煮え切れない気持ち
それからというもの、眠れずにずっと古い映画を見ていた。どれも一度は見たことのなる作品だったが、3本を見ているうちに登校する時間帯になっていた。
彩葉は帰ってきていたみたいで、なんだかんだで一緒に登校する。0時から起きているとはいえ、7時間弱起きているのは体に来るものだ。
案の定授業に集中できなかった。聞いている内容はすでに頭に入れているので、退屈で仕方なかった。アリスへの思いもあり、ずっと画面ではなく窓を見ていた。
それからしばらくして、昼休みに入る。教室で美生を待つと、2人で屋上まで上がって昼食を取る。
「美羽、退屈そうにしてたね。まるで授業がもうしっかり入ってるみたい」
「もう聞き飽きたわ、あんな授業。最初のやつで充分わかるわよ」
彩葉が作ったバケットサンドを食べながら、授業の愚痴を言う。美生もおにぎりを食べながら私の愚痴を聞く。
「予習なんて、あとでクーフーリンが聴けるしね、それに、今はアリスのことでそれどころじゃないんでしょ?」
美生はストレートにアリスのことを言う。確かに、今はアリスのことで頭がいっぱいになっている。今日の18時ごろが軍艦の出航時間になっている。6限までなので15時には終わり、そこからは香里奈を乗せたリムジンでカンナギ港に向かう。
だが、私は気持ちが煮えたぎっている。このままアリスを送り出すべきではないとそう感じている。そんなことをしたら、アリスが軍法会議にかけられるので、深追いはしなかった。
でも、友達を失うわけにはいかない。どうにかしてアリスを引き戻すか考えるが、そうともいかないのが辛い現実だ。
どうにかして、この気持ちに折り合いをつけなければいけないのはわかっている。だけど、ともに戦う仲間が理不尽な命令で死なれるのはもっと不快だ。
「やっぱり行くべきではないわ。なんとか止められないかしら?」
「難しいよね。でも、きっと帰ってくるよ。今はそれを待つしかないと思う。変にやれば、国家間の問題になったりして面倒だよ」
「それはそうだけど。でも、今は諦めるしかなさそうかしら?」
美生の考えに私は渋々賛同する。一般人が軍人を引き止めようとすると、余計にややこしくなるのは確かに同感ではある。けど、それでもアリスを引き留めたい気持ちが我ながら強いと感じている。そんな気持ちを抑えながら、昼食を食べる。
「それに、香里奈がアリスが無事に帰ってきたときに瀬戸内グループに引き止めることを考えているみたい。アフガンでのことが終わったら、香里奈に任せておこう」
「そうね。でも不思議ね。どこか煮え切らない感情が胸の奥に感じる」
胸の奥に感じる気持ちをなんとか抑えながら、午後の授業に出る。授業が終わると美生と合流して下校する。下校すると、リムジンが止まっていた。生徒たちは止まっているリムジンに注目する。
歩いていると、リムジンの窓が開く。すると、香里奈が顔を出してきた。
「意外と早いじゃない? もう少し遅いと思ったわ」
「香里奈……。そんなところで止められると余計目立つじゃない」
「さすが大企業の社長……。考え方が違うね」
香里奈はキョトンとした顔で私たちを見る、リムジンになんて見る機会がないので、生徒たちはスマホで写真に収める。
周囲を見た私たちは、そそくさとリムジンに乗り学校から離れる。
「珍しいわね。車椅子は?」
「そこにあるわ。このリムジンは少し高めなのよ。そうじゃないと、車椅子なんて出せれないもの」
「介護の車ってこう言う車が多いからね」
何気無い会話していると、翼はある動画をみせる。
「香里奈様ったら美羽さんたちとあった瞬間に雰囲気変わりましたね。さっき役員会終わった時にブチギレてたのに」
私と美生は翼が見せる動画をみる。そこには、車椅子で部屋に入る香里奈が写っていた。香里奈は何かを感じ止めさせようとする。
『あああああ! あのジジイ共、好き放題言いやがって! テメェらの給料下げてやらぁ!』
翼からの動画を見て、私はドン引きをし、美生は乾いた笑いをする。役員会で無礼な発言があったのか、香里奈は部屋に入って大声でブチギレていたようだ。
「あ、ああ」っと香里奈は慌てふためく。
「香里奈、あなた相当キテるじゃない」
「すごいね……。とても社長とは思えないブチギレ方だね」
私と美生それぞれ呆れながらもコメントする。そして、プルプルと震えながら、香里奈の怒号がリムジン中に響き渡った。
「うるせぇ! 私がブチギレたって良いじゃねぇかよ!」
目の眼光を赤くしながら、香里奈はブチギレる。ブチギレると口調が変わるのは、彼女曰く母の遺伝だそうだ。
こうしているうちにカンナギ港に到着し、停泊している米軍艦を見つめる。すると、軍服を着たアリスがこちらを見つめる。話したくとも、そんな時間はなく軍艦の方に向かう。
「本当によかったの?」
「よくはない。だけど、今はこれしかないわ」
「あなたらしいわね。でも、黙っているあなたじゃない。そうでしょう?」
香里奈の言葉に、胸を抑える。煮え切れない思いは刻一刻と増していく。
軍艦の錨が上がっていく。そして、船の大音ともに軍艦は出港していく。アリスは一切手を降ること無く、軍艦は遠のいていく。
権力の前では、たとえ『ブレイバー』であっても無力なのだと痛感する。
「行きましょう。今はただ生還するだけを祈るだけよ」
「そうだね。私たちは私たちのことをしよ」
美生は香里奈の車椅子を押しながらリムジンに戻る。それでも私は、ただ去っていく軍艦を見ている。
美生の言葉にリムジンに入り、私たちはそれぞれの家に帰るのだった。




