アリスの帰還
カンナギ港を『トロイの木馬』から解放してからすぐ、アメリカ海軍に軍艦がカンナギ港に停泊した。あれから少しして、セレモニーは無事に行われたようだ。野次馬が軍艦を写真に収めているのを見ながら、私と美生はアリスの到着を待つ。
しばらく待っていると、軍服を来た金色の長髪をした軍人もとい、アリスが軍艦から降りてきた。アリスは私たちに気づくと、私たちの方に近づく。
「お待たせ! あれから色々とかかっちゃった」
「お疲れ様。待ちくたびれてたところよ」
アリスのしっかりとした軍服をまじまじと見る。これが軍人の正装なんだと感じる。
「どうかしたの?」
「いや、別に。それより、どうだった? 遠征の方は」
「いつもと変わらないよ。ただの訓練のための派遣だったし」
「なるほど。アメリカ軍は定期的に訓練で遠征に行くから仕方ないよね」
3人で他愛もない会話をする。すると、セレモニーから戻ってきた香里奈が合流する。
「3人だけで話すなんて、関心しないわね」
「あ、香里奈ちゃんだ」
「香里奈もお疲れ。セレモニーはもう終わったの?」
車椅子を運転しながら、香里奈は役員達の方を見る。
「年配者に無駄話に付き合うのは疲れるわ。ほら、まだあそこで話している」
「話が好きな人たちだこと。飽きないのかしらね?」
「役員なんてそういうものだよ。ああやって時間を潰すことしかできないんだから」
美生は皮肉を込めて奥の光景を見る。実際問題その通りでもある。こうして見ていると、ただの時間潰しにしか見えない。彼らには大事なことだろうが、側から見ればそうには見えないのだ。
「まぁ、ここでいるにもあれだし、私の家に行きましょうか。積もる話もあるだろうし」
「そうだね。これまでのことを照らし合わせたいしね」
2人はリムジンの方に向かう。私も向かうが、アリスが何か浮かない顔をしているのを見る。
「どうしたの?」
「あ、なんでもないよ! さぁ、行こう」
首を傾げながら、アリスとリムジンに向かう。本人がなんでもないのなら、今は追求しないでおいた方が良さそうだ。
しばらくリムジンに乗り、瀬戸内グループ本社ビルこと香里奈の家につく。それぞれがソファーにつきながら、紅茶を片手に話し合う。もちろん、議題は『商人X』についてだ。
「今回の件だけど、やはり後ろには『商人X』が絡んでいると思う。翼が『トロイの木馬』を解析してくれたところ、ハッキング元はロシアのハッカーと見ていいかも。どうやら、ダークウェブを通じて『商人X』から買ったものだろうね」
「やっぱりいたのね。気になるのは、彼がテロリストやハッカー組織に取引しているのか。それがまず気になるところね」
先ほどの戦闘を録画して動画にしたものを4人で見る。横のウィンドウでは、『トロイの木馬』の送信元の情報と、木馬が入っていたと思われるメールのコピーが表示されている。
空のテキストファイルが表示されていると、今は何も起きていないようだ。
「ただのテキストファイルだね。もしかして、これに『トロイの木馬』が?」
「そう。これを介してカンナギ港のサーバーのPCが感染されて、カンナギ港全体でシステム障害が起きたってことになるね。でも、奴の目的がこれだけでもまだ不可解なところがある」
「奴がダークウェブ上で取引を繰り返している以上、次に何が起きるかもわからない。それまでに止めたいけど、また逃げられたようね」
美生がもう一つのPCを開く。そこから見える情報では、『商人X』のアカウント情報が消えていることを確認する。
「まただよ。『商人X』が使っていたと思うアカウントがサイトから消えているんだ」
ダークウェブ上に展開されているショッピングサイトを見る。どうやら、『商人X』が使っていたと思われるアカウントがまた消えていたようだ。
それを見ていたアリスは、ある情報を私たちにいう。
「それなら、今FBIもCIAも追っている人物だよ。私も、その情報をCIAにいる友人から聞いた」
「それってどんな情報?」
「大体のことはみんなと一緒だけど、知っている情報だと、シルクロードに匹敵する品揃えを完備している人物らしいの。メキシコで起きた自爆テロも、そこから仕入れたものではないかって情報が出回っているけど、一回の売買の取引をしたら消えるって言ったわね」
「アカウントを分散させるためにそうしている可能性が高いね。それなら、ホワイトハッカーやFBIに足を掴まれないようにしているのも明白だね」
アリスの情報を聞いて、美生は納得する。どうやら、美生の言う通り彼はアカウントをいちいち変えて動いているようだ。
しかもこの街だけでなく、世界中のテロに加担しているようだ。密輸した武器から、ウィルスまでなんでもござれときた。これでは足を掴むにも時間がかかりそうだ。でも、一刻も早く『商人X』を止めなければいけない。もし仮に彩葉がなんらかのテロに巻き込まれた溜まったものじゃない。そうならないためにも、早く奴を止める必要があるのだ。
「でも、今日は疲れたわね。一旦は帰りましょうか」
「そうだね。香里奈ちゃん、あそこ借りていい? それと美羽ちゃん、ちょっと付き合って」
「別に構わないわ。でも、彩葉が心配にならならようにしてもらいたいわ」
「もう、相変わらず彩葉のことが好きね」
香里奈は呆れながらも、下の階に案内する。
私とアリスは、唐突に手合わせをするのだった。




