これからの世界情勢
草薙美羽達がカンナギ市に帰郷したころ、アリスことアリシティア・ユーリア・ロスチャイルドは空母『エンタープライズⅡ』の甲板の上で、空を見つめていた。アリスにとってはこの三日間はかなり濃い物だった。
美羽に鼓舞される形で、彼女は自分の望む道を決めた。これから軍や国のためにではなく。自分の望むことに『ブレイバー』の力を使う。そして、親友達と共に戦う事が、これからのアリス自身の戦いになるのだと考えた。
それを後押しするように、上官であるデイビット・ロビンソン達が退役することを許してくれた。これからはFBIに属することになるが、そのほうが彼女にとって動きやすい物になる。
そう感じながら、黒のタンクトップに迷彩のズボンを履いた金髪の少女が、静かに手すりに背中を寄せる。
「よかったのか? 行かなくて」
「少佐。お疲れさまです」
デイビット・ロビンソンことロビンが、アリスの元に現れる。彼の登場に、アリスはとっさに敬礼をする。
「もういい。お前はもう軍人じゃないんだ」
「いえ、祖国に帰るまでが私は軍人です」
ロビンが手を下ろすと、アリスは敬礼していた手をおろし、手を後ろに組む。
「これからはお前一人で生きて行くことになる。FBIの知人には話してあるから、そいつに従うといい」
「はい。ありがとうございます!」
「それと、彼女達とこれからは動くといい。もし皆で対処できないことがあれば、我々を頼るといい。道に迷う子供達に道標を示すのは大人の役割だ。遠慮なく頼ると良い。退役しても、私はお前の良き理解者であり続けると誓おう」
ロビンの言葉に、アリスに涙が溢れる。軍人としても兵器としてではなく、一人の人間として捧げる言葉に感動したのだ。
「はい……。私、頑張ります! これからは軍人としてではなく。捜査員として頑張ります!」
アリスはロビンに敬意を示すように敬礼をする。
その夜は『エンタープライズⅡ』の艦内でアリスの送別会が行われた。アリスは屈強な男達に囲まれながらも料理やコーラを飲む。アリスを他所に腕相撲やビールの一気飲み対決をする兵士達。酒で酔いつぶれた兵士たちを他所に、アリスはまた『エンタープライズⅡ』の甲板に移動した。
「アテナ。聞こえる?」
『聞こえてますよ。どうなさいましたか?』
アテナはアリスの言葉に反応し、スマホから応答する。
「あなた的にはどう思った?」
『実に良いことです。これからは国や誰かのために戦わず、己の意思で戦いを決める。それも同胞達を共に立ち向かう。とても良いことです』
「ありがとう。あなたにそう言われるととても嬉しいよ」
アテナに感謝し、アリスはコーラを飲む。
『もう。彼女のことが好きなら、一緒に行ってもよかったのに』
アテナの唐突な言葉に、アリスはコーラを吹き出す。
「もう! 言わないでって約束でしょ!?」
『あら? 図星でしたか。でも、軍人としての顔は消えたみたいですね』
「うん。これからは自分の意思で戦いを決める。当たり前だけど、それが出来なかったから今は新鮮な気分だよ」
『そうですね。でも、まだ戦いは終わっていません。これからは祖国が敵になることも予想されます。充分気をつけて行きましょう』
アテナの言葉に、アリスは頷く。その顔は、祖国でさえ敵になることも重々承知している顔だ。
「そうだね。たとえ祖国が壁になろうとも、『商人X』は必ず倒す。美羽ちゃん達と一緒にね」
アリスは満天の星空を眺める。たとえ祖国が相手になろうとも、草薙美羽達と『商人X』と戦う。それがアリスの確固たる意思だったのだ。
アリスはコーラを飲み干し、空き缶をゴミ箱にいれ艦内に入る。そして、アリスは眠りにつくのだった。
その頃司令室では、ロビンが人知れず調べごとをしていた。もちろん、『商人X』についてのことだ。
先のアフガニスタンでの一件、タリバンにナノマシンを大量に売買していた人物だ。そこ知れぬ野心を持っているに違いないとロビンは考察する。
「どれも信憑性に欠ける物が多いな。これではまるで踊らされている気分だ」
FBIや井崎美生から提供されたデータを照合する。しかし、どれもこれもが信憑性に欠ける物が多く、『商人X』についての確固たる情報とは言い難い物ばかりだ。
やつを捕らえないと、アフガンでの出来事が繰り返される。そう考えるロビンは、一刻も早く『商人X』を捕まえなければいけないのだ。
「あら? 浮かない顔ね」
司令室の地球儀のモニュメントから、『ブレイバー』が現れる。白髪のウェーブのかかった長髪に、古代ローマを思わせる白を基調した衣装を身にまとった妖艶な女性が、ロビンの元に座る。
「メリル……。いや、今は『M・ハンニバル』か
「メリルでいいわって言ってるでしょ? もう、仕事熱心ね」
「君も同じじゃないか? それで? 奴についてはどうだい?」
『M・ハンニバル』こと、メリル・アンダーソンが、ロビンの座る司令席の肘掛けに座る。人間の頃とは性格が変わり、妖艶でセクシーな大人の女性へと変貌している彼女に、ロビンは頬を触る。
「この姿の私もイケるでしょう?」
「そうだな。人間の時の君も素敵だがね」
「まぁ、罪な男。でも残念ね。あっちだと仕事重視な女になるのに」
「大したことじゃないさ。それに、奴のことについて調べてくれたんだろ?」
メリルは半透明なディスプレイをロビンに見せる。そして、顧客情報とIPの検出先をまとめた情報を公開する。
「奴はアメリカにいるのか。いや、場所を転々としてテロリスト共と取引しているというのか?」
「えぇ。奴は世界各地で取引をして仮想通貨を稼いでいるそうよ。その資金であの機体を多く生産しているみたい」
「それの確認の為に、アメリカに来ているのか? 奴が作っているのはやはりあれか?」
「正解、『量産型機兵』ね。奴はダークウェブで稼いだ金をすべて、『量産型機兵』の作成にあてていると見ていいわね。最終的には、これらをすべてテロリストや反政府ゲリラなどに売り付けるみたいよ。それも、ダークウェブを通じてね」
メリルの話に、ロビンは冷や汗をかく。彼が危惧する経済活動が、日に日に加速していっている実情に思わず固唾を飲む。
しかし、彼は焦ることなかった。なぜなら彼女達がいるからだ。彼女達ならあの兵器を破壊してくれる。それだけで彼にとっては安堵できることなのだ。
「彼女達なら止めてくれるだろう。なに、心配はいらないさ」
「そうね。あの4人の『ブレイバー』なら、大丈夫よ」
ロビンとメリルは半透明なディスプレイを見ながら、これからの戦いを考察する。今度の相手は大きな相手となる。それでも彼女達は戦うのだろう。
それを支えるのが、大人の役割だと二人はそう自覚する。彼が道を違えないよう、彼らはそれを示して行けばいいのだ。
「では、私は戻るわ。また何かあれば知らせるわね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
メリルは再び地球儀のモニュメントに入る。ロビンはただ、それを見届ける。
こうして、大人達の密会は終わり、ロビンは艦内の自室に戻るであった。




