『商人X』の痕跡
井崎美生は自身のPCに入ったランサムウェアを排除すると、そのまま『電脳世界』に入る。『電脳世界』に入ると、摩天楼を飛び降りる。摩天楼を降りると、彼女のウィンドウに危険を示すアラートが表示される。
『ここから先は『深層階層』に入るわ』
「そうみたいね。権限にハッキングして行くわよ」
美生は『深層階層』内の遷移権限にハッキングする。すると、自身が作成した偽造アカウントを元に、『深層階層』の中に入った。
『深層階層』の中は薄暗く、会員制のコンテンツや小規模の機密情報がかなりの多く展開されている。空を見ても、かなり暗く、それはまるで深海にいるような風景だ。
「いつ見てもいい気分じゃないわね。クーフーリン、『暗黒階層』までの道は?」
『ここからさらに深度50km辺りね。また下に降りる事になるわ』
「また降りる場所を探すしかないわね。飛べばすぐだけど」
美生は『ウィングユニット』を展開し、『深層階層』の空を飛ぶ。機密情報で溢れたこの領域では、ハッカーにやられないよう、セキュリティが動いている。美生はセキュリティの視界に入らないよう軽快に移動する。
「重要施設のサーバーはやっぱり厳重ね。まぁ、そんなことはする気も微塵もないけど」
美生はさらに『深層階層』の中を進める。そして、探していた飛び降りができる場所へと着いた。
「ここからなら、『暗黒階層』に行けるわね。クーフーリン。『onion』を起動させて」
『了解。『onion』を起動させるわよ』
玉ねぎのようなバリアが美生の範囲を包み込む。それにより、美生基『M・クーフーリン』の存在が簡単に把握できず、匿名性が向上した。
「これで『暗黒階層』に安心して入れるわね」
『でも気をつけて。どんなに安全な物でも、あそこは何が起きるかわからないわ』
「そうね。やばくなったらすぐに帰還するわ」
美生は飛び降りて『暗黒階層』に向かう。降りて進むば進むほど、風景は赤く禍々しくなる。当然ウィルスなども存在する。それも『表面階層』よりも強力な類だ。
言葉で表現するなら、『暗黒階層』内のウィルスたちは、ゲームでいうところの上位種の怪物なものだろう。獣人のようなものがあれば、強力なモンスターのようなものまで悪い意味で多種多様だ。
そんなモンスター達を、美生は『ゲイボルグ』で突き刺していく。『Ζ』の能力で音速に域に達している美生の相手にはならず、襲いかかるウィルスを討ち払う。
「やっぱり、ここのウィルス達は強力ね。どれも地上とは段違いだわ」
『『暗黒階層』はまだ先よ。このまま降りるわよ』
美生は現時点でのスピードを維持したまま、『暗黒階層』に向かって降りる。そして、『暗黒階層』に到着した。
「ここが『暗黒階層』……。ハッカーとしてはなんでも訪れてるけど、『電脳世界』では初めて来たわ」
『まさにアンダーグラウンドね。いい? 強制帰還をウィンドウに表示したわ。やばくなったら行使しなさい!』
「言われなくて、そうするわ。さぁ、行くわよ!」
美生は『暗黒階層』の中に入る。予想していた通り、そこはまさに闇に落ちた世界だ。クーフーリンの警告どおり、見ただけでも危険を感じる場所だ。いつ汚染されてもおかしくない。そんな緊張感の中で、美生は『商人X』の痕跡を探し始める。
普段余裕ぶって相手を嘲笑する彼女に、死と隣り合わせの緊張と重圧を感じる。『暗黒階層』の中を歩いていると、ウィンドウのアラートが鳴り響く。
「クーフーリン。囲まれたみたいだわ」
『ビンゴ。強力なウィルスどもに囲まれたみたいね。それも結構な数よ』
ウィルス達が雄叫びをあげながら美生に襲いかかる。美生はウィルスの攻撃を避けると、攻撃したウィルスに向かって『ゲイボルグ』を投げる。『ゲイボルグ』がウィルスに刺さると、ウィルスは消滅し『ゲイボルグ』は持ち主のところに戻る。
「まとめてやるわよ。『ギリシア・コード【Ζ】。アーク・ストライク』!」
『アーク・エネルギー』を解放し、音速の勢いでウィルス達を殲滅する。
「上とは違うわね。まさかこんな奴ら相手に『Ζ』を使うなんて」
『急ぐわよ! 奴の痕跡が消される前に!』
美生は『暗黒階層』の中を進む。赤く禍々しい空間を飛行しながら進む。進み連れ、徐々にウィルス達が迫ってくる。美生はそれらを排除しながら『暗黒階層』の中を進む。すると、紫色に輝く光を見る。
「これは?」
『解析するわ』
クーフーリンが謎のデータを解析する。しかし、クーフーリンは難色を示していた。
『これは少々面倒なことになりそうね』
「どういうこと?」
『恐らくはデータ上で削除された履歴の残滓ね。解析が進めば奴の情報が割り出せられるけど、私ではかなり時間がかかりそうね。まぁあなたなら、私の倍以上に縮められそうだけど』
「ならこれを奴の痕跡として採取しましょう」
美生はクーフーリンに『商人X』のデータの残滓を保存させる。『暗黒階層』内では、アカウントを消したとしても、データは残滓と残る場合が多いのだ。その為、ネットワークでは入手できない削除されたデータも、残滓として『暗黒階層』内に残る。それが起因で個人情報等が盗まれることも珍しくない。
「それそれ戻りましょう。こんなとこで死にたくはないし」
『そうね。強制帰還を実行するわ』
クーフーリンが美生の意識を元の肉体に戻す。
かくして、危険を伴う『暗黒階層』の散策を終え、井崎美生は目覚めるのだった。




