↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/69

潜入(5)

 かえでにはまた遊び相手が増えていた。

 自身より先に居た、二つ年下の仙丸(せんまる)、やっと三つになったばかりの橘弥生(たちばなやよい)、そして今回やって来た千々石朔太郎(ちぢわさくたろう)。その他にもこの屋敷の庭に遊びに来る子供達は十数人居た。最近は仕事だ、剣術の稽古だと言って遊んでくれない遼河(りようが)は別にして、かえでは先述の三人と遊ぶ事が多かった。

 そんなかえでも、少々の剣術の稽古と、手習いの機織りや縫い物はしていた。そのため当然、子供達同士で遊ぶ時間は限られていた。しかも、仙丸は遼河と一緒にやる剣術の稽古がよほど楽しいのか、徐々にかえでと共に居る時間は短くなっていった。

 かえでも剣術は習っていた。

 その師となるのは上妻与一(こうづまよいち)。この辺り一の使い手と呼ばれ、あの並木掃部ノ兵衛義貞(なみきかもんのひようえよしさだ)にも勝った男であった。

 その男の手ほどきを受け、かえでの腕は徐々に上達していった。

 が、かえでは本来争うことを嫌う性格であったため、剣術自体は好きではなかった。ただ、遼河に言われるままに稽古を始め、その素質からか、この集落の同じ年頃の子供には、男の子を含めほぼ互角以上の勝負をした。

 そんな子供達の中で特異だったのは仙丸の強さだった。

 十歳以下では強い方のかえでさえも仙丸は上回っていた。

 仙丸と年上である遼河の力を与一は愛で、この二人には、特に力を入れて稽古をつけていた。

 そんな子供達の中で異質だったのは、千々石朔太郎だった。

 その児はかえでとは遊んだものの、他野の児とは遊ぶことはなく、いつも屋根の下にいた。本人は他の児達と空の下で遊びたいそぶりを見せていたが、父親である千々石与三郎(ちぢわよさぶろう)の目を気にして、子供達の輪には加わろうとはしなかった。

 この一派の会計係仙原一蔵(せんばらいちぞう)はそんな子供達の様子をよく観ていた。

 それから一蔵は、与三郎を自分の護衛と称して屋敷からしょっちゅう引き離した。

 それから朔太郎は外で子供らと遊ぶことが増えていった。

 その間も遼河の剣の鍛錬は続いていた。

 その甲斐もあってか遼河は「鬼切丸」を使えるようになり、身長が伸びたこともあり、その刀を右肩に担げるようになっていた。

 その上、二本の脇差しを使う速度も上がり、「鬼切丸」を使っても、二本の脇差しを使っても、ここの剣術の師上妻与一以外は誰も遼河に勝てる者は居なくなっていた。

 そんな中に、時をずらして二人の男が入って来た。

 始めに仲間になったのは、剣の腕がたつという触れ込みで入ってきた。

 その男の名は木俣弥右衛門(きまたやえもん)と言い、屋敷の中庭でよく剣を振った。

 次に来たのは算盤が出来ると言う弥次郎という男だった。その為、歳を取っている一蔵の仕事が随分と楽になり、彼はその空いた時間を、屋敷の庭で過ごすことが多くなっていた。

 ところが二人が庭に居ると、どう言う訳か、かえでがあまり庭に出なくなった。

 心配した遼河はかえでに声をかけた。

 かえではそれには答えなかったが、その眼には涙が溢れていた。

 どうしたももかと、遼河は困惑の表情を見せたが、どうすることも出来ず、その場はそのままにしていた。

 それから三日後、遼河はかえでがもっと幼い頃のことを思い出した。

 鬼が来ればかえでが泣く・・・ここのところそれがなく、すっかり忘れていた。

 自分が御庭廻組二番隊に抜擢されてからは、鬼の出現は教えてくれても、かえでが泣くことは少なくなっていた。それは皆に自分の身が守られているという安心感に違いなかった。

 それが今、泣くという事は・・・

 俺が不甲斐ないから・・・遼河はそう考え、

もっと強くなる。と、決意を固めた。

 それともう一つ。一番肝心な事は、鬼が居るのか、それとも他の理由でかえでが泣いているのかという事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。