決心
アリスを見送ったその夜、私は彩葉が作った唐揚げを食べながら時間を過ごしていた。ネットニュースでは、アメリカ軍艦が今日カンナギ港を出港したことを大々的に報じている。それをただ眺めていると、彩葉が声をかけてきた。
「お姉ちゃん?」
「ん?」
「どうかしたの?」
彩葉が心配そうに私に声をかける。滅多にないことらしく、心配しているみたいだ。
「いや、なんでもないわ。それより、今日の唐揚げは美味しいわね」
私の微妙な反応を見て、彩葉は頰を膨らませる。
「お姉ちゃん、すごい抱え込んでるみたい。何かあったの?」
彩葉は私を気にかけている。こうなると、1人で抱え込むのは野暮というものだ。
そう思い、彩葉にアリスのことを多少オブラートに包み込んで話す。
「軍人の友達がいてね。そいつが浮かない顔をしていたの。そしたら、作戦で戦地に行くんだと。でも彼女は私たちとの時間を大切にしてくれていた。国家権力もあったから、私は彼女を見送ることしかできなかった。困ったものね。どんなに友情を深めても、権力の前では何もかも無意味になるなんて」
彩葉は私の言葉を淡々と聞く。すると、彩葉の口から思いのよらない言葉が発せられる。
「お姉ちゃんがやりたいようにやって良いと思う」
「え?」
「だってお姉ちゃん、友達のためならどんなことをしてでも助ける人だもん。本当は助けに行きたいけど、それができないのはお姉ちゃんらしくないよ。お姉ちゃんは人の痛みが良くわかる人だから」
彩葉の言葉に、私は少し吹っ切れた感じがする。そうか、私はいつもそうだった。始めは彩葉との日常を守る為に『ブレイバー』になった。でも気がつくと私には仲間もでき、その分だけ守る対象も出てきた。それが国家の権力で打ち砕かれようとしている。なら、逆に打ち砕いてやればいい。シンプルにそれを壊せば良いのだ。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんならそれができるから。国家権力なんてぶっ壊しちまえ!」
「トンデモ発言なのはわかるけど、ありがとう。なんだか吹っ切れたわ」
彩葉の顔を見て、私は笑う。それを見た彩葉も一緒に笑い始める。
「私、お姉ちゃんのこと待ってるから。何をしているかは聞かないけど、必ず帰ってきてね」
「ありがとう。あなたのその言葉聞きたかった」
彩葉は食器をおき、私に抱きつく。顔を私の頭にくっつけると、そのまま抱く。私も抱き返すと、お互い離れる。気持ちが晴れた私は冷め切った唐揚げを食べ終える。
食器を洗うと、私は散歩に出る。彩葉は私を見送ると、私は扉を閉じる。しばらく歩き公園に着く。人がいないことを確認し、スマホに手をつける。
『特に敵はいないわ。『リンク』しても意味はないけど?』
「いや、私の気分だから。付き合ってくれる?」
『私はあなたの『アバター』。主人の命には服従するわ』
ブリュンヒルデは私の行動に渋々従う。私はスマホに手を触れ『ライド』する。カンナギ市の上空に飛び立ち、カンナギ市が見えなくなるくらいまでの高度まで飛び立つ。流石に『ライド』した姿でも、元が生身じゃ酸欠になって死ぬので、酸欠にならない程度の高度で止まる。そして、『ウィングユニット』を広げ、倒れるような体制になる。
「ずっと考えていた。この力がなんのためにあるのかを。でも、いざ仲間が死ぬかもしれない戦地に送られる時に、自分の無力さを痛感すると、人間その価値を考え始める。だけど、大切な人に鼓舞されると不思議と吹っ切れる。私の力は大切な人を、親友を守るためにあるんだと」
『そうね。力の価値は皆それぞれよ。この力はあなたが好きに使えばいい。皆そのために力を蓄え、磨き上げる。反則や特別な力なんて誰しも持ってる訳がないわ。模倣は所詮模倣でしかない。真に力の価値が発揮されるのは決心した時よ』
「そうね。私は私の為すべき事を全うする。たとえ相手が国だろうが思想だろうと構わないわ。私は私の現実を生きる。そして、私の大事なものを守る。それが私、『M・ブリュンヒルデ』の戦いなのだから」
私はその場で一回転し、カンナギ市の上空を飛び回る。一束に纏めた三つ編みが風でなびく。しばらく飛び回ったのち、先ほどいた公園に着地する。着地と同時に『リンク』を解きベンチに座る。
『これからどんな戦いが起きるかは予想ができないわ。でも、あなたなら打開できると信じているわ』
「AIのくせに、随分と適当ね」
『必ずしもAIの回答が絶対とは限らないわ。人間はそれを無心に信じるけど、間違えてる事は絶対にあるのだから』
「すごい皮肉ね。でも、最後に決めるのは自分自身。記録とやり直しなんて無いから、その道を進むしかない。だから戦うのよ。悔いのない選択を選んだ先に、より良いものにするためにね」
ブリュンヒルデは私の言葉に頷く。AIでも、その言葉には同意しているみたいだ。
「そうと決まれば、美生と香里奈にも話さないとね。帰りましょう、ブリュンヒルデ」
『えぇ、これまで以上に激しい戦いになりそうね』
私は帰路に着く。家につくと、小休憩を挟んで風呂に入る。風呂から上がると、髪を乾かして寝る準備をする。
戦いは近い。相手は『商人X』とアメリカ、そのどちらかはたまた両方が相手になるだろう。そうだろうと構いはしない。友達を守れるならそれでいい。
そう思い、私は目を閉じて眠りに付くのだった。




