エンタープライズⅡ
ガンシップでアフガニスタンを後にし、インド洋に停泊している空母、『エンタープライズⅡ』着艦する。今晩の内にインド洋から引き上げるらしく、それの準備とあの作戦で負傷した兵士と亡くなった兵士の死体袋の処理を行っている。生き残った兵士たちは互いに検討しあい、時にはハグをする者たちもいる。
あれだけの凄惨な戦いだったので、生きてるだけでも運がいいものだ。
「この船は?」
私はこの船についてアリスに聞く。私のイメージする空母よりもやたらと大きいので、この船は特別性だろうか。
「これは空母『エンタープライズⅡ』。かの第二次世界大戦で活躍した空母、『エンタープライズ』の意思を継ぐ事を前提として、サイバーテロや世界中の米海軍基地から敵国を攻撃できるように設計されているの。この船は時に第七艦隊の旗艦船も務めることのあるんだ」
「ここまで近代化がなっていたとはね。まさか、こんな時に軍艦の見学ができるなんてね」
「こんな状況じゃないとできないよ。さぁ、ここがこの船の心臓部だよ」
アリスは『エンタープライズⅡ』の心臓部である司令室に案内する。司令部に入ると、その光景はまるで未来に来たような者だった。半透明な地球儀が天井近くまで展開され、その真ん中にはデジタル化された模型盤で作戦を提示していたようだ。
「ここは『エンタープライズⅡ』の司令室。ここで配属された艦隊全体に伝達して迅速に指示を送る。これが『エンタープライズⅡ』が、現代最強の空母とされているのです」
ロビン少佐の秘書であるメリルさんが説明する。ここでは配属された全ての艦隊に迅速な指示を送っているそうだ。
「あれはどう使うの?」
「このモニュメントはこのままでも使えます。でも、これの真価を発揮するには、『ブレイバー』の力が必要になります」
その言葉に、私は反応する。
「『ブレイバー』? なぜ『ブレイバー』が、この船を?」
私の言葉に、アリスは微笑む。それと同時に、メリルさんはスマホを片手に自己紹介する。
「申し遅れました。私はメリル・アンダーソン。階位は中尉であり、アリスとは軍で唯一の理解者でしたわ。よろしくお願いしますね。草薙美羽さん」
「理解者? もしかして、あなたも?」
「えぇ。私も『ブレイバー』です。これは私の『アバター』、『ハンニバル』。あなた方とは違い、私は支援タイプの『ブレイバー』です」
メリルさんは自身の『アバター』を公開する。どうやら彼女がこの船の『脳』に該当するらしい。そして、彼女はロビン少佐の表向きは愛人らしい。彼女が提示した情報をもとに、編成艦隊が効率的に作戦を実行する。それがこの船の役割のようだ。
「それと、この船に『ブレイバー』が滞在していることは内密に。これは上層部が把握していないことなので」
「まぁ、そういうことだね。『ブレイバー』のことを把握しているのは軍部だけでは少佐だけ。そうしないとやましいことを考える奴らが出るからね」
「なるほど。情報屋連中には欲しい情報ね。香里奈と美生と翼には共有しておこうかしらね」
「それがいいよ。仲間内には共有したほうがいいね」
そんなことを司令室の中で話しながら笑い合う。そして、しばらくしてから食事の時間となる。
食堂にいくと、軍人らしい食事がバイキング形式で並べられる。私たちは別室で食べることになり、それぞれが料理を持って行き食べる。
食事を終えると、メリルさんが用意した紅茶をみんなで嗜む。それと同時に、今後のことについて話し合う。
「さて、今後のことについてだけど、引き続き『商人X』の足をつかむ為に動くことが多くなるわ。でも、今回の件で一国のトップともビジネスができることが確認できた以上、アフガニスタン以上の事件が起きる可能性もある。そうなる前に、どんな手を使ってでも奴を捕まえるしかなさそうね」
「こちらでも、『商人X』については足取りを掴んでみます。テロリストが顧客である以上、反政府組織でも売買できるなら、国際秩序を厳守しないと」
「その前に、私たちは日本に帰る。戻って休息をしてから動きましょう」
みんなで今後のことを話し合う。今後の方針としては、やはり『商人X』を追うのが鉄則だろう。
今回の一件、その裏には『商人X』が大きく絡んでいると見ていいだろう。タリバンと売買したことがきっかけで、独裁国家との売買ができると確信されたら、世界は今よりも混沌とした情勢になることは間違いない。そうならない為にも、『商人X』を早く捕まえないといけないのだ。
各々が紅茶を嗜む。波の揺れがあまり感じないのが不思議に感じる。
「どこへ行くの?」
香里奈は私にどこへ行くのか尋ねる。ここで『ブレイバー』になっても、日本へは数時間もかかる。その上、『量産型機兵』との戦いでかなり疲れている。ただいまは、一人になりたい気分ではある。
「甲板の方に出ようと思ってね。夜風にあたって来るだけよ」
「そう。私たちはもう寝るわ。良い部屋を用意してくれてるみたいだし、先に美生と寝させてもらうわ」
「流石に疲れたからね。おやすみ、美羽。メリルさんに連絡したら、部屋に案内させてもられるよ」
美生と香里奈は先に寝る。いまの時刻は現地時刻で深夜の0時だ。日本もまだ夜明けではないようだ。甲板の上で夜風に当たる。整備士たちがガンシップの整備や滑走路の調整を行っている。誰も女子高生が一人夜風にあたっているなんて知る由もないだろう。
そうして時間を潰していると、アリスがやってくる。
「眠れないの?」
「いや、ただ夜風にあたってただけよ」
アリスはコーラの缶を私に渡す。私も貰った缶の口を開けて飲む。日本のコーラとは違って炭酸が強い分甘みも強い。
「今なら美羽ちゃんと二人で話せると思ってね」
「どんな話? もう戦地に行くのはごめんよ。流石に疲れたわ」
アリスは笑いながらコーラを飲む。
「いや、もう戦地にはいかないよ」
「もうって、まさか」
アリスは決心した顔で私をみる。
彼女の言葉に、私は驚くしかなかったのであった。




