浮かない顔
アリスとの訓練が終わり、私たちは帰路につく。時刻は18時。高校生が家に帰るには充分な時間だ。リムジンに乗り、家へと向かう。
「今日もまた疲れたね」
「そうね。『商人X』がいる限りは休めそうにないけど」
「そうだね。早くなんとかしないと」
ここ連日の戦いで、体が疲弊している。少し休みたいところだが、敵が都度姿を隠す相手なら休みようがない。現に今、世界中でテロが頻発に起きている。
そんなことを考えていると、アリスがまた浮かない顔をしていた。どうも気になる。少し声をかけてみるのもいいのだろう。
「どうかしたの?」
私が声をかけた瞬間、アリスは驚いたような反応をする。
「え? な、なんでもないよ」
「大丈夫? さっきから浮かない顔しているけど?」
「なんでもないよ! 大丈夫だから!」
アリスは頑なに平然を装う。本人が今は話したくないのなら、致し方ないだろう。無理に話すほうが横暴だろう。
そんなことを考えていると、美生の家につく。美生は車から降りる。美生が見送ると、リムジンは発進した。
「明日も行くの?」
「『商人X』の足が掴めていない以上、続くと思うわ。明日で足が掴められればいいけど」
「そう。ならまた明日だね」
また浮かない顔をしていたアリスは、私の方を見ながら話す。やっぱり気になってしょうがないが、今はいいだろう。
私の家の前にリムジンが止まる。
「それじゃね、アリス。また明日待ってるわ」
「うん。また明日」
アリスを乗せたリムジンを見送る。リムジンが遠退くを見て、私は家に入る。家に入ると、彩葉が夕食の準備をしていた。
「おかえり、お姉ちゃん。今日は早かったね」
「ただいま。まぁ色々とね」
カバンをソファーにおき、テーブルに着く。今日は彩葉の得意料理のオムライスのようだ。
「オムライスね。彩葉の得意料理だったわね」
「うん。最近お姉ちゃん疲れ気味だから、たまには私が夜ご飯作るのもいいかなって」
「ありがとう。なら明日の朝は私が作る番ね」
他愛もない会話をし、オムライスを食べる。卵のふんわり感もあって絶品だ。
「やっぱり彩葉の作るオムライスが一番美味しいわ。店で食べるやつより格別よ」
「ほんと! ありがとう!」
彩葉は喜びながらテーブルに着く。そして自分が作ったオムライスを食べ始めた。
「最近、香里奈さんのところに行くことが多いけど、どうしたの?」
彩葉の唐突な質問に驚く。こんなことを言う子じゃなかった筈だけど、気になるものは仕方ない。変に心配されたくないので、適当に理由をつけておこう
「就職のための勉強よ。私、大学にはいかない事にしてるのよ」
「えぇ? 勿体無いよ。お姉ちゃん、頭いいし」
「そうかな? でも、彩葉との時間が私は大事だから」
「もう! お姉ちゃんはいつもそういうんだから」
彩葉をからかいながら食事を進める。食事が終わり、彩葉が食器を洗う。テレビを見ていると、カンナギ港での一件が流れている。『トロイの木馬』についても報じられていたので、それほどの大ニュースだったのだろう。もちろん、私たちが木馬を破壊したことは報じられない。『ブレイバー』のことは報じられないほうがいいのだから。
夜も更け、風呂に入る。色々動いた後の風呂は格別なのだ。風呂に入っていると、誰かが入ってくる。
「彩葉!? どうしたの!?」
「え? あ、あぁこれは違うの!? ただ、お姉ちゃんが入っているなんて知らなくて……」
彩葉が風呂に入ってきた。どうやら私が入っていることに気がつかなかったみたいだ。彩葉は慌てて風呂から出ようとしている。せっかくの裸の付き合いだ。私は彩葉に入るよう促す。
「せっかく来たのだから、一緒に入りましょう?」
「い、いいの?」
彩葉申し訳なさそうに風呂場に入る。しばらく彩葉は体を洗い、私の入っている浴槽に入る。
「こうしているのも久しぶりね。いつ以来かしら?」
「もうだいぶ昔だよ。お姉ちゃんも私もすっかり大きくなったから」
「そうね。たまにはいいわね」
彩葉の頭を撫でながら、浴槽に浸かる。
「お姉ちゃん? どうしたの、浮かない顔して」
「いや、少し考えことをしてたの」
「それってどんなこと?」
彩葉は私の浮かない顔が気になって顔を向ける。
「友達のことを考えてたの。何か悩み事があるんじゃないのかなって」
「そうなんだ。お姉ちゃんもそんな時もあるの?」
「そうね。みんなそんな時があるのも仕方ないわね」
アリスのことをオブラートに包んで話す。確かに、アリスは今日ふとした時に浮かない顔をしていた。おそらく、何か大きなことが起きるのだろう。
彼女は軍人だ。私のような旗から見れば普通の女子高生とは違うところで戦っている。野暮だと思うけど、仲間として聞くべきではないのだろうと思う。
しばらく湯船に浸かり、彩葉の髪を触る。彩葉は少し照れくさそうに私をみる。のぼせないうちに私たちは湯船から上がった。
「ねぇお姉ちゃん」
彩葉が唐突に話しかける。
「私、受ける高校はお姉ちゃんと同じところ受けたいんだけど、いいかな?」
「いいわよ。この家なら、あそこのほうが近いから」
「ほんと?」
「えぇ、彩葉の好きにすればいい。私はむしろ賛成だけど」
彩葉が嬉しそうな顔をして私をみる。彩葉の笑顔を見ていると、私も自分のことのように嬉しかった。
深夜に回ろうとした時、私たちは就寝に入るのだった。
この言葉がのちに彩葉を縛る事になるとは、その時の私は知るよしもなかった。




