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誤解からの対峙

 獣人達にこれから迫り来る脅威について伝えるため、言葉による話し合いの前に、物理で殴る方の話し合いをすることになった。


 とはいえ、獣人達は意外にも、接近戦はお好みではないらしい。

 木の上から、一方的に弓矢で射かけて来た。


「ミュリア」


「任せて」


 俺が前に出て迎撃の構えを取ると、すぐにミュリアは攻撃のための魔法を編み始めた。


 以心伝心、なんて言葉が浮かんでちょっぴり気分を高揚させながら、俺は居合で迫り来る矢を全て斬り払う。


「《黒触手ブラックテンタクル》」


 ほぼ同時に、ミュリアから無数の黒い触手が放たれ、弓を携えた猿の獣人へ向けて殺到した。


「くっ……うおぉ!?」

「うわぁぁ!? なんだこれは!?」


 逃げようとする獣人達を、壁となる木々を薙ぎ倒しながら捕らえるミュリア。


 あまりの力業に、俺もちょっと苦笑いだ。


「ミュリア……木も必要以上に倒さないようにね? 環境破壊は怒られるから」


 多分。


「むー……めんどくさい」


 ぶー、と頬を膨らませながらも、一応頷いてくれたミュリア。


 それはそれとして、とばかりに、捕らえた獣人達へ魔法を使った。


「《魔法吸収マジックドレイン》」


 あの触手を媒介に、魔力を喰うことで魔法を防ぎ、吸収する魔法。


 人を相手に使えば、その体内魔力を吸い上げて、気絶させることが出来る。


 獣人はあまり魔力を持たない種族だったと思うけど、別に魔力が全くないわけじゃないからな。

 無力化するだけなら、一番良い選択肢だろう。


「やめろ!!」

「仲間を放せ!!」


 再び矢を射掛ける猿の獣人達。

 けど、それだけじゃ不足だと思ったんだろう、矢から一瞬遅れて、茂みから狼の獣人達が飛び出して来た。


「ウォォォォォ!!」


 この男、さっきテオを連れ去って行った人だな。

 俺が矢を払った隙を突いて、無防備なミュリアを仕留めようと槍を構えている。


 一方のミュリアは、それが見えているだろうに、全く回避する様子もなく、俺が防ぐことを完全に信頼しきった目で、“その後”の反撃のために魔素を練り上げていた。


 ……全く、少しは疑いなさいよ。

 俺だって、毎回毎回完璧に防げるわけじゃないんだからな?


「まあ、これは防ぐけど」


「ぐっ!?」


 槍の穂先を斬り飛ばし、回し蹴りで狼獣人の体勢を崩す。


 こいつらの連携は完璧だったし、ほぼ理想的な時間差攻撃だったと思う。


 でもまぁ……それを俺達に届かせるには、シンプルにスピードが足りないな。


 どうしても一撃入れたいなら、今の倍の物量で押し切るか、もっと予想外の搦め手を持って来い。


「《黒触手ブラックテンタクル》」


「ぐわぁぁ!!」


「族長!!」

「くそっ、族長を離せぇ!!」


 ミュリアの反撃で捕らえられたその狼さん、どうやら族長だったらしい。

 確かに、よく見れば壮年の偉丈夫って感じで頼り甲斐のある体付きをしてるなぁ。


 しかし参った、ある程度力を示せば、警戒心から少しは攻撃の手を緩めてくれるかと思ったんだけど、緩むどころかどんどん殺気立ってる。


 このままだと、悪魔の前に俺達が獣人を攻め滅ぼした悪党になっちゃうし、いい加減止まって欲しいんだけど……。


「止めい!! お前達、矛を収めよ!!」


 困っていたところに、森の奥から大きな一括が響き渡る。


 獣人達がどうすべきか困惑しているのを余所に、そちらに目を向けると……フサフサの尻尾が幾重にも別れた、化け狐系のお爺さんがそこにいた。


「里長!! なぜ止めるのです!?」


「ガル、お主も狼氏族を束ねる族長なら、もう少し理性的に物事を判断せぬか。その者達に害意はない」


「しかし、こいつらはテオを……!!」


「もしそやつらに害意があるなら、お主らはとうに全滅しておるわ。力の差が分からぬほど、愚かでもあるまい?」


「っ……!」


 触手に捕まったままの狼の族長と、狐の里長が話し合ってるのを、俺もミュリアも黙って聞く姿勢。


 ……正直よく分からんけど、雰囲気的には族長より里長の方が立場が上っぽい。


 どういう社会システムしてるんだろうなー、なんて呑気に考えていると、その里長は俺達の前まで歩いて来た。


「里長!! 危険です!!」


「黙っておれ。誰も動くでないぞ」


 他の獣人達の制止を振り切ってまでやって来た里長に対して、俺も刀を納めてミュリアに手渡すことで話し合いに応じる姿勢を示す。


 刀を置くのではなくミュリアに手渡したのは、まだ里長以外が武装解除していないからだ。


 二人しかいない俺達が一人武装解除するのと、最初から丸腰の爺さん一人が前に出るので対等かっていうと、微妙な気がするけど……まあ、俺達に敵意がないことを示すには、ちょうどいいだろう。


 最悪の場合でも、ミュリアが戦えれば逃げるくらいは出来るし。


「うちの者達が失礼した。ワシの名はコンラッド、獣人氏族全ての意見を束ねる里長の役を担っておる者じゃ。まあ、お飾りのトップとでも思えば良い」


「俺はロロン。……ファイアロード伯爵家の魔道具テスター兼冒険者だ。獣人の子供を保護したから、ここまで連れて来たんだ」


 俺自身、ほとんど忘れかけていた設定を口にすると、コンラッドさんは特にそれを追求することもなく「そうか」と頷いた。


「同胞を救ってくれたこと、感謝する。このような場ではロクな話も出来まい……里に案内しよう」


「ありがとうございます」


 ひとまず、受け入れて貰えたようでひと安心だ。


 ホッと胸を撫で下ろした俺は、ミュリアと一緒に獣人の里へと向かうのだった。

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