潜入(12)
やはり駄目か・・・それを屋敷の屋根から見ていた百々女鬼は、思わず立ち上がった。
屋根の頂上から、その端に向かう百々女鬼の首に鎖が巻き付いた。
「何をする気だ、百々女鬼。」
後ろから声が聞こえる。
いつの間に・・・女鬼は口の端から牙を覘かせて唇を噛んだ。
「手を出すなと言ったはずだ。」
今度は頭の中で声がした。それと同時に、首に絡みついた鎖が僅かに締まり、百々女鬼は首と鎖の隙間に指を入れた。
「そのようなことをしても無駄だ。
儂がこの鎖を引けば、その指ごとお前の首は落ちる。
そうなりたくなければ、黙って闘いを見ておれ。」
声の主の動きでまた少し鎖が締まり、鎖が首と間に挟まった指に食い込んだ。
「私を斃しても、まだまだ強い者がお前を斃しに来る。
それ等全てに抗えるつもりか。」
二体の鬼は頭の中で会話を続けた。
「はっはっはっ・・・
今どれだけの鬼が居る。
鬼道五人衆や、ましてや九鬼衆などでは、儂の相手にはならんぞ。」
「我等には五鬼将がいる。」
「お前を含めて五人か・・・」
影の中の鬼はまたしても笑い声を洩らした。
「だが、今動けるのは何人だ・・・
儂の記憶だとお前等の中の一番手と二番手はまだこの世には現れず、現在の筆頭はお前・・・それにお前の好敵手鬼女と後一人・・・鬼動だったかな・・それだけであろう。
それで儂に勝てるかな。」
確かにそれは全て合っていた。
この鬼、仙闘鬼の力は自分達を統べる統領様に匹敵する。それを自分亡き後、鬼女と鬼童でどうにかすることは不可能であろう・・・百々女鬼は悔しげに唇を噛み、そして、あいつが動けば・・・とも考えた。
「お前の考えていることは解る。」
影の中の鬼が洩らす薄ら笑いの声が、百々女鬼の耳に届いた。
「人から鬼になった者の最高峰がお前等の統領。それに続く者・・・確かにあの男は強い。
だが、どこで何をしているやら、お前等の動きには全く無関心のようだがな。」
また、軽い笑い声が聞こえた。
「お前は嫉妬しているだけだろう。」
仙闘鬼の頭の中に百々女鬼の声が響いた。
「嫉妬・・・嫉妬とは何のことだ。」
仙闘鬼は疑問の声を上げた。
「お前はその強さから、統領になると誰もが思っていた。
だが、御方様は人から鬼になった今の統領様を選んだ。
そして、お前はその嫉妬から姿をくらまし、我等に反旗を翻した。」
「反旗だと・・儂は一人だ。お前等に対抗して、軍団を持とうなどとは思ってはおらん。
それに嫉妬の心など持ってはいない。」
仙闘鬼はまた笑った。
「嘘をつくな。こいつ等を庇っているのがその証拠・・こいつ等を以てお前の軍団にするつもりであろう。」
「どうとでも思え、だが今はあの子と鬼史郎だったかな・・・この二人の戦いを黙って見ていてもらう。」
仙闘鬼がそう言うと百々女鬼の喉の鎖がまた少し締まった。




