潜入(3)
鞆子はよろよろと体を起こした。
昨日までに比べれば、躰を動かすのは随分と楽になった。
それを受け、鞆子は少しずつ躰を動かすことにした。
鞆子は腕を差し上げ、その手には刀が握られた。
昨日に比べれば、それ程の重みは感じなかった
少し動いてみよう・・・
鞆子は雨風を避けるだけの寝屋から外に出てみた。
寝てばかりで衰えた脚にも徐々に力が戻ってくる。
剣を振ってみるか・・・
暫く歩いた後、鞆子が手をかざすと、寝屋の剣が消え、それは彼女の手の中に現れた。
魔力の衰えはなさそうだな・・・
鞆子は自身の力に頷いた。
その力は戻ったどころか、以前にも増して強くなったように感じた。
だがそれを使う体力と精力が今は保たない。
剣を振って体を鍛え、精力は・・・戻ってから強い男の精を喰らうか・・・
鞆子は剣を軽く一振りしてから、ニヤリと笑った。
山田甚八は自分の部下のを村に送り込み、その報告を待つことにした。
残っていた部下は三人。雉からの補充は未だない。
そのうちの二人を村の探索に出していた。それが終わるのは明後日であろう・・・甚八はそう読んでいた。
送り込まれた二人は話し合いのすえ、かなり詳細にその村の事を探索することにした。
手始めに行ったのが、そこに係わる人数を割り出すことと、それらの動きを確かめること・・それを手分けして行った。
その為、甚八の日数的な読みは、完全に外れることと成った。
はぐれたと言った日から五日が経っていた。
鞆子は、仮の住まいを昼過ぎには自然に戻し、勝負に負けて以来、下着だけだった体にきっちりと着物を身に着けた。
その日の夕刻前には鞆子は晴海達の引っ越し先を探し当て、皆の元に戻ってきた。そこには三人の下女と二人の下男も居た。
郊外にあるその場は広い敷地に大きな屋敷が建っていた。
中庭は武芸の鍛錬が出来るほどに広く、屋敷には七つの部屋と一番奥まった所に二間続きの離れがあり、その離れは晴海が使っていた。
七つの部屋の内、五部屋はそれぞれに分けらていた。
離れに一番近い部屋には甚八が陣取り、その隣には広い座敷がある。そこは話し合いの場であり、金を管理し、物事を書き留める弥次郎のための机が置いてあった。
残る五つの部屋の内、大広間の奥には鞆子の部屋があり、弥次郎は甚八の入口側の部屋、充四郎の部屋では蘇我部充四郎が寝起きをし、その隣の一間には大円坊宗寛、木俣弥右衛門、凱全の三人が一緒に使いその手前の六畳の簡易的な座敷は来客用の部屋とされていた。
それぞれの部屋割りに人数的な差別はあったが、この頃にはもう子の一行の序列は決まっており、宗寛がたまに不平を漏らす程度だった。
下女二人は座敷の裏にある鞆子の部屋から厨を挟んだ所にあり、下男の部屋は玄関から入った上がり框に隣接する部屋が宛がわれていた。
その部屋割りは完全であった。外敵の侵入にはまず下男が対応する。その為に彼等には脇差しが与えられ、部屋には短いながらも槍さえが在った。
この二人が外敵を押さえている間に次の三人が外敵を排除する。
それでも押さえきれぬ敵は充四郎が中庭で待機し、鞆子は庭野充四郎と呼吸を合わせ、座敷の辺りで待ち構える。
弥次郎は金を持って離れに逃げ、甚八がそこを守る。
屋敷の周囲は高い板塀で守られており、侵入は玄関門からしか考えられず、その守りは完璧だった。
元々この屋敷は博多にいる大商人の住まいであったが彼等はもっと便利な所へと居を移し、最近は荒れ果てていた。
それを借り受けるに当たり、弥次郎が手配した者達に荒れた屋敷を綺麗に整備させ、住めるようにした。
その手配された者達が現在の下男下女達であった。
鞆子がここに着いた時、下男達は不審な目で彼女を見たが、たまたまそこに出て来た弥右衛門が鞆子を屋敷内に招き入れた。
不審な目で見ていた下男二人を横目に、鞆子は夕餉の席には皆と同席して座り、晴海の誘いを疲れているからと断って、充四郎に目配せをした。
すると晴海は下女を呼び、自分の部屋に酒と料理を運ぶように言いつけ、帰ってきた鞆子には何も訊かず、そのまま皆が集まる座敷を出て行った。
どうやらその若い下女も、晴海のお手つきであるように鞆子の目には見えた。
それを機に他の者達も手早く飯を終わらせ、一人、一人とそこを去り、残ったのは充四郎と鞆子だけになった。
それを待っていたように鞆子は下女に酒を所望し、充四郎の方に擦り寄っていった。
「今晩どうだい。」
鞆子は充四郎に酌をすると直ぐに、その身体に触れた。
「疲れているのではなかったのか。」
充四郎は皮肉っぽい笑いを漏らした。
「あんたはあの様子を見ていただろう。なら解ると思うが、今は回復のため、屈強な男の精が居るんだよ。」
鞆子は妖艶な笑いを見せ、充四郎の股間に自分の手を添えた。




