データの残滓
白い靄が晴れ、周囲が赤黒く禍々しい空間に入る。その光景はまさに、大きな戦争で滅びた大都市に似た光景だった。
こういう光景は映画でなんでも見たことはある。だが、自分で見ると感じたこともない重圧を感じる。
「ここが『暗黒階層』。こんなところが、『電脳世界』の真下にあったなんてね」
「元々のネットワークから存在しているわ。今のネットワークになってから、こういうアンダーグラウンドのようになっているけど」
私は歩を進める。すると、気配を感じ後ろを振り向く。なんと、凶暴なモンスターのような怪物が私たちを強襲する。私がモンスターの攻撃を避けると、モンスターを倒しては『正宗』でコアを突き刺す。
「これは一体?」
「『表面階層』じゃ見ない奴だな。私も初めて見たぜ」
私と香里奈は奇怪なモンスターを見て驚く。ウィルスだとしても、『表面階層』では見たことのない類だ。
モンスターの死骸を見ながら美生は説明する。
「こいつらは、『暗黒階層』ウィルスよ。ここではウィルスでさえ私たちが戦ったウィルスよりも何倍も強いわ」
「これは中々骨のある奴らだね。ほら、もう囲まれているよ」
アリスの言葉に上を見上げる。凶暴なウィルス達が、私たちの方を見ながらうめき声をあげる。そして、雄叫びとともに私たちに向かって強襲する。
「やばいわ! 逃げましょう!」
美生の言葉に私達は急いでその場から逃げる。凶暴なウィルス達が群れを成して私たちに襲いかかったのだ。一体ずつなら対処できるが、あれだけの数が相手だと、流石の私も逃げざる負えない。奴らが去ったの確認し、私達は安堵した。
「おいおい! いくらなんでもあれはまずいだろ」
「一体ならまだしも、群れを成して来るなんてね。『トロイの木馬』とやり合った時以上に危険だよ」
「どうする? 奴らに気を取られてるばかりでは、何も取れないわよ?」
美生にどうするか質問する。『暗黒階層』にあのような凶暴なウィルスが多い以上、無闇に行動することができない。そう考えていると、美生はあることを思いつく。
「『深層階層』にあったここへの門の前で戻れるようにするわ。なるべく遠くへは行かず、この周囲で探しましょう」
「癪だか仕方ねぇ。死ぬよりはマシだ」
美生の提案に乗り、私達は『暗黒階層』を散策する。ウィンドウは常に警戒を示すアラートが表示されている。出ている情報が危険極まり無いものが多く、その中で『商人X』のデータの残滓を探すのは困難だ。
「これはまずいな。見つけた奴がどれも個人情報ばかりだぜ」
「『ブレイバー』の姿でいられるのが不思議なくらい、アラートがずっとなっているね。少し油断しただけで命の保証がないよ」
香里奈とアリスは発見したデータを見てドン引きを隠せない。抜き取られた個人情報や企業の情報、はたまた違法な動画などが散見する。
胸糞が悪くなったのか、その都度発見したデータを破壊する。『暗黒階層』ではこれが常識なのだろう。まさに不毛地帯と言っていいだろう。安易には立ち寄れないのも頷ける。
そうしていると、私は紫色に光る石のようなものが見つける。
「これは?」
私が見つけた石を眺める。それを見た3人は私に近寄る。
「一旦戻って解析しよう」
アリスの言葉に、私達は『深層階層』に戻る。『深層階層』に戻ると、紫の石を美生に渡し解析をさせる。
「どうだ? 何か出たか?」
「待ちなさいよ。今解析中だから」
美生が半透明のキーボードで先ほど取った紫の石を解析する。しかし、解析には少々時間を要しているみたいだ。
「ダメね。削除されているデータの残滓だから、復元から手を付けた方が良さそうね」
「どれぐらいかかるの?」
「復元、アクセス等で普通なら48時間はかかるわね。私のならその半分でできるけど、それでもフルで1日はかかるわ」
「寝ずに1日か。8時間で分けたとしても3日は余裕でかかるね。そうしているうちに、『商人X』が何をするかわからないよ」
アリスの冷静な分析に、私達は唖然とする。美生の技術があったとしても、これだけの時間を要するとは思ってもいなかった。
しかし、これだけでは『商人X』の痕跡とは言い難い。
「何回も言って残滓を取るしかないわね。これだけでは、奴の足を掴むには物足りないわ」
「そうね。まぁ復元はツールを使えば自動でできるから、まずは残滓の採取が優先ね」
私達は再び『暗黒階層』へと足を踏み入れる。アラートがウィンドウに表示され続けるが、それでも残滓を取り続ける。
途中で凶暴なウィルスとの戦闘になり、その都度ウィルスを撃退する。
「こんなのばっかり相手してると、上のウィルス達が雑魚にしか思えないな」
「よく言うわね。まぁ、どんなやつでも倒せれば問題ないわ!」
それぞれの『ウェポン』を振るいながら、ウィルスを撃退していく。だが、一行にして『商人X』のデータの残滓が見当たらない。そうしているうちに探索開始から6時間が経過した。
今だに発見できたのはさっきの残滓だけ。私達は休憩のため、『深層階層』に戻ろうとした。
その時だった。
「あれ?」
美生が異変に気づく。
「どうかしたの?」
「おかしいわね。『深層階層』に戻ることが出来なくなっているわ」
「そんなわけないだろ? 翼、私たちを『深層階層』に戻してくれ」
香里奈は翼に通信をする。だが、翼からの通信が入らず、ノイズだけが聞こえてくる。
「冗談だろ? 翼からの通信が途絶えてやがる」
「はぁ!? それって、もしかして?」
私は上から見下ろすウィルス達を見上げる。この状況を察するに、私達は『暗黒階層』に幽閉されたようだ。
「どうやら、私達は『暗黒階層』に閉じ込められたようね。これでは、奴のデータの残滓を見つける暇はなさそうよ」
「そうだね。このままでは私達の体は昏睡したままになるだろうね。まずは退路の確保が最優先だ」
身構える私とアリスに、美生と香里奈もまた身構えをする。
「やっぱりこうなるのね。まぁ、そのほうが性に合っているけど」
「どこかにロックしている奴がいるな。そいつを探すか、お前がこじ開けるかに二択だがな」
「そんなのわかってるじゃない。無理やりにでもこじ開けてやるわ!」
美生が『ゲイボルグ』を回転させながら構える。周囲には凶暴なウィルスたちが蔓延る。
私達は脱出のため、『暗黒階層』の中で戦い始めるのだった。




