8.45分で何が出来る?
浸水を待つ時間の間、暇になってしまった。本来ならこの時間にご飯作りの残りを片付けたっていいのだが、正直さっき鮭を食べたばっかりの身としては、今さら追加で作るのもなはぁ、という気がしている。
米を研ぐ間ずっと横で俺の作業を眺めていたリツは、待ち時間が発生すると知るや否や
「お風呂入ってくる!」
と言って洗面所へ消えてしまった。
そりゃそうだろう、仕事から帰ってきたまま鮭を食い買い出しに行っていたのだから。
もちろん、俺が入ったって良かったのだが…。俺も入りたかった、気持ち的には数十年ぶりの湯船…。
まぁ、先着順に負けたんだ、仕方がない。折角調理をするスイッチが入ってることだし、さっき後回しにした食品の整理をしよう。
ここ数日のメニューを考えつつ、すぐに使いそうなものはそのまま、まだしばらく使わなさそうなものはものによって小分けにして冷凍したりしていく。
常備野菜として俺が好きなのは、もやし、じゃがいも、長ねぎだ。
もやしは足が早いので、こまめにスーパーに行くのが面倒だった俺は袋のまま冷凍庫に入れて常備していた。多少食感は変わるが、煮てもよし、炒めてもよし、更にお財布に優しくてよしな万能食材なので今回も複数買ってしまった。
3つあるうちの1つはそのまま使うと決めて、残り2つを冷凍庫へしまう。もやしは基本的に水耕栽培で育てられるので洗わないで食べられるのだ。ついでに残ったひとつを大きめのタッパーに丸ごといれ、レンジで数分加熱しておく。大量に使うときは茹でた方が楽だが、一袋くらいであればそのまま冷蔵庫に入れれるタッパーでレンチンした方が楽だ。鍋もボウルも使わずに、味付けさえ終われば蓋をして保管できてしまうのだから。
次はじゃがいも。これは簡単、取り出して風通しのよい冷暗所に保管すればいいだけなのだ。泥が気になるのであれば包まれてたビニールの袋ではなく通気性のよい朝の袋に入れ換えればいい。素揚げしてフライドポテトにしても旨いしマッシュポテトやジャーマンポテトにしても、なんならレンチンしてバターと塩で食べるだけでも旨い。そこにいかの塩辛なんてあれば最高だ。酒が欲しくなる。炭水化物なので腹持ちもいいし、色んな味に合うので結構便利なのである。
そしてねぎ。刻んで冷凍しておけば味噌汁の具にも麻婆豆腐の具にもさらにはラーメンや煮豚等いろんな料理の彩りにもなれる。万能だ。俺が買うのは万能ねぎではなく長ネギだが、これは好みだろう。刻んでザル付のタッパーにいれて冷凍するものと、薄目の斜め切りにしてフリーザーバッグにいれて冷凍するものとで分けておけば鍋や炒め物の具材にもなり、時短に繋がる大事な相棒だ。
ここまでで15分程、ねぎの束を全て刻むのに、涙を我慢しつつなので少し時間がかかってしまった。
他に買ったのは葉付の大根とにんじん、玉ねぎにえのきだ。
大根の葉を落として細かめに刻み、炒めつつ醤油と顆粒だしと鰹節で味付けをしてふりかけに仕立て上げながら、にんじんを1本ずつ新聞紙で包みなおして野菜室へ戻そうと思ったとき、俺は重大なことに気がついてしまった。
「新聞紙がない…」
そう、何を隠そうここは俺が生きてた時よりちょっと未来。新聞紙のような物理媒体なんてものはとっくに淘汰されてしまって古紙という概念がほぼ無くなっているのである。あのガサガサした音と湿気取りに程よい荒さの紙の質感、無いとわかると途端に懐かしくなるこの感情は何なのか。
気を取り直して、というか諦めて、俺はキッチンペーパーでにんじんを包んで野菜室に戻していった。




