影打ち(5)
宿に帰ると巴が紅蓮坊の手当てをした。
脚には六個もの棘の破片が入っていた。それを一個一個巴は抉り取った。それには相当の時間が掛かり、その施術を受ける方には相当の痛みがあったはずだが、紅蓮坊は表情一つ変えなかった。
紅蓮坊の状態も考え、その日はここに泊まることにした。
巴は紅蓮坊に静養するように言ったが、結局、紅蓮坊はじっとはしていなかった。
勢鬼という鬼が落としていった金棒を側に置いて触っていた。
その金棒は今までの鬼の金棒より細く、扱いやすそうであった。
棒自体は丸ではなく八角の面を持ち、持つ手にしっくりとくる。しかも金棒の中央辺りにはねじりがあり、その部分で扱うのに滑り止めにもなりそうだった。
重さはどうかな・・・
紅蓮坊は座ったままその金棒を頭上に差し上げ、回してみた。
感じはいい・・・その太さ、重さに紅蓮坊は好感を持った。
「何をやっているの。」
それを見た巴の雷がすぐに飛んだ。
「怪我しているのは脚だ。体の上を動かすのに問題はないだろう。」
「脚に力が入るでしょう。」
「大丈夫だ。腕しか使ってない。」
「それにしても・・・」
巴は呆れたように溜息を漏らした。
「ところで、重くはないの。」
巴は今度は疑問を呈した。
以前、鬼の道具を手にした時、その呪いから、体が押し潰されるほど重く感じたことがあった。巴はそれを心配した。
「あの時は、かえでが呪いを消してくれたけど、今は居ないのよ。」
「かえでの石のおかげか、今のところは大丈夫のようだ。だからこのまま使ってみる。
秋月まで持ってみて何もなっかったら、あの金棒は、鍛冶屋にやる。」
紅蓮坊は棘の付いた金棒を見た
「もう少し持っていたが良くない。」
「なぜだ。」
「あの金棒も重くなるまで暫く時間が掛かったでしょう。」
紅蓮坊は僅かに考え、
「それもそうだな。」
と、納得した。
「私達は村中で色々と話しを聞いてくるから、おとなしくしているのよ。」
巴がそう声を残し、兵衞、小太郎と供に宿から出かけた。
それから紅蓮坊は手持ちぶさたになった。
そうなると徐々に躰を動かしたくなってくる。
少しならいいか・・・紅蓮坊は八角の金棒を手に、床の上に立ち上がった。
少し動いてみる・・・太腿にぴりっと軽い痛みが走ったが、気にせず躰を動かした。
うん、いい・・・そう納得した所に、宿の賄いから中食の案内があった。
紅蓮坊はそれに従い食事をした。
その後また八角の金棒を持って宿の庭に出た。
良い感じに動ける。これならば今までの金棒よりも戦いやすい・・・紅蓮坊はそう思った。
それから一刻半ほど躰を動かした後、汗を拭うために縁に座った。
「何やっているのあんたは。」
都合の悪いことにそこに巴達が帰ってきた。
すぐに巴の小言が飛んできた。
「部屋でじっとしていても手持ちぶさただから、ここで外を眺めてだけだよ。」
「うそおっしゃい。それだけ汗をかいて何もしなかった訳ではないでしょう。新しい金棒も持っているし。」
巴は足音も荒く部屋に戻っていった。
「無理は禁物ですよ。部屋に戻りましょう。
話もありますので。」
兵衞は紅蓮坊の肩を叩いてから、部屋に行った。
「おっちゃんその金棒、どうだった。」
最後に小太郎がきらきらした目をしながら声をかけた。
「使いやすい。」
そう言って紅蓮坊も縁側に上がった。




