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2 決着!尊厳をかけた戦い

 国境近くの由緒ある迎賓館。

 厚い絨毯と、砂漠の夜の冷気を遮る重厚なカーテンの引かれた一室。


 しかしそこは、静かな夜の気配に似つかわしくない殺気の立ちこもった、魔導士二人の尊厳を賭けた戦場と化していた。


 「俺は絶対にやらねぇ! お前がやれ、ガイ!」


「何で自分がやりたくないことを他人に押し付けんの!? 俺だってぜっったい嫌だ!! リンの方が似合うじゃん、美人だよ!」


 床に転がっているのは、エレオノーラから投げ渡された、アムン・ラ風のドレス一式と、男性用貴族服。


 ドレスは、肌が透けるほど薄いアムン・リネンを幾重にも重ねた、公国の一般的な貴族衣装だった。どう見ても布面積が信用ならない。


 エレオノーラの絶対命令が下った以上、どちらかがこれを着て「リリアーヌの親戚の女」を演じなければならない。


 「似合ってたまるか! お前の可愛らしさには負けるわ、お前の方がお似合いだっつーの!」


 リンの右拳が、ガイの腹を抉るように最短距離で放たれた。


「俺のは愛嬌!リンの美人は男女共通!ドレスなんて、絶対に着たくなーい!」


 ガイはそれを掌で受けると、鈍い音とともにその手首を掴んで封じた。

 そのまま軸足のバネを使い左膝をリンの鳩尾へ跳ね上る。


 「俺だって着たくねぇわ!…甘いんだよ!!」


 紙一重で躱したリンが、ガイの死角へ潜り込み、支えとなった右足を払う。


「げっ!!!」


 体勢を崩したガイを組み伏せ、リンは馬乗りになってその両腕を床に叩きつけた。渾身の力で、鈍い音を立てて額をぶつける。


 「いっ……! この、石頭!!」


「お互い様だっつーの!」


 噛みつくように吠えるリンに、ガイも鼻先に青筋を立てて睨み返す。


 体格差がほとんどない二人の争いは、技術と執念が真っ向から衝突する泥沼の様相を呈していた。


――だが、その熱狂を切り裂いたのは、氷点下の冷気を含んだ一言だった。


 「騒々しい。静かになさい」


 取っ組み合ったまま、二人の動きがピタリと止まる。


 入り口に立つエレオノーラの視線は、床で転げ回る二人を、道端の石ころのように見下ろしていた。


 「リリアーヌの睡眠を邪魔している自覚があるのかしら?」


 絶対零度の威圧感に晒され、二人は絡み合った手足を慌てて解き、しどろもどろに言い訳を始める。


 「だって、こいつが……」


「違うよ、リンが……」


 「くだらない」


 エレオノーラは一蹴した。パチリ、と扇子が閉じられる。


 「この衣装なら、リンの方が似合うでしょう。リリアーヌの傍らに侍るのに、みっともない女装はいりませんわ。分かりましたね?」


 女装はリンが担当しろ。


 そう冷徹に宣告しながら、返す刀でガイの女装を「みっともない」と一刀両断にする。まさに、有無を言わせぬ喧嘩両成敗であった。


 「……みっともないって、酷くない??」


 ガイが心外そうに頬を膨らませた。


 「じゃあ、代われよ。俺が『みっともない』担当になってやるから」


 リンが忌々しげにドレスを睨みつけながら提案する。


 ガイは一瞬、手元の豪華な男性用装飾品と、リンが着る羽目になった「薄い布きれ」を見比べた。そしてすべてを悟ったように頷く。


 「俺、ミットモナイで、いいわ」


「……てめぇ、今すぐ死ね!!」


 仁義なき戦いは、こうして最悪の形で幕を閉じた。


 部屋のテーブルでは、今回の任務のために新調された茜色のカニ、『フルートを奏でる(ラブリートーン)茜色の蟹(・クラブ)』が、どこか嘲笑うような不協和音をカチカチと鳴らし続けていた。


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