退役と帰郷
真っ暗闇の航海の中、アリスと私は『エンタープライズⅡ』の甲板の上で、コーラを飲みながら話し合う。
アリスはコーラを飲みながら、甲板のフェンスに寄りかかる。私は同じくフェンスに手を寄せる。そして、アリスから貰ったコーラを飲む。
「それで? 話って何?」
コーラの缶を回しながら、漆黒の海を眺めるアリス。開口一番に、自分の去勢を話し始める。
「軍を辞めるよ。少佐にも一応話してあるしね。でも、条件として有事には復帰することだって言われちゃったけど」
「退役するってことね。それであてはあるの?」
「少佐の伝手でFBIに入ることになったよ。あそこなら『ブレイバー』関係に詳しいのが何人かいるらしいしね。まぁ、瀬戸内グループに入社することも考えたけど、それでも祖国が好きだからさ」
「だからFBIに?」
「そう。もう自分を鬱屈させないって決めたからさ。なら今度は自分の好きなことをする。たとえそれが、国家が相手になろうと構いはしないよ」
アリスは残り少ないコーラを一気に流し込む。すると、もう一本コーラの缶を開けては飲み始める。私もコーラを飲み干すと、アリスはもう一缶のコーラを私に受け渡す。
「自由で良いわね。アメリカ人らしいと言えばそうだけど」
「日本人は真面目すぎるだけだよ。あなたもあの二人も」
「そうね。肩の力を抜かないと生きていけないわね。SNSで発散するんで無くて、友達とこうして話すほうが良いわよ」
私の皮肉にアリスは笑い出す。笑いながらもアリスはコーラを飲む。
「随分のパンチの聞いた皮肉だね。でも、言ってることは確かだね」
笑い崩れるアリスを余所に、私はコーラを飲む。天を仰ぐと天の川が綺麗に夜空を照らす。この空の下で、私たち人類はみな同じ星の住民なんだなと実感する。
「それで? 明日にも帰るの?」
「えぇ、台湾の近郊まできたらそこで『ライド』してまっすぐカンナギ市の帰るわ。みんな家族を待たせているし」
「もう、無茶してアフガンまで来るんだから。特に香里奈ちゃんは心配するんじゃない?」
アリスの言葉に肩を落とす。そう言われるとすごく耳が痛い話だ。
「耳が痛い話ね。我ながら無茶したわ」
「それが美羽ちゃんの良いところだよ。そこに惹かれたんだろうね」
「それはどうも。それじゃ、私はもう寝るわ」
コーラを飲み干し、空き缶をゴミ箱に入れる。アリスは手を降りながらも私を見送った。
口で抑えながらゲップをし。用意された部屋のベッドで眠る。なれない環境下に居るにもかかわらずに、私は疲れからか深く眠りについた。
翌日。早朝の『エンタープライズⅡ』の甲板の上で、『ライド』した私たちは『エンタープライズⅡ』を去る。夜中の内に台湾の近海に到着したらしく、それっきり停泊していたらしい。
超高速で『エンタープライズⅡ』から遠ざかっていく。アリスとメリルさんは手を振って見送っていたが、ロビン少佐は腕を組んだ状態で見送っていた。
台湾の近海からわずか2時間でカンナギ市に到着する。そして、瀬戸内グループのテラスに戻った私たちは『ライド』を解除し、元の姿でくつろぐ。
「うーん。やっぱり慣れ親しんだ街が一番だね」
「そうね。色々と忙しい旅だったわ」
「まぁ、次は正攻法で旅に行きましょう。もうああいうのはごめんだわ」
二人は呆れながらも、翼が用意した卓に着く。そして、帰宅して早々にアフタヌーンティを嗜む。
「おかえりなさいませ、皆様。本日はダージリンをご用意しております」
「ありがとう。では、いただくわ」
香里奈は注がれた紅茶を口に運ぶ。ちょうどいい温度と香りで、香里奈は満足気に紅茶を飲む。
「やっぱり、翼の淹れた紅茶が一番良いわね。ティーパックで淹れた紅茶よりも格別だわ」
「もう、紅茶にはうるさいんだから」
「でも、帰ってきた感じ。中々美味しいわ」
三人でティータイムを嗜む。嗜んでいると、香里奈からある言葉が出る。
「それで? アリスはなんて言ってたの?」
「何よ。いきなり?」
「夜中に二人で話したって聞いたわ。それで? どうだったの?」
香里奈の言葉に、私はティーカップを置く。そして、アリスと話したことを二人に話す。
「軍を退役するそうよ。それからはFBIに入るって」
「また濃いところに入るね。FBIなんて、アメリカの警察じゃん」
「ロビン少佐のコネらしいわ。彼の知り合いが何にもいるらしいから、『ブレイバー』絡みで世話になるみたい」
「FBIなら安心ね。CIAとかだったら何されるか不安でしかないわ」
紅茶を飲みながら、アリスの去勢を話す。アリスを巻き込んだ背後の潤は消えた。これからはFBIとして、これまでと変わらずに動けるのは心強い。
だが、まだ『商人X』の影は残っている。奴をどうにかしない限りは、安心はできないのが実情だ。
これからは一人欠けることなく戦う事ができる。もうあんな事はごめんだからだ。
「ん……」
突然として頭の中にノイズが入る。激しい頭痛で頭を抑える。
「美羽? 大丈夫?」
美生は心配そうに私を見る。過呼吸と偏頭痛が私を襲うが、少しして落ち着いた。そういえば、パキスタンでもこんなことがあった。過去を思いだそうとすると、頭にノイズが入る感覚が出てくる。それに伴い、頭が割れそうなほどの頭痛が私を襲うのだ。
「いや、なんでもないわ」
「そう。それなら良いけど」
美生は私を支える。香里奈はただ静かに私の方を見ていた。
「まぁ、一時的に治まったのなら大事には至らないわ。それより、ティータイムを続けましょう」
「そうね。せっかく用意してくれた物ですもの。最後まで嗜んでおかないとね」
私は平然を取り戻し、紅茶を飲む。
結局私は香里奈の家で夕方までティータイムを嗜むであった。




