断罪の刃
ゴーズと俺の戦いに乗じて、少しずつ包囲網を築いていったんだろう。
見るからに荒くれ者……それも、ゴーズと同じように異形の力を宿した人間達が、何十人と俺を取り囲んでいた。
よくもまあ、こんなにも人外を用意出来たもんだと思うよ……反吐が出る。
「はあ……お前らも、こいつみたいに何か弱みでも握られてんの?」
一応、聞くだけ聞いてみる。
正直、これ以上知ったところで俺には何も出来ないし、悪魔への悪感情が強まるだけなのは分かってるんだけど……それでも、聞かないという選択肢は取れなかった。
「弱みぃ? 何の話だ?」
「その力の代償に、お前らは何を差し出したんだって聞いてんだよ」
「ああ……はははっ! こいつは傑作だぜ!!」
なぜか急に笑い始めたその大男に、俺はただ冷めた眼差しを送り続ける。
「ねぇよ、そんなもん。他人をぶっ潰して思い通りに出来る力をくれるっていうから、クライアントの言う通りに仕事をこなしてるだけだ。報酬も信じられねえくらいの額を気前よく払ってくれるしな、最高だぜ!!」
「……そうかよ」
同情の余地が仮にあったところで、戦いは避けられなかっただろう。
でもこれで……本格的に、躊躇する必要はなくなったな。
「そしててめぇは、そのクライアントから"殺せ"って言われてるんでな!! 獣人のガキも、クライアントが今特に欲しがってる素体だそうでな、返して貰うぜ!! てめぇら、やっちまえ!!」
男達が、またも魔法を練り上げる。
そのまま、何の躊躇もなく俺に向かって放たれて……俺は、刀を抜き放った。
「《神炎ノ太刀》」
先ほどと同じように、先ほどよりも完璧に、全ての魔法を切断する。
空中で真っ二つになって消えていく魔法を見て、大男は舌打ちを漏らした。
「ちっ、ゴーズの野郎と纏めて焼いたってのに、元気な野郎だぜ。お前ら、もう一発だ!!」
そう叫ぶも、大男に反応する仲間は一人もいなかった。
まあ、それも当然だろう。何せ……。
「おいお前ら、どうしたん……だ……?」
一人残らず、俺が首を落としたから。
その光景に、大男は唖然としたまま固まっている。
「バカな……一体、何が起きた!?」
「何が起きたも何も、俺が斬った。それ以外ないだろ?」
「はあ!? あり得ねえだろ、この人数だぞ? この距離だぞ!? 魔法が発動するような兆候もなかった……!! 剣なんかで、どうにか出来るはずがねえ!!」
よっぽど想像の埒外だったのか、大男は取り乱しながら必死に叫んでいた。
だから俺は、そんな大男へ向かって一歩前に踏み込む。
次の瞬間には、大男の目の前で拳を握り締めていた。
「ぐはぁ!?」
全力で殴り飛ばした結果、大男が転がっていく。
明らかに混乱した様子ながらも、このままではマズイという危機感はあるのだろう。
その腕を隆起させ、巨人のように大きく肥大化させながら、反撃とばかりに殴りかかって来た。
「舐めんじゃねぇぇぇ!!」
キンッ、と。鍔を鳴らし、大男の背後で刀を納める。
は? と大男が唖然とする中……その異形の巨腕が、血を噴きながら宙を舞った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!? 腕が、俺の腕がぁぁぁぁぁ!!」
「うるさいな。テオが起きたらどうするんだよ」
正直、こんな光景……テオには、あまり見せたくない。
「な、なぜだ……こんな、聞いてねえぞ!? こんな、バケモンみてぇに強えなんて……!! そんな力が、あったなら……あの男を取り逃がすなんて、絶対に……あり得ねえだろう……!?」
「……ああ、そうだな。本気で殺すつもりだったら、最初に会った時点で、全員首を刎ねてたよ」
結局俺は、この手で"人間"を殺すことに、どこかで抵抗があったんだ。
前にラインベルク領で、大悪魔が作った組織を壊滅させるのを手伝ったことがあったけど……あれも、本当にヤバい相手以外は、全部ラインベルクの騎士が対処してくれていた。
まだ子供だった俺達の力を認めながらも、出来るだけ最後の一線を越えないように気を遣ってくれていたんだろう。
今になってようやく、俺自身も伯爵に守られていたんだと気付いて、感謝の気持ちが湧いてくる。
「だからもう、迷わない」
「ひっ……!?」
ミュリアのこと、ちゃんと責任を取るって決めたんだ。
テオのことも、一度守ると決めたからには、最後まで面倒を見ないといけない。
誰かが解決してくれるのを待つんじゃなくて、俺自身の手で。
目の前の障害を排除して、大事な物を本当の意味で守るために。
「知ってること、全部吐け。お前の"クライアント"って誰のことだ? そいつは何を目的として、今どこで何をしている?」
「話す!! 知ってることは全部話すから、だから……見逃してくれ!!」
みっともなく命乞いをする大男に呆れながら、俺は"クライアント"とやらについて、ようやくその全貌を掴むことが出来た。
だからこそ、余計に……心の底から、嫌悪感が湧いてくる。
「こ、これで全部だ!! だから、これで助……」
「そんなわけいくかよ」
聞けるだけの話を全部聞いた俺は、大男の首をそのまま刎ね飛ばした。
……こいつの話が真実なら、"クライアント"とやらはこれまで、数え切れないほど大量の人を使って、異形化の実験を繰り返して来たらしい。
特に最近は、獣人の強靭な肉体を使うことで、悪魔にも匹敵する従順な手駒を作る実験をしていたそうで……この男も、テオより前に何人も、同じような子を差し出しているんだそうだ。
正直に喋った程度で、許される罪じゃないだろう。
それに……そいつが今狙っている"作戦"を知って、黙認していたことも。
「クライアント……マモンっつってたよな。……この際、お前が悪魔だろうが何だろうがどうでもいい。絶対に、ぶっ潰す!!」
大悪魔の狙い。それは……俺を殺して肉体を手に入れ、"悪魔の器"を超える自分だけの新しい肉体を作り出すことだった。
でも、それはまあどうでもいいっちゃどうでもいい。
俺を殺そうと刺客を差し向けて来る分には、返り討ちにすればいいだけだからな。
問題は、もう一つの狙いの方。
手に入れた俺の肉体を改造するための、"材料"……それを、手に入れるために。
テオの故郷、獣人達の里を攻め滅ぼして、大量の実験体を纏めて手に入れようとしていたことだ。




