潜入(10)
橘千代は自分の言葉通り部屋の外にある庭を守っていた。
その鼻が血生臭い匂いを感じた。その異様な匂いに、
鬼・・・千代は自分の薙刀「蜘蛛脅し」を脇に身構えた。
千代が待つ庭に肌の色が青い鬼が一体殴り込んできた。
その手には刺す股が握られていた。千代はそんな武器とは戦ったこともなく、戸惑いを見せた。
しかも相手の力は強い。その剛力を使って刺す股で体を絡め取ろうとしてくる。
その様子を見かねた猪ノ介もその戦いに参加したが、それでも鬼の力にたじたじとなった。
「戦わねばなるか。」
その戦いの様子を耳にした香月鞆子は、自分の力を隠しながら刀が抜ける物陰を伺い、ゆっくりと立ち上がろうとした。
「げんた。」
その横で幼女が犬に声をかけた。
「これで千代お姉ちゃんを助けて。」
幼女は鞘を抜いた短刀を犬に咥えさせた。
犬に短刀を咥えさせて度するつもりやら・・・鞆子は笑いと共にその様子を見ていた・・が、次の瞬間・・・
尋常の犬ではない・・・そう思いその犬の後ろ姿に目を凝らした。
あれは・・・鞆子はそのまま床の上に座った。
ニヤニヤと笑いながら千代と猪ノ介の後ろから、短刀を口に咥えて走ってくる犬の姿が鬼の眼に映り、その瞬間、その青い鬼はたじろぎ、逃げ足を見せた。
げんたはそれを追って千代の頭の上を飛び越え、青鬼の向こう側に立った。
その時既に、青鬼の首は落ちていた。
二体の鬼を屠った上妻与一に黒い影が襲いかかった。与一はそれを跳び退いて躱し様に刀を振った。
与一が立っていた場所には鬼の右腕が落ちていた。
「拙い。」
与一は一声洩らした。
だが、与一を襲った鬼は与一が立っていた場所に落ちている腕に、ゆっくりと近づいた。しかも、その顔は腕を落とされた痛みを微塵も感じていないように見えた。
その時遼河は緑鬼を斃し、青鬼と戦う磯村尽ノ佐と木俣弥右衛門を助けに行こうとしていた。が、その前に遼河は与一の方を見た。
斬り落とされた片腕を手に持った鬼が、その腕を傷口にくっつけているのが見えた。
あれは・・・遼河はすぐにそれが何を意味するのかを悟った。
自分の剣の師匠であり、鬼にも優る手練れではあるが、彼は鬼を斬れない。
それは個人個人が持つ霊力によるもの・・源三にそう教わった。
そう思った瞬間、遼河は与一の元に走った。
「お師匠様、向こうを手伝ってやって下さい。」
そして、大声で叫んだ。
「心配ない。既に奴の片腕は切り落とした。」
「あの腕はくっつきます。」
なんと・・・そう言われて、与一は鬼を見た。
すると遼河の言葉通り、その鬼は元通りに腕をつけ、襲いかかってきた。
そんな馬鹿な・・・そう思いながら、与一は跳び退いた。
その空間を鬼の拳についた鉄の爪が引き裂いた。
「どう言う事だ。」
「話しは後です。
とにかく交代を・・・」
遼河は与一の前に出て、鬼と対峙した。




