獣人達との生活
さて、獣人の里に受け入れられたとは言っても、じゃあ後は何かあるまでのんびりニート生活、なんて出来るわけがないし、するつもりもない。
お世話になるんだから、ちゃんと働かないとな。
というわけで今、俺はガルさんと一緒に、食料調達のため森に狩りに出ていた。
「《神雷ノ太刀》」
カチン、と刀の鍔を鳴らしながらの抜刀術で、熊を一瞬で仕留める。
本来なら不殺の技だけど、威力を調整すれば当然殺すことだって出来る技だからな。
コレ、狩りにおいては余計な血を流して可食部を減らさないで済むという利点があるので、めちゃくちゃ便利だ。
「……やるな、テオが懐くだけはある」
「懐くかどうかに実力は関係なくないですかね……?」
今日は熊鍋かなー、なんて考えながら獲物を引きずる俺に、ガルさんはものっすごい複雑な顔でそう言った。
普通、子供が懐くのってもっとこう、態度とか優しさとか、そういうのじゃないの?
「獣人だからな、肉体的な強さには誰もが憧れを持つものだ」
「それ、男の子だけとかではなくてですか?」
偏見だけど。
「いいや、俺の妻も、俺の強さに惚れたと言ってくれたからな。女は男の強さに惹かれるものだ」
「そーっすか……」
まあ、強さ=頼りがいと考えたら、そうおかしな話でもないのかもしれない。
急に惚気られた俺としては、それくらいのリアクションしか取れないけど。
「だからきっと、テオもお前の強さに惚れこんで……くぅ、以前はパパ強くてカッコイイ、などと言ってくれていたのに……!!」
「アッハイ」
要するに、娘を取られて嫉妬しているわけか。
まあうん……娘はまだいないから想像しか出来ないけど、理解は出来る。
「というわけで、勝負だ!! どちらがより多くの獲物を狩って帰れるか、競うぞ!!」
「……まあ、いいですけど」
獣人がめちゃくちゃ大食いだってことは、テオを見れば分かる。
この森は魔力が豊富で、この巨大熊レベルですらかなり繁殖力が高いそうなので、俺達二人で狩りまくってもそうそう絶滅したりはしないらしいから……まあ、大丈夫だろう。
「では、狩りの開始だ!!」
「早っ」
ダッシュで森の奥へ駆け抜けていくガルさんを見送った俺は、苦笑交じりに呟いた。
「まあ、こういうのも獣人達に受け入れられるための一歩だと思えば、アリか」
そのためにもまず……この巨大熊、里まで運ぶか。
「ふっふっふ、どうだ!! 俺の方が大漁だぞ!!」
お昼頃まで狩りを続け、積み上がった獲物の数はガルさんの方が上回っていた。
仕留めるだけなら、多分俺の方が早いんだけど……索敵能力と、何よりこの重すぎる獲物をここまで持ち帰るのにかかる時間で差があり過ぎたな。
こればっかりは、流石は森のプロというべきだろう。
「はい、完敗です。お見それしました」
「ふっふっふっふっふ」
テオの関心を取られたのがよっぽど悲しかったのか、大人げなくこれ以上ないほどのドヤ顔を見せるガルさん。
一方、そんな俺に不満そうなのが、里で待っていたミュリアである。
「むぅ……ロロン、手抜いたの?」
「抜いてないよ、直接の強さならまだしも、狩りに関しちゃ俺は素人なんだから」
こんなお遊びでも、俺が負けるのはお気に召さないらしい。
ガルさんが言ってた、女も男の強さに惹かれるものだっていうの、案外外れてないのかもなぁ。
「そんなに膨れっ面見せるなって、可愛い顔が台無しだぞ?」
「むきゅっ」
膨らんだ頬を指で突くと、ミュリアは益々不満そうに口を尖らせる。
そんなミュリアに、俺は森で見つけ出した果物を取り出した。
「ほら、これあげるから機嫌直せって」
「……これは?」
「ミュリアはあんまり肉とかガッツリ食べるタイプじゃないだろ? だから、こういうのも必要だろうと思って、探しておいたんだ」
ミュリアは子供の頃にほとんど何も食べない日々を送っていた影響もあってか、食が細い。
だから、肉よりも野菜とか果物の方を好む傾向があるし、肉ばっかり獲って熊鍋パーティー、ってなった時に困るかと思ったんだ。
そんな俺のプレゼントに、ミュリアは小さく笑みを溢した。
「えへへ……ありがと、ロロン。やっぱり、ロロン……大好き」
「俺もだよ、ミュリア」
うん、こんなに喜んでくれるなら、わざわざ探し回った甲斐があったよ。
そんな風に思っていたら……ガルさんが、なぜかその場に崩れ落ちていた。
……どったの?
「今回は俺の負けだ……だが、次は負けないからな!!」
「……はい?」
いや、狩り勝負は俺の負けだと思うんですけど。
そう反論する暇もないままに、ガルさんは走り去って行ってしまった。
……そこの積み上がった獲物、どうするんだろ。
「仕方ない、調理場の方に運ぶか。ミュリア、手伝ってくれるか?」
「うん……私も、料理頑張るから……楽しみに、しててね」
「ああ。そうだ、せっかくだから、魔道具を使って獣人のみんなに宣伝してやってくれ。獣人達が新しい顧客になってくれたら、フレイさんとエンジュも喜ぶだろうし」
俺達、一応はファイアロード家の魔道具テスターだからな、今は。
「分かった。上手く行ったら、褒めてね……?」
「もちろん」
ミュリアを軽く撫でながら、俺は狩り集めた熊肉を運んでいく。
その後、獣人の女性たちとミュリアが一緒に料理した結果、便利な調理用魔道具にえらく感動したとかで、後日ファイアロード家との渡りを付ける約束を交わしたりとかの騒ぎがあったけど、それは余談である。




