一夜を超えて
「おはよう、ロロン」
朝になり、俺は目を覚ました。
過重労働(?)もあって全身めちゃくちゃ痛いんだけど、その元凶とも言える少女はむしろ元気が有り余っているようで、いつにも増して肌が艶々している気がする。
「昨夜は、楽しかったね……ロロンの気持ち、いっぱい伝わって来て……嬉しかったよ。えへへ」
あまりにも満足そうな、可愛らしい笑顔を向けられて、俺は顔が熱くなっていくのを感じた。
……一応、"そういうこと"をするための魔法というのも存在するし、ちゃんと使ったので、本当に取り返しのつかないことにはなっていないはずだ。
ただ、うん。そういうの抜きにしても、後悔しなかったかもしれない。
「そ、それより、テオはもう起きてるか?」
ぶっちゃけ、俺の寿命が王都に帰るまでになってしまったことよりも、テオの事の方が気になるまである。
いや、いくらそういう流れだったとはいえ、テオが寝ている横で"そういうこと"するのはちょっと節操無さ過ぎた。
万が一起きても何も分からないように、遮音+遮光の壁をミュリアが張ってくれていたんだけど……バレてないよね?
「テオは、まだ寝てる。心配しなくても、見られてなんかないよ」
「そ、そうか……ならいいんだけど……」
無事に家族の下まで送り届けなきゃいけないのに、その前にこんな余計な知識を与えてしまうのはよろしくない。
今日からは大人しくしよう、と思っていると……ミュリアがそっと耳元で囁いた。
「今日も……楽しみにしてる」
「…………」
毎日やる気ですか、あれを。
俺、王都に帰るまで生き残れるかな……?
「テオが起きるまで……朝ごはん、作ろっか」
「ああ。ちょっと森に入って肉獲って来るよ、待っててくれ」
悪魔に比べたらよっぽど分かりやすい獣の気配を探り当て、必要なだけ狩って戻って来るだけなら、十分とかからない。
というわけで、サクッと朝の食料を手に入れて戻って来ると、その頃にはミュリアが火を起こして調理の準備を整えてくれていた。
血抜きとか皮の処理とか……一応、学園では騎士になればそういう技術も必要だってことで一通り教わるんだけど、実践の機会もないままこうなったから、結構うろ覚えだ。
ミュリアからも補足されながら、慣れない作業を終わらせて、鍋でゆっくりコトコトと煮込む。
出て来るアクを捨てながら、まったりとした時間を過ごし……その間に話すのは、例の襲撃者についてだ。
「そいつが、大悪魔の手先だったとして……何が、目的なのかな……? 人間、なんだよね……?」
「ああ、しかも体を半分魔物に変えられてた。あの様子だと、自ら進んでああなったって感じなんだろうけど……」
力が欲しかった。なんてシンプルな理由も無くはないかもしれないけど、それだけでああも組織立った動きは出来ないだろう。
考えられるとしたら……。
「今回、俺達にちょっかいをかけて来てる大悪魔……人間社会で、結構な立場があるのかもしれない」
「……悪魔なのに……?」
信じられないとばかりに、ミュリアが目を見開く。
これまで見てきた悪魔は、人を殺し、人の営みを破壊して、そこに生じる負の感情を喰って生きてる連中ばかりだったから……社会の一員として暗躍する悪魔がいると言われても、ミュリアにはピンと来ないのかもしれない。
でも、もしそうだと仮定すれば……そもそも俺達が二人で王都を逃げ出さなきゃならなくなった理由にも、一定の説得力が生まれる気がするんだ。
悪魔なら、普通の人間なら絶対に取らないような選択肢も、平然と取れるだろうし。
「そう有り得ない話でもないさ。人間だって、食べ物を得るために家畜を育てて繁殖させたりするだろ? 似たようなもんじゃないか?」
実際、アニメでもそういう悪魔がいたはずだ。
俺が直接見たわけじゃなくて又聞きだから、どういう相手かちゃんと把握してないんだけど……はあ、こんなことならしっかり最後まで追うんだったな。
「……なるほど。じゃあ、その人間達も……悪魔が餌をくれるから、元気に尻尾を振ってるってこと……?」
「言い方はアレだけど、多分な。金か、女か、地位か名誉か、それとも別の何かか……内容までは分からないけど」
ただ、化け物に片足を突っ込みながら、自分の生活や欲望すら悪魔に依存して生きているのなら、もう後戻りは出来ないはずだ。説得は不可能と見ていいだろう。
これまでと違う、自らの意思で俺達に悪意を向ける人間達。
果たして、俺は躊躇なく戦えるだろうか……と少し考え込んでいると、そんな俺の手をミュリアが掴んだ。
「大丈夫……私も、いるから」
「ミュリア……」
「私とロロン、二人なら……相手が誰でも、絶対負けない。でしょ……?」
自信と希望に満ちたミュリアの言葉に、俺は思わず噴き出してしまった。
以前のミュリアなら、こんなにも真っ直ぐ力強いセリフは絶対に口に出来なかったろう。
俺が支えてばかりだったのに、今やミュリアの方が俺を支えてくれようとしているという事実が、可笑しくて……何より、愛おしいと思った。
「ああ、そうだな。悪魔の手先なんか二人でサクッとぶっ飛ばして、テオが心置き無く故郷へ帰れるようにしてやろう」
「うん……!」
そんな話をしている間にテオも起きてきて、三人で朝の鍋を楽しんだ。
……もし仕掛けて来るとしたら、今日のどこかだろうなと、そんな予感を抱きながら。




