テロリストの魔の手
訓練で疲れて寝た後、私は深夜にふと目覚める。目覚めてすぐにベットから起き上がるとフロアのロビーへ向かう。
フロアの窓が空いているのを見つけ窓の方へ向かう。そこには車椅子に付けられているテーブルでPCを開いている香里奈がいた。
「あら。起きたのね」
「香里奈こそ、こんなところで何を?」
香里奈は真夜中のカンナギ市を一望できるテラスでPCを触っている。これも瀬戸内グループの社長の責務なのか、常に忙しいのかもしれない。
テラスでPCを操作する香里奈は、ただ黙々と画面を眺める。
「会社の業績の管理よ。うちはグローバルでやっているから、外国の支社との会議もこの時間でやることも多いわ」
「大変ね。ゆっくりと休めそうにないわね」
私はコーヒーをマグカップに入れる。
「私はいいわ。紅茶じゃないと飲まないわ」
「そう。それにしてもいい風景ね」
「この場所はこの時間が一番いいのよ。人の流れがなくても、街は起きていると思い出させてくれる。だからいつもここで1人になるのが至福の時よ」
「随分と寂しいこと言うわね。でも、1人になりたい気持ちもわかるわ」
テラスの椅子に座る。コーヒーを飲みながらカンナギ市の夜景を眺める。港の風景が幻想的に美しく映る。
「美羽はどう思う?」
「どう思うって何が?」
香里奈はあることについて私に質問する。
「アリスのことよ。彼女はアメリカの軍人である以上、政府の圧力で私たちのことを言うかもしれない。だけども私たちに協力的なのも不思議よね」
「いいんじゃない? 本人にその意思がない以上はそれでいいわ」
コーヒーを啜りながら、香里奈の疑問に答える。アリスのことを少し気になっていたようだ。
彼女は軍事でありながら、『ブレイバー』として私たちに協力している。それが少し疑問に感じているらしい。
だが、彼女が訓練を提案してくれたのは事実だ。それほどまでに、同胞がいたことが嬉しかったのだろう。
そう思いながらコーヒーを飲む。しばらくカンナギ市の夜景を眺めていると香里奈が片付けを始めた。
「もういいの?」
「やることはもう終わったわ。そろそろ寝ないと」
香里奈は車椅子を操作しテラスからフロアに戻る。明日は約束通り料理を作らないといけない。
献立を考えながら夜景を見ていた私のコーヒーは、飲み切る頃には冷めていた。
翌日の朝。私はフロアのキッチンで朝食を作っていた。翼が用意してくれた食材を使い、皆の食事を作る。
普段は彩葉の分と一緒に作るが今日は美生達の分を作っているので、時間はいつも以上にかかる。
「よし。できた」
今日の献立は和食にした。ちょうど鮭があったのでオーソドックスな朝食にした。
まだ眠そうな美生と、車椅子でテーブルに来た香里奈がそれぞれ席につく。
「美味し〜」っと美生は開口一番にいう。どうやら皆からは大絶賛だったようだ。
私も箸をとり食べ始める。我ながら上出来というべきか、うまくできたようだ。
美味いものを食べている時はなんとも静かなものだ。ゆっくり食事を食べるのもいいものだ。
食事が終えると翼は急須に入れた緑茶を私たちの湯呑みに入れる。
「はぁ〜。今日も良い茶葉ね」
「さすが金持ち。緑茶の良い茶葉もあるなんてね」
食後の緑茶を啜りながら時間を過ごす。今日は学校もないのでゆっくりはできる。
そう思っていると美生がタブレットを開いていると厳しい顔をしていた。
「どうかしたの?」
「うん。政府の知り合いから厄介の情報が届いてね。それがどうも最近警察が目を光らしてるグループなんだ」
美生がタブレットを私たちに見せると、そこには犯行声明らしき一文があった。
「『明日の米軍艦の上陸を中止せよ。さもなければカンナギ市全体に仕掛けてる全ての爆弾を時間差で爆発させる』? 思想犯か何かかしら?」
「そうでなければまだ楽よ。問題はあれよ」
香里奈はタブレットの奥に写っているロボットに目を向ける。それを見た私はショッピングモールでの一件を思いだす。
「あれは確か美生が制作に関わっていたやつじゃない」
「そう。これが私含めて政府が頭を悩ませている奴だよ。私が作成に関わっているから設計書の管理は厳重のはずなんだけど、どうやって奪ったのか違法に複製されているみたい」
「今頃は『暗黒階層』上に裏取引されてもおかしくないわね。でもこいつらは今はどこに?」
美生はタブレットを操作する。するとタブレット上の画面に赤い点が表示される。
「この赤い点が奴らのいる場所だよ。スマホのGPS機能をハッキングしたことには気がつかないと思う」
「だけど、向こうにプログラムに強いのがいれば追跡は途切れるわね。事は急がないといけないわ」
「そうね。少しゆっくりしてから帰りたかったけど、明日にはアリスが帰ってくるのなら、放っておくわけにはいかないわ」
私たちはすぐに行動を始める。するともう一つの赤い点が現れる。その座標とは、私たちのいるこのビルだった。
「奴ら、瀬戸内グループの中に爆弾を仕掛けたみたい。早くしないと爆発しちゃうよ!」
「人んちに土足で踏み入れやがって。ただじゃおっかねぇ! 痛い目を見せてやらぁ!」
「香里奈様! 落ち着いてください!」
テロリストの侵入を許し、香里奈はブチギレる。私は湯呑みのお茶を飲み干しエレベーターに向かう。
何気ない日常は終わり、私たちはテロリストの排除に向かうのだった。




