 彼は出来上がった皿をテーブルに置きしばらく眺めた。黄色い卵と赤いトマト。見た目は、それほど悪くない。一口食べる。

「うん……」

 悪くなかった。少なくとも最初の3回よりは。

 そのとき携帯電話が鳴った。画面にはエリンの名前が表示されていた。ノアは電話に出た。

「もしもし」

「ノア? 今、大丈夫?」

「うん。どうしたの?」

「今度の日曜日のことなんだけど」

ノアは少し背筋を伸ばした。

「うん」

「本当にお料理を作ってくれるの?」

「そのつもりだけど」

 電話の向こうで、エリンが笑った。

「よかった。楽しみにしてる」

 ノアは目の前の皿を見た。

「あまり期待しないでね」

「どうして?」

「そんなに上手じゃないから」

エリンは、明るい声で言った。

「大丈夫よ。ノアが作ってくれるなら、それだけで嬉しいもの」

ノアは何も言えなくなった。

「ノア?」

「あ、うん」

「どうしたの?」

「……何でもない」

 少し間を置いてノアは言った。

「ありがとう」

 電話の向こうでエリンが笑った。

「どういたしまして」

 ノアは静かに微笑んだ。


 翌日の昼休み。エリンは病院のカフェテリアでエミリーと向かい合っていた。

「それで?」

 エミリーが尋ねた。エリンは首を傾げた。

「何が?」

「日曜日よ」

「日曜日?」

「ノアの家に行くんでしょう?」

 エリンは少し驚いた。

「どうして知ってるの?」

 エミリーは得意そうに笑った。

「本人から聞いたの」

「ノアから?」

「ええ」

 エミリーはコーヒーを一口飲んだ。

「昨日、休憩室で料理の本を読んでたから、何してるのか聞いたのよ」

 エリンは思わず笑った。

「料理の本?」

「そう」

 エミリーは頷いた。

「しかも初心者向けのやつ」

 エリンは笑いをこらえた。

「そうなんだ……」

「それで何を作るのって聞いたら、エリンに食べてもらうんだって」

 エリンは少し頬を赤くした。

「そんなふうに言ったの?」

「ええ」

 エミリーは、にやりと笑った。

「何だか嬉しそうだったわよ」

 エリンは視線を落とした。

「……そう」

 エミリーはしばらく彼女を見ていた。そして少し真面目な顔になった。

「ねえ、エリン」

「何?」

「ノアのこと、好きなんでしょう?」

 エリンは顔を上げた。以前ならすぐに否定していたかもしれない。でも今は違った。

彼女は少し考えた。そして静かに頷いた。

「うん」

 エミリーは、驚いた顔をした。

「あら!」

 エリンは微笑んだ。

「好きだと思う」

 エミリーはしばらく何も言わなかった。そして嬉しそうに笑った。

「そっか……」

 エリンは少し照れくさくなった。

「何よ」

「何でもない」

 エミリーは首を振った。

「ただ嬉しいだけ……」

 エリンは彼女を見た。エミリーは続けた。

「あなたが誰かを好きだって言えるようになったことが」

 エリンは少し驚いた。よく見ればエミリーは少し涙を浮かべていた。

「ありがとう」

 エミリーは頷いた。

「でも焦らなくていいからね」

 エリンは彼女を見た。

「ノアはいい人だと思う」

 エミリーは静かに言った。

「でもあなたが安心できる早さで進めばいいのよ」

 エリンはゆっくりと頷いた。

「そうする」


 日曜日。エリンは約束の時間より10分早くノアの家に着いた。車を停め玄関を見つめた。小さな平屋だった。庭はきれいに手入れされ、玄関脇には鉢植えの花が並んでいた。窓には薄いカーテンが掛かっていた。派手さはないが落ち着いた家だった。

 エリンは少しだけ緊張していた。ノアの家に来るのは初めてだった。

 彼が普段どんな暮らしをしているのか。何を大切にしているのか。どんなものに囲まれているのか。少しだけ知りたかった。

 エリンは深呼吸をしてから玄関のベルを押した。しばらくすると扉が開いた。ノアが立っていた。

「エリン、早かったね」

 少し驚いた顔をした。エリンは笑った。

「ごめん。早く着いちゃった」

 ノアは微笑んだ。

「大丈夫。どうぞ」

 エリンは家の中に入った。

 居間は思っていた以上に簡素だった。小さなソファ。木製のテーブル。本棚。壁にはほとんど飾りがなかった。テレビもあまり大きくなかった。本棚には医学書や歴史書、小説が並んでいた。部屋はきれいに片づいていた。

 エリンは少しだけ驚いた。

「本が多いね」

 ノアは微笑んだ。

「うん」

「全部、読んだの?」

「半分くらいかな」

 エリンは笑った。

「それでもすごい」

 ノアは少し照れくさそうに笑った。

「時間があると、つい買ってしまうんだ」

 エリンは部屋を見回して気づいた。

 写真がほとんどない。家族写真も。旅行先で撮った写真も。唯一棚の端に小さな写真立てが1つ置かれていた。

 そこには大学の卒業式らしい写真が入っていた。2人の若い男性が肩を組んで笑っていた。

 1人はノアだった。今より少し若く、髪も短かった。もう1人は明るい笑顔の男性だった。

「これ、ノア?」

 ノアは顔を上げた。

「大学の卒業式のときだよ」

 エリンは写真を見つめた。

「隣の人は?」

 ノアは懐かしそうに笑った。

「ダニー」

「ダニー?」

「うん。大学の友達」

 エリンは、写真を見た。

「仲がよさそう」

 ノアは頷いた。

「大切な友達なんだ」

 エリンは少し驚いた。ノアがそんなふうに誰かのことを話すのは初めてだった。

「今も会うの?」

「たまに電話するよ」

 ノアは微笑んだ。

「離れたところで仕事をしているから、なかなか直接会うことができないんだ」

「そうなんだ」

 ノアは写真を見て小さく笑った。

「昔から賑やかな奴でね」

 エリンも笑った。

「ノアとは正反対?」

 ノアは頷いた。

「そうだね。でも不思議と気が合うんだ」

 エリンは写真をもう一度見た。ノアは今よりずっと無邪気に笑っていた。その笑顔が少しだけ嬉しかった。

 キッチンからいい匂いが漂ってきた。エリンは顔を上げた。

「何を作ってるの?」

 ノアは少し困ったように笑った。

「トマトと卵の炒め物」

 エリンは笑った。

「本当に?」

「うん」

「楽しみ」

 ノアは少しだけ照れくさそうに微笑んだ。

「あまり期待しないで」

 エリンは首を振った。

「期待してるよ」

 ノアは苦笑した。

「困ったな」

 エリンは笑った。

 食卓にはトマトと卵の炒め物のほかに、グリーンサラダとパンが並んでいた。

「すごい」

 エリンが目を丸くすると、ノアは少し照れくさそうに笑った。

「簡単なものばかりだけど」

「そんなことないよ」

 エリンは微笑んだ。

「美味しそう」

 ノアはホッとしたように笑った。

 2人は席に着いた。

 エリンは一口食べて顔を上げた。

「美味しい!」

 ノアはエリンの顔を覗き込みながら不安な表情をしていた。

「本当に?」

「うん!」

 エリンは頷いた。

「すごく美味しい!」

 ノアはようやく安心したように笑った。

「よかった」

「これ何回くらい練習したの?」

ノアは少し考えた。

「4回くらい」

 エリンは驚きを隠せない。

「4回?」

「うん」

 思わず笑ってしまうエリン。

「そんなに?」

 ノアは少し困ったように笑った。

「最初は、ひどかったから」

 エリンは食べる手を止めて、静かに言った。

「ありがとう……」

 エリンは、彼を見た。

「私のために練習してくれたんでしょう?」

 ノアが照れたように俯く。

 エリンは静かに微笑んだ。

「嬉しい……」

 ノアはゆっくりと頷いて小さく笑った。

「よかった……」

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