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悪魔に仕える者

 俺が考えた新技によって、ゴーズの透明化そのものにはある程度対処出来るようになった。


 こうなれば後は楽勝……って言えれば良かったんだけど、残念ながらそうはいかない。


 まず単純に、透明化を見破るために《霞祓い》を使えば、それ自体が一つの隙となること。


 この前倒した連中は透明化に頼り切りだったけど、こいつは透明化が無くても結構“やる”。

 だから、俺が《霞祓い》で透明化を見破ると分かっていれば、それを前提に戦闘を組み立てて来るんだ。


 加えて……。


「ふんっ!!」


「おっと……!!」


 ゴーズの鉤爪を、鞘で防ぐ。

 衝撃を逃がすために、一歩後ろへ下がって……背中が、少しだけ斬られた。


 以前にもやられた、不可視の刃。

 一度設置したらそこから動かず、気配も感じない、タチの悪いトラップとして機能するあいつの技だ。


 これを看破するために、こいつが透明化していようがいまいが定期的に《霞祓い》を使う必要がある。


「面倒だな……」


「そう思うなら、もう諦めたらどうだ?」


「どうしてそうなる。こっちは未だに擦り傷しか負ってないのに」


 逆に、ゴーズの方は俺の攻撃を結構受けてる。

 最初に肩を切り裂いたのもそうだし、《霞祓い》で位置を割り出す度にちゃんと一撃入れてるから、血が流れなかった箇所を探す方が難しいくらいだ。


 ……ただまあ。


「ふ……“擦り傷は着実に積み重なっている”の間違いだろう? 逆にこちらは、どんな傷を受けようと再生する」


「…………」


 そう、俺が手間取っている最たる原因は、こいつの技量や透明化の能力以上に、その再生力だ。


 結構深く入ったと思ってもすぐ治るし、さっきは手足を斬り飛ばしても再生しやがった。


 首でも刎ねれば死ぬのかもしれないけど……流石に、急所だけはしっかり庇ってるから、今のところ試せていない。


 あまり時間をかけ過ぎて、テオが起きて来たり……ミュリアが焦れて飛び出して来ると色々と大変なことになるしなぁ。


「仕方ないな……こうなったら、少しリスクを踏むとするか」


「今までの戦いが“安全策”だったと……? 面白い。そこまで言うなら、見せてみろ」


 俺が気になっているのは、本当に敵が目の前にいるゴーズだけなのか? ってことだ。


 前に対峙した時も感じたけど、こいつは一対一の戦いに拘るようなタイプには見えないし、目標達成のためなら手段を選ばない非情さを持ち合わせている。


 だからこそ俺は、ミュリア達のいるテントからなるべく離れず、攻撃のために離れてもすぐ戻って来るように立ち回っていた。癖みたいなものだ。


 でも、もうその必要はないだろう。


 ミュリアはもう……俺が守ってやらなきゃ何も出来ないほど、弱くはないんだから。


「行くぞ」


「……来い」


 足の魔道具で風を起こし、前へ。

 同時に、《魔祓い》で進行方向にある不可視の刃を割り出し、刀で断ち切った。


「真正面からとは、芸がないな!!」


 ゴーズは、俺の突撃に対して後ろに下がっていく。

 ランダムに不可視の刃を生成していくことで、俺が対処に失敗してあわよくば負傷してくれるのを狙ってるんだろう。


 でも、関係ない。

 こいつがどこを狙って刃を配置するかは、もう概ね把握してるから。


「何っ!?」


「芸がないのはそっちだろ」


 こいつは絶対に、“致命傷にはならない部位を狙って”刃を設置する。


 どこにあるかも分からない攻撃なら、体を再生出来ない普通の人間は全く動けなくなるか、当たれば致命傷になる部位だけは守ろうとする……そんな心理の逆を突いてるんだ。


 だから、俺が庇うべきは戦闘力の要となる手足。

 首や心臓、腹のある位置は概ね当たらないだろうと当たりを付けて、低い姿勢のまま魔道具の力で宙を翔けるという奇妙な動きで急接近した。


 案の定、擦り傷一つ負わずに通り抜けられた俺は、そのままゴーズへと刀を振り下ろす。


「ぐおぉ!?」


 鉤爪を盾に、致命傷を避けるゴーズ。

 奴はそのまま、後ろに跳んで距離を置こうとするけど……俺は更に一歩踏み込み、ゴーズの腕を掴み取る。


「逃がさねえよ」


「なっ!? ぐぅ!!」


 不可視の刃は、魔力の気配も何もなく、ただそこに出現して触れた相手を切り裂くトラップ。

 これを攻略する一番楽な方法が、使い手であるゴーズに常時へばりついて戦う、超接近戦インファイトだ。


 何せ……設置後は何一つとして気配を感じ取れないってことは、一歩間違えば本人も巻き込みかねないってことだからな。


「多少の傷なら余裕で回復出来るお前なら、無視して戦うっていう手もあるだろうけど……出来ないんだろ? 《《万が一急所に当たったら死んじまうから》》」


「っ……!!」


 こいつの不可視の刃の使い方は、どうしたって人は本能的に急所を庇うだろうという常識に則ったもの。


 だからこいつは、そこで思い切る度胸がないんじゃないかって踏んだんだけど……図星だったかな?


 まあ、違うなら違うで、手もあるんだけど。


「舐めるなよ、小僧が!!」


「おっと……」


 鉤爪を振るい、反撃に転じるゴーズ。

 俺が煽ったから、コイツも保身を頭から放り捨てたんだろうか?


 頭に血が昇っただけなら、やりやすいんだけど。


「俺は死など恐れない。偉大なるマモン様のため、この命の限り全てを捧げると誓ったのだからな!!」


「だから、どうしてそうなるんだよ! 何か弱みでも握られてんのか!?」


「弱みではない!! ……俺の献身と引き換えに、不治の病にかかった妹を助けるという契約をマモン様と交わした。そのお陰で、妹はまだ生きている」


「……は?」


 鉤爪と刀で斬り結びながら、思わぬ話に呆気に取られる。


 不治の病にかかった妹を救う代わりに、体を改造してまでソイツに尽くしてるって?

 そんなの……。


「嘘に決まってんだろ、病気を治すなんて、そんな力悪魔にあるわけがない!!」


 悪魔の力は、魔力や生命力の吸収だ。

 吸い取った力を使って色んな魔法を使うことも出来るけど、その本質は“奪う”ことにあって、“与える”ような力は無い。ミュリアと長い付き合いだからこそ、俺はそれをよく知っている。


 けど、目の前にいるゴーズは知ったことかとばかりに吐き捨てた。


「ならばどうしろというのだ!? 日々弱っていく家族を、黙って見ていろというのか!?」


 そう言われたら、俺に反論の余地はない。

 俺が前世の記憶を持たないただの子供で、ミュリアを助けるために悪魔に魂を売れと唆されていたら……抗えたかどうか、あまり自信はないから。


「だからこそ、貴様に負けるわけにはいかんのだ!!」


「っ……言い分は分かった。けど、負けられないのはこっちも同じなんだよ!!」


 同情の余地があるからって、悪魔に屈してミュリアを害そうとしている事実に変わりは無い。


 誰が相手だろうと、どんな理由があろうと、俺はミュリアを守るために──


「っ!?」


 その瞬間、周囲から肌を刺すような強烈な殺意が叩き付けられ、俺は慌てて対処のために一歩後ろへ跳んだ。


 けれど、ゴーズはそれに気付いていないのか、あるいは気付いていてなお俺を殺すために動いたのか。

 腕を伸ばし、俺を妨害しようとした。


「本当に……バカ野郎が!!」


 《神炎ノ太刀(ヒノカグツチ)》──

 炎の属性を帯びた魔素の刃を、抜刀の勢いで強引に振り抜く。


 俺を取り押さえようとするゴーズの腕を斬り飛ばしながら、俺に向かって飛んでくる無数の魔法を諸共に切断して……。


 それでも防ぎ切れなかった魔法によって、俺とゴーズは丸ごと爆炎に呑み込まれた。


「くはははは!! 良いタイミングだ、これで気に食わねえアイツも、クライアントの要望も、纏めて叶えられたってもんだぜ!! ……んん?」


 クソみたいな笑い声が響く中、俺は土と血が混ざった唾を吐きながら立ち上がる。


 服は黒焦げだし、所々少し火傷もしたけど……まあ、致命傷には程遠い。


 ただし……俺に両腕を斬られ、防御の手段を失っていたゴーズに関しては、その限りではなかった。


「なんだよ、まだ生きてんのか……おいてめぇら、次だ!!」


 俺達を取り囲む男達が、何か騒いでるが……俺は、足下に転がる焦げた焼死体をじっと見つめる。


 ……こいつは紛れもない悪人だし、俺も殺されかけた。

 だから、別にこいつが死んだことが悲しいわけでも何でもない。


 ただ、それでも。


「どいつもこいつも……仲間を、なんだと思ってんだ……」


 非常に……気に入らない。

 そんなことを考えながら、俺は周りを取り囲む敵を睨みつつ、刀に手をかけるのだった。

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