潜入(6)
「ここか。」
夜半に恐ろしげな声が響き、それに従う者が頭を下げた。
「間違いなく二人だけか。」
「二人だけでございます。」
「まあ、あやつの話し・・信じよう。」
その声に従う男は頭を下げた。
その女は百々女鬼であった。
「直接・・動かれますか。」
「そのつもり・・だが・・・」
百々女鬼は一つ気がかりなことがあった。それはあの男の事だった。
「だが・・とは・・・」
跪く男が尋ねる。
「とにかく儂の部下を呼ぶ。」
質問には答えず百々女鬼はそう宣言した。
甚八は送り込む次の人選を考えていた。
残るは六人。
当然晴海がその集落に入るのは、一番最後・・事が整ってからになる。
その時一緒に乗り込むのは、最後まで晴海の夜の相手をする香月鞆子。この女は、あれだけ頻繁に晴海の相手をしていながら、子を宿さない・・・どうやら石女のようである。それは甚八にとっても、晴海にとっても好都合であった。石女であれば、もう四国の祖谷でのような妊娠騒ぎを起こさずに済む。
それと最後まで晴海を守る自分。この三人で乗り込む・・一番後はこう決まっている。
ではその前はどうするのか・・・それにどうやって、村の実権を握るのか。
この二つが問題として残り、甚八は後者を先に考えることとした。そうすればその役割から、送り込む順番も決まってくると考えたからだった。
村の実権を握る・・言うのは簡単だがそう易々とは行くまい。
そこの主である鳥尾六郎に何かあった時とは言ってはいたが、そうそう何かが起こるはずもない。
そうなればどうするのか・・・
こちらから手を出すしかないか・・・甚八の顔は曇った。
敵は十人以上居る。それに対して自分達は八人。その中には戦えぬ晴海や弥次郎がいる。
そうなれば敵は二倍、あるいはそれ以上・・・そう考えた時にどうしても自分の部下の補充を強く念願した。定数の七人を満たせば、二人は村の監視、二人は晴海の護衛とし、自身も晴海の元を離れることが出来、残った三人と共に戦うことができる。
だがそれでも人数が足りないと甚八は考えた。
それを補うには・・出した結論は鞆子・・・彼女であれば妖狐を使え、数を満たしてくれる。
それには早めに潜入させる必要がある・・そうなると晴海の護衛が・・・
どうしても自身の部下となる者達の補充が必要となり、甚八の考えはそこで止まってしまう。
しかし・・・と、また考える。
村の転覆を謀るのは未だ先。補充があるものとしてを考える・・・甚八はそう思い直した。
そうやって考えると、人的不足を補え、機転が利く者と言えば・・妖狐を使える鞆子しか居なかった。
そうなると、晴海と供に最後に乗り込む者が変わってくる。
女のことは仕方がないか・・・甚八はもう一度最初から考え直すことにした。
晴海に付き従うのは、大円坊宗寛。この男については早くに敵方に潜入させれば、裏切る可能性があるため最後にし、これと自分の部下二人で晴海を守る。
では、次はどうする・・・坊主姿の凱全、れっきとした侍、蘇我部充四郎信親、それに香月鞆子。この三人をどう配するのか。が次の思案となった。
やはり、香月鞆子か・・・甚八の考えはそこに落ち着いた。
彼女であれば機転が利くという事もだが、ひょっとすると、相手の中から、こちらに願える者を造るかも知れない・・・甚八はそう考えた。
そこまで考えるとあとはすぐに決まった。鞆子の次に送り込むのは凱全。晴海の護衛も兼ねる充四郎は最後とし、自分は転覆の動きと同時に、部下四名と供に満を持してそこに乗り込む。そして、事が終われば晴海を迎え入れる。
これで、乗っ取りの概要は決まり、後は部下になる者の補充を待つだけとなった。




