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深夜、負けヒロインお姉さんを拾う。  作者: たこ焼きニキ


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2 出会い②

 向坂さきざかさんと出会った深夜、俺は再びカラオケへと入店した。

 横には嬉しそうな笑顔を浮かべる向坂さんが。


「――はい。オールナイトパックでお願いしますっ」

「本当に朝までやるんだ……」


 カウンターで迷いもなくオールナイトパックを選んだ向坂さんを見て俺は軽く呟いた。

 ……それにしても、こんなに至近距離で彼女を見たことがなかった俺は驚く。


 透明感のある綺麗なプラチナブロンドのセミロングに、高身長でスラっと伸びた脚、琥珀色のくりっとした瞳。

 普段の学校生活では長女キャラとして陰で絶大な人気を誇っていた彼女を遠目でしか見たことがなかったので、その作り物めいた美しさに目を奪われる。


「ん、どうしたの青田君?」

「ああ、いや。こうやってちゃんと話すのは初めてだなと思って」

「だねー。でも私、ちゃんと青田君のこと見てたんだよ?」

「え?」


 向坂さんはニコッと隣で笑う。


「見てたとはどういうことでしょう」

「青田君、学級委員長として頑張ってるなーって。まだ二年生になってから二週間くらいだけど、尊敬してるよ」

「……! それは、素直に嬉しいです」

 

 バレー部で人気者である向坂さんと俺では住む世界が違っていると思っていたのだが、ちゃんと見てくれていたのか。

 細かな部分にも気を配れる彼女のことだから、その言葉に嘘がないことはすぐ分かった。


「あー。もしかして青田君、照れてるの?」

「なっ! そういう訳では」

「ふふ、顔赤くしちゃって。可愛い」

 

 ニヤッと笑う向坂さんにからかわれ、俺は思わず目を逸らしてしまう。

 普段の向坂さんの雰囲気と違い、少し今の彼女は素を出せているように見えた。

 これが先程言っていた、今日だけはお姉さんを辞めて甘えるということなのだろうか。


「さ、青田君。ドリンクバー行こっ」

「ええ、行きましょうか」

「入れてきてあげるよ。何飲む?」

「いえ、俺は自分で入れますよ」

「いいからいいからっ。付き合わせてるんだし、今日はエスコートさせてよ」


 彼女はそう言うと、二人分のグラスを手に取る。 

 お姉さんを辞めるとは言っていたが、やはり長女癖で面倒見のよさが出てしまっているな。


「えーと、じゃあ俺はオレンジジュースでお願いします」

「おっけー、入れてくるね」

「向坂さんは何を飲むんですか?」

「えーとね、私は……メロンソーダにアイスフロートかなー」

「えっ」


 向坂さんはそう言うと、いそいそとメロンソーダを注ぎ始める。

 そして、その上にアイスをこれでもかと言わんばかりに盛り始めた。


「い、意外ですね。てっきり向坂さんのことだからオシャレにコーヒーか何かかと」

「もう、私だって普通の女子高生だよ? メロンソーダにアイスが一番美味しいじゃん」


 彼女は意外と甘党であるということがたった今判明した。

 それにしてもそのアイスは盛りすぎな気もするが……。


「……家や学校じゃ、こんなにはっちゃけられないからさ」

「――! 向坂さん」

「こんなこと人前でするの、初めてかも。嬉しいな」


 無邪気な表情を浮かべて笑う彼女。

 その笑顔を見ていると、俺もオチオチしていられないなと気合を入れる。

 今日くらいは、俺が思う存分向坂さんを楽しませてやろう。

 そんな思いのもと、俺は彼女とカラオケルームへ入店した。


 ●○●○


「さ、青田君。次の曲始まるよ!」

「――ちょ、向坂さん。少し休憩を……」


 カラオケルームに入り歌い始めてから二時間経過。

 ヘトヘトになる俺とは対照的に、向坂さんの体力はまだ有り余るといった様子でデュエットソングの熱唱に付き合わされていた。

 ……分かってはいたが、園芸部とバレー部では体力が違いすぎる。

 俺は息を切らしながら、マイクを持った。


 ……にしても、次の曲は『恋音と雨空』か。

 何と言うか、先程から思っていたが。

 向坂さんのチョイスする曲は、彼女の事情と想いを鮮明に物語っている。

 俺は彼女の綺麗な歌声にサポートのハモリを入れるが――


「好き……だよと……ううっ」

「――って、向坂さん!? 大丈夫ですか?」


 自信のあるハモリをお見舞いしてやろうと思った矢先、彼女の瞳から小さな涙がポロポロと零れ落ちた。

 予想外の事態に俺は狼狽する。


「ご、ごめん……。ちょっとさ、色々あって」

「――! ええ、分かります。俺のことは気にしないでいいですから」

「うん。ありがと……」


 先程から彼女はラブソングばかりを選んでいる。

 それも、ちょっと悲しい系のやつ。

 理由は分かっている。きっと彼女は葉武君のことを想って歌っているのだろうと。


「大丈夫です、取り繕う必要はない。泣きたい時は泣くのが一番ですから。……収まったら、次の曲行きましょうか」

「――! ……ありがと、優しいね青田君」


 ポケットから取り出したティッシュでずびーっと鼻をかむ彼女はそう呟いた。

 ……先程彼女がうずくまって泣いていたのも、やはりそのことか。

 俺はモニターに流れる切ない歌詞を見つめながらそう思った。


「……よしっ。もう切り替える。今日は楽しむって決めたんだから」

「向坂さん。そうですね、それが一番です」

「ごめん、もう大丈夫っ」


 涙を拭い、彼女は俺に笑顔で笑いかけた。

 やっぱり向坂さんは強いな、俺なら立ち直れないであろう失恋をもう乗り越えようとしている。

 

「よし、それでは向坂さん。次は気分転換に少し落ち着いた曲を――」

「じゃあ次はゴールデンボンバーの女々しくて、行くよ!! ピザも追加注文しよっ!!」

「なっ……! その曲、落ち着きから最も遠い曲では?」

「いいのいいの、いつまでも女々しくなんていられないから。一緒に踊ってね青田君っ! せーの!」


 俺はガシっと向坂さんに手を掴まれる。

 まあ、彼女が望んでいることならいい……のか?

 その後も、俺は結局激しい曲をハモらされたり、とんでもないダンスをひたすら踊らされたのだった。


 ●○●○


「朝だねー」

「……ええ、朝ですね」

 

 俺達がカラオケを終え、店の前に出ると上空からは日が昇りかけていた。

 ……結局朝までオールしてしまった。


「ごめんね青田君、付き合わせちゃって」

「い、いえ。楽しかったですよ」


 俺はふらふらになりながらも、ぺこりと頭を下げる彼女にそう伝える。

 まあ明日は土曜日だし、別に問題はない。


「……そういえば、向坂さんの家はどこら辺なんですか?」

「えーっとね、駅前の坂近くだよ」

「そうなんですね。……ここからは結構遠いな」

「そうなんだー。なんか曲聞きながら歩いてきちゃったから」


 このカラオケは駅前からかなり距離がある。

 駅前ということは俺の家から特別離れているわけではないが、歩いて帰ると遠いな。


「……あのさ、青田君」

「はい。どうしました?」

「今日私が泣いてた理由、気になる?」

「理由、ですか」


 彼女は柔らかい表情を浮かべながら頷く。

 恐らくそれは松谷さんと葉武君の恋愛の成就、それに対して向坂さんが涙を流していたことを指すのだろう。

 

「大まかなことは察しがつきますが、細部までは知りません。気にならないと言えば、ウソになりますね」

「だよねー。ここまで付き合わせたのにあんな泣いてたらさ」


 俺は正直に答えた。

 まあでも、一クラスメイトであるだけの俺が詮索するのも野暮だ。


「しかしプライベートのことですから詮索はしません。安心してくださ――」

「……ううん、逆だよ」

「――はい? 逆とはどういう」


 俺に詮索の意思がないということを伝えると、向坂さんはボソッとそう呟く。

 逆って、一体何が逆なんだろうか。


「……今日のカラオケ、凄く楽しかった。何だか自分の素を出せたような気がして」

「それは、朝まで付き合った甲斐がありましたよ」


 まあ、女々しくてをあんなに踊って熱唱していたのだから素は出しまくれただろうな。

 俺がそんなことを思っていると。


「……ねえ、青田君。お姉さん、もうちょっとだけ甘えていいかな」

「はい?」

「――青田君のお家行きたい。私の話、ちょっとだけ聞いてほしいなって」

「――!」


 向坂さんは恥じらいと申し訳なさが混じった表情でそう呟いた。

 む、向坂さんが俺の家に……!?

 わけあって俺は今一人暮らしをしているので、家に招くこと自体は問題ではないが。


「いいんですか? 向坂さんがいいなら俺はいいですが」

「うん、ちょっと疲れちゃったし。それに……取り繕う必要はないって言ってくれて嬉しかった。――青田君のこと、もっと知りたくなったんだ」


 すっかり日は上って、向坂さんの笑顔が陽光に照らされる。

 こうして紆余曲折の末、彼女は俺の家に来ることとなった。


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