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踏み越えた一線

「……というわけで、厄介な力を持った奴に目を付けられたっぽいから、ミュリアも十分注意してくれ」


 キャンプに戻った俺は、先程の戦闘と敵の能力について、ミュリアにも説明する。


 焼き魚をテオに食べさせて餌付け(?)していたミュリアは、それを聞いて目を瞬かせた。


「ロロンが、仕留め損なうような相手がいるなんて……」


「いや、ミュリア? 俺は別に、世界最強でもなんでもないからな?」


 ルイスには未だに勝てたことないし。


「それに……」


 テオもいたしな、とは、直接口にはしなかった。

 気にする必要はどこにもないけど、さっきまでの様子を見るに、自分の存在が足を引っ張っていたかもしれないと考え始めたらまたテオが落ち込むかもしれない。


「そっか……分かった、気をつける。……テオ、私達から、離れちゃダメだよ……?」


「うんっ」


 さっき異様に怯えていたのが嘘みたいに、笑顔で頷くテオ。

 ……ちゃんと心を開いて貰うには、まだ時間がかかりそうだな。


「ロロン」


「ん? どうした、ミュリア?」


「夜……ちょっと、話があるの。いい?」


「ああ、別にいいぞ」


 どうしたんだ? とは聞かない。

 どうも、テオの前ではしにくい話みたいだし。


「ありがと。それじゃあ……続きは、また後で」


 自身の口元に指先を当て、くすりと微笑む。

 そんなミュリアの仕草がやけに色っぽくて、夜になるまで特に意味もなくドキドキさせられっぱなしだったことは、内緒である。




「……寝たか」


「うん。かわいい」


 夜。テントの中で、静かに寝息を立てるテオをそっと撫でる。


 優しくしたつもりなんだけど、少しむずがるように動き出したので、起こしてしまったかと本気で焦った。


 結局目を覚ますことなく、そのまま眠り続けるテオにホッとしていると、ミュリアはそんな俺を見てくすくすと笑い出す。


「ロロン……不器用なパパみたい」


「ぐぬ……いまいち否定できない」


 世の父親は、みんな同じ道を歩むのだろうか。

 いや、俺まだ父親になってないから、予想でしかないけど。


「ていうか、ミュリアもそういうこと知ってるんだな?」


「うん。小説で、読んだ」


「ミュリア? 小説はフィクションであって、現実そのものじゃないからな? そこのところ分かってる?」


「むぅ……分かってる、私だって、もう……子供じゃないんだから」


 身体だって、と。

 ミュリアが、俺にしなだれかかってきた。


「え、あの、ミュリア?」


「ロロン、王都で、最後にデートした時……恋人がどういうものか、教えてくれるって……言ってたよね? ……続き、しない?」


 それがどういう意味か分からないほど、俺も鈍くはない。

 いやしかし……と俺が何か言うよりも先に、ミュリアは更に体を寄せて来る。


「それと……王都での戦いの後、言ったよね? ……私、悪魔を食べたって」


「ああ……言ってたな」


 忘れてたわけじゃないんだけど、ここまで慌ただしかったせいで聞くタイミングを逃していた。


「私の“器”を、魂も自我もない、純粋な悪魔の力で満たせば……もう、私の体が大悪魔に乗っ取られて、ロロンに迷惑をかけることもなくなるって……そう思ったの」


「……無茶するなよ。下手したら、ミュリア自身が乗っ取られる可能性だってあっただろ、それは」


 改めて目的を聞くと、正直どうしようもない苛立ちを覚える。

 俺に対する迷惑なんて、気にして欲しくなかった。

 そうでなくとも……そんな危ない橋を渡るなら、せめて相談の一つくらいはして欲しかった。


「うん……ごめんなさい、ロロン。反対されるって、思ったから」


「当たり前だろ……お前は俺の、一番大切な人なんだから」


「……ありがと、ロロン。私も、大好き」


 それでね、と。

 ミュリアは俺に抱き着きながら、耳元で囁く。


「悪魔の力……これを抑えるには、感情が籠った強い魔力が必要なの。悪魔が悲劇を振りまくのも、きっと……そうしないと、体の中で強すぎる力が暴れ出して、止まらなくなっちゃうから……だから」


 一度体を離したミュリアが、少し強引にキスして来た。


 自分の思いの丈をぶつけるような、荒々しいキスを終えて……顔を離したミュリアは、切なそうに呟く。


「お願い……ロロン。ロロンの、大好きって気持ち、いっぱい、ちょうだい?」


 多分……俺がここで、ミュリアに魔素を流し込むだけでも、ある程度落ち着くんだと思う。


 でも、それは……ここまで必死に、思いの全てを打ち明けてくれたミュリアに対して、あまりにも不誠実過ぎる。


 そう思った。


「……俺も初めてだから、上手く出来るか分からないぞ」


「うん……私も同じだから、大丈夫。……あ、でも……」


 用意した寝袋の上に、ミュリアを押し倒す。

 するとミュリアは、赤くなった表情で……多分、どこぞの小説で読んだのだろう一言を口にした。


「……優しく、してね……?」


 こうして俺は、無事に帰ったとしても公爵様に首を刎ねられることが、ほぼ確定してしまうのだった。


 ……いや、バレなきゃ大丈夫だよね? うん。


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― 新着の感想 ―
なんか段々欲望に抑えがきかなくなってない?悪魔に身体を乗っ取られなくても、その内ミュリア自身が新しい悪魔に変生しそう
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