獣人達との話し合い
里長のコンラッドさんに案内される形で、俺とミュリアの二人は獣人の里へと足を踏み入れた。
森の中にぽっかりと空いた平地に築かれた、木造の集落。
思ったよりも人間の集落と変わりないな、なんて感想を抱いていると……遠巻きに、警戒するように俺達を見ていた獣人達の中から、見知った顔が飛び出して来た。
「ロロン……ミュリア……!!」
「テオ!」
「テオ……!」
周囲の目など知ったことかとばかりに飛び出したミュリアが、テオの体を抱き締める。
俺もすぐ傍に向かうと、テオはポロポロと泣き始めた。
「ごめ……ごめん、なさい……! テオ、何も……言えなくて……!」
「気にするな。俺達も、獣人達も、誰も怪我してないよ」
魔力を吸われてダウンしてる獣人は多数だけど……寝れば数時間で回復するだろう。
「ん……ロロンの、言う通り。あの程度で、私達は……負けない」
自信満々に断言しながら、テオをよしよしと撫でるミュリア。
事実その通りなんだけど、その言い方だと獣人の皆さんが怒るんじゃないかな……。
何となく、俺達を囲うように警戒していた獣人達からの視線が厳しくなっているのを感じつつも、招き入れられたのはコンラッドさんの屋敷。
なんでも、この里にはいくつもの氏族が集っていて、氏族ごとの代表が集まって話し合いをする場でもあるんだとか。
そんな屋敷の中には、既に獣人達が集まっていた。
狐獣人のコンラッドさん、狼獣人のガルさんの他、猿獣人、猫獣人、熊獣人、鷹獣人……色々いるなぁ。
明らかに場違い感のあるその場所に、俺とミュリア……ついでにテオが、並んで座る。
テオはガルさんの傍がいいんじゃない? あ、俺達の傍にいてくれるの? ありがとな。
「さて……改めて、テオを里まで送り届けてくれたこと、感謝する。何かワシらに出来ることであれば、何でも一つ叶えてやろう」
「あ、じゃあ一つお願いというか、大事な話があります」
「なんじゃ?」
「実は──」
ちょうどいいので、俺達がここに来るまでに掴んだ情報……大悪魔が、この獣人の里を狙っているという話を語って聞かせた。
恐らくそいつは、王国の中でも重要な地位にいて……もしかしたら、"戦争"になるかもしれないってことも。
「人間が、我らを滅ぼそうとしているというのか!?」
「国全体の方針ってわけじゃない、少なくとも王族は反対してくれるはずだ。ただ、貴族達はどいつもこいつも独自の騎士団を抱えてるし……何かしらの"言いがかり"を付けて、そいつらが独断で攻めて来るってシナリオは十分考えられるだろうな」
たとえば、森の近くに完全武装の騎士団を展開して、何かしらの小競り合いを誘発する。
それを、国内には"獣人達がいきなり襲い掛かって来た"と喧伝して攻め込むと、獣人達が無罪かどうかなんて当事者以外誰も調べようがないんだ。
その"当事者"である獣人を全員捕らえてしまえば、もう獣人の無実を晴らせる者は誰もいなくなるって寸法だ。
「なんと卑劣な……ッ!!」
「それが人間のやり方か!!」
「あくまで例え話だけど……まあ、ちょっと言い訳出来ないなぁ……」
実際、俺でも簡単に思いつくこの程度のマッチポンプ、平気な顔して仕掛けて来るだろう。
まして、今回はバックに大悪魔が控えてるんだ。
強引な建前で攻めて来て、自分の立場が脅かされるようなことになっても……悪魔からしたら、何の痛手でもないだろうしな。
「だから、俺からのお願いは"俺の言葉を信じて警戒してくれ"ってことだ。俺達も色々あって、"そいつら"に王国を追われた身だからな、状況が落ち着くまで、この集落で暮らすことを認めて貰えると更にありがたいんだけど」
そう、今回の件は、何も獣人達を守るだけの話じゃない。
俺達が追い出されることになった原因も、その大悪魔にあるのなら……その野望を打ち砕き、逆にそいつの喉元に刃を突き立てることが出来たなら、冤罪を晴らして堂々と王都に帰ることが出来る。
ミュリアのために、必ず成し遂げないと。
「……いいじゃろう」
「里長、本気か!?」
「言ったはずじゃ、この者達が本気になれば、二人だけでこの里を壊滅させることなど容易いと。それをせず、こうも回りくどい真似をしてワシらを騙す理由などあるまい。それに……人間が攻めて来るかもしれないから警戒せよ、という話だけなら、何か損があるわけでもなかろう?」
「むむぅ……しかしだな……!」
狼獣人のガルさんは、どうにも俺達が信用ならないみたいだ。
まあ、仲間を何人も人間に攫われて……テオは帰って来たとはいえ、他の人達は恐らくもう、この世にいない。
となれば、同じ人間である俺達に嫌悪感を抱くのも、無理はないだろう。
ただそれでも、攻めて来るのは恐らく間違いないんだし、そこは信じて貰いたいんだが……。
「……ロロンを、信じて」
すると、それまで黙り込んでいたテオが口を開いた。
俺にぴったりくっついて、ガルさんを睨むように。
「ロロンは……テオを、助けてくれた。守って、くれた。テオが、不安にならないように……ずっと、優しくしてくれたの」
ぎゅっと、俺の服の裾を掴む。
そして、思い切り息を吸って……叫んだ。
「そんなロロンを、悪く言うなんて……パパ、嫌い!!」
「「な、なんだって!?」」
悲壮な顔で叫ぶガルさんと、俺の声がハモってしまった。
いやだって……ガルさん、テオのパパだったの!? ずっとそこにいたのに、テオは俺達の傍にいたから……てっきり、あまり関わりのない親戚のおじさんくらいかと……。
「いや、パパはな? みんなのために色々と考えて……」
「じゃあ、コンラッドおじいちゃんみたいに、ロロンのこと……信じてよ!! ばかっ!!」
「う、うぐぅ……」
厳つい族長さんも、実の娘には弱いのか。たじたじになってしまっている。
そして、何度も俺とテオの顔を交互に見て……頭を掻きむしりながら、叫んだ。
「あーーもう、分かった!! 里長の言う通り、警戒するだけなら普段より少し気を引き締めて仕事をするだけだからな。お前達の滞在も、今は認めてやろう。だが!! 何か怪しい動きを見せたら、すぐに追い出してやるからな!!」
「それで十分だよ。えーっと……パパさん?」
「お前にパパと呼ばれる筋合いはない!!」
何となく、最後は会議室を生温かい空気が包むのを感じながら……俺達は、どうにか獣人の里に受け入れられるのだった。




