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4 溢れる美の共演と雷

―――アムン・ラ大公は頭を悩ませていた。


東部で立て続けに発生している黒い竜巻。その報告を受けるのも、これで六度目だった。まだ、民への直接被害こそ出ていないが、不気味な異変は確実に公国へと近づいている。


「親父はまた、例の竜巻を気にしてるのか?」


眉間にシワを寄せ、沈痛な面持ちの父親に、アギルは呆れたように声をかけた。


「気にするなと言う方が、無理な話だ」


「けど、どうしようもねぇ。…だろ?。黒い竜巻は神の意思だ。受け入れるしかねぇ」


お互いに忙しなく揺れる尻尾が、感情では納得していないことを物語っている。しかし、ことさらアギルは明るく言った。


「せっかく客人を招いての夜会なんだ。今はそっちを楽しもうぜ」


父親の懸念を痛い程感じ、自らの力不足を不甲斐なく思いながらも、アギルは父親を促し会場へ向かった。


豪華な幾何学模様の絨毯が敷き詰められ、ブルーロータスが華やかさを添えている。


牛肉の焼けた匂いやワインのアルコールの熱気が立ちこめ、会場の温度を上げていた。普段は座布団を使う宴席も、外国の客人にあわせ椅子を並べさせた。


今、自国で起きている異変は、招待客に中止を申し出るには、余りに小さなものであった。親善のための客人を数日もてなすくらいの余裕はあるはずだ。


そう思い、敢えて何も告げずに招いたのだが、果たしてそれで良かったのか。不安を拭いきれないまま会場を見渡した。


宴席の中心に近い場所、恐らくこの場で最も貴い者達の座席に、女神を認めてアギルは息を飲んだ。


気が付けば、アムン・ラ大公が止める間もなくそのしなやかな四肢を滑らせ、傅いていた。


「まさか、このような奇跡が起こるとは…。女神よ、美しき月の化身よ。貴方の名前聞かせてくれ…」


全ての障害物を物ともせず、瞬く間に距離を詰めてきた獣人の身体能力にリンとガイが反応する。素早くリリアーヌとの間に体を滑り込ませ、物理的な距離を確保した。


「唐突すぎんだろ。…何だ、てめぇ」


低く威嚇したはずのその声は、鈴のように美しく変換され、殺気との温度差が凄まじい。


「こっちの…女も、…良いな」


目を丸くしたアギルは、想像を絶する図太さでリンの手を取った。


「気の強そうなお前も、そっちの女神も美しい。いずれ公国の支配者となる俺に相応しい!二人とも俺の妻になれ!」


ブホッ…!!!


こらえきれずにガイが吹き出した。


手を取られたリンの額に青筋が浮かぶ。元々きつめの目元に施したコハル(アイライン)のせいで、鋭さの増した眼光がアギルを貫いた。


「…あぁ???」


低く睨み付け唸るリンの横から、ゆったりとした声が重ねられた。


「…あら?」


お気に入りの扇子を開き、口許を隠しながら目を細めたのはエレオノーラである。


「アギル公子でいらっしゃいますわね?ごきげんよう」


大きくも小さくもなく、ただ悠然と向けられた声に、一族のなかでも歴戦と言われたアギルの直感がけたたましく警鐘を鳴らす。ひゅっと視線を移した先にはまたしても美人がいた。


――大事なことなので二回言うが女神の横にも美人が座っていた。


「神よ!今日は何の運命の日だ?!美人だらけではないか!」


両手を天向け絶叫する獣人のプリンスに、新たな厄介事の気配を感じガイが戦慄した。


「ヤバイ人だよ、こいつ」


「…取り敢えず、ガイ。てめぇも今日、あと五回は殺すからな」


目の前のヤバイ人よりも、身近なムカつく男の処理が先だ。ある意味現実逃避も含まれているが、ギリギリとリンは拳を握りしめた。


「アギル!!!」


唖然としていた大公が、慌てて息子の頭を押さえつけて詫びさせる。


「息子が大変失礼した!」


扇子の向こうのエレオノーラの目は笑っていない。気配に敏感な獣人に分からないはずもなく、ビリビリと緊張が走った。


「お姉様、この果物は何かしら?とても良い香りだわ」


一切の空気を読まず、リリアーヌが姉に向かって微笑みかけた。その瞬間、宴席中にかかっていた重圧が一気に弾けとんだ。


「それはマンゴーね。太陽の果実とも言うらしいわよ?」


「凄いわ、お姉様!何でもご存知なのね」


目をキラキラさせて姉を慕うその姿は、会場の煌びやかな照明と獣人達の心理的な解放感にも相まって、奇跡そのもののような輝きを放っていた。


「やはり、神なのか…」


ざわめきの中に小さく広がる勘違いを止められるものはいなかった。


「困りますわね、アムン・ラ大公。リリアーヌは大事な私の天使です。公子には十分言い聞かせてくださいな」


「待て!では、二人まとめて俺の妻になるのはどうだ!?……あ、待てよ」


アギルは、いまだに自分を殺しそうな目で睨みつけてくるリンをまじまじと見つめ直し、名案だと言わんばかりに膝を打った。


「やっぱり、そっちの気の強そうな女も含めて、三人まとめて俺の妻になれ!」


父親が止める間もなかった。


窓の外に暗雲が立ち込め、雷がカッと光る。雨粒ひとつ落ちていないというのに、巻き起こる轟音にその場の誰もが立ちすくむ。


「こちらの『気の強そうなの』だけになさって?」


急な天候の変化がただの偶然だと信じるものが、果たしてどれ程いるだろうか。


「なんで自ら地雷を踏みに行っちゃったの!おまけにリン、…いや、リンネも怒らせるなんてどんな才能だよ!!」


ガイが涙目でアギルの肩を激しく揺さぶった。


当のアギルは悪びれもせずに「お前も美しい男だな!」と笑ったのだった。


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