潜入(13)
遼河は脇差しであれば、速さでは対抗できることは解った。相手に傷もつけられる。
とにかく相手の動きに慣れるために、受けばかりに徹し、躱し際に少しずつ傷を与える作戦を採り、相手の動きにも徐々に慣れてきた。
そこで、ここまでは受けばかりだった遼河は構えを変えた。
その構えには攻めて出る。と言う覚悟が感じられた。
左手は受けのための逆手のまま、右手は攻撃のための順手に持ち替えことで、一気に形勢が傾いた。
上妻与一は任せられた青鬼を斃すと、すぐに遼河の元に戻った。
そこには遼河の剣、鬼切丸が突き立てられていたため、一瞬どきっとしたが、目を移すと、柄の先では若者が脇差しを手に戦っていた。
「遼河、なぜ長刀を使わぬ。」
与一は叱咤の声を上げた。
「速さで負けていましたので・・・」
「が、今はもう慣れたろう。」
そう言うと与一は鬼切丸を投げて寄こし、遼河は右手の脇差しを鬼に向けてなげると、その剣の柄を握った。
長剣を握っても、もうその動きで遼河は鬼に負けなかった。
遼河は鬼が拳に持つ鉄の爪をあっさりと躱し、その間にその腕を斬り落とした。
「終わりだ。」
遼河は妖気と血がボトボトと落ちる、腕の切り口を押さえる鬼を睨み付けた。
「最後に一つだけ訊きたい。」
「何だ。」
「名は何という。」
フッと笑い、
「鬼史郎という。
我が同僚、若しくは親方が必ず輪が仇は取ってくれよう。」
そう言うと鬼史郎は最後の力を振り絞って、遼河に攻めかかった。
遼河はその攻めをいなし、八双の構えからから左袈裟に一気に鬼史郎を斬り落とした。
「無念・・・」
鬼史郎は一言残すとその場に膝をつき、それから・・ゆっくりと崩れ落ちた。
「随分上達したな。」
与一は遼河に対して笑みを洩らし、それに遼河は頭を下げて応えた。
「ところで、儂と代わった理由は。」
「あれですか・・
あれは・・・」
遼河は少し口淀んだ。
それは自分の師匠に鬼を斬る才がないと言うことだった・・・とてもそれは言えなかった。
「言えなければ、言わずとも良い。」
与一の顔は微笑みを湛えた。
百々女鬼はその一部始終を見ていた。
「もう、去るが良かろう。」
その頭の中で仙闘鬼の声がした。
確かに・・ここにいてもこの男が居る限り、もう手の打ちようがない。
「解ったよ・・・鎖を緩めてくれ。」
「いらぬ考えは持つなよ。」
頭の中の声に従い、百々女鬼はその場から姿を消した。
次は総攻撃をかけると思いながら・・・
牙鬼は何の手を出すでもなく戦いの様子を見ていた。
鬼史郎と名乗った男はかなりの手練れと見えたが、それをあっさりと倒した。
あの小僧・・・とは思った者の、自分なら倒せる。との感触も持った。
とにかく大童丸様に知らせるか。
一部始終を見ていた牙鬼もまた、その場から姿を消し、仙闘鬼はそれも感じ取った。
犬までが戦い、これに加えて今は居ない人が揃うとなると、とてもじゃないが今襲うのは無理か・・ここの首領に何かがあり、他の人の心を何とかするまでは、待ったが良さそうだな。
全てを見た訳ではないが、香月鞆子はそう報告することにした。




