強欲な者達
「で……商品を奪われ、有り金も奪われ、何にも無くなっちまった今のお前が、ノコノコと俺様の前に顔を見せに来たってのは、どういう了見だ?」
まるで熊のような大男に睨まれて、ギハイオはびくりと体を震わせる。
ギハイオが所属していたのは、もはや名も無き寂れた町を支配する人身売買組織“グリーディ”。 そのトップに君臨する男こそ、目の前にいるラッゾなのだ。
まるで魔物のような威圧感を放つその男の眼光に射抜かれて、ギハイオは身を震わせる。
「そ、それが……狙い通り、馬車の荷台に睡眠薬入りの煙幕をぶち撒けたのに、あいつら通用しなくて……! あいつら、最初から俺が人攫いだって分かってたんだ、放っておけば必ずボスのシマを荒らして回る! だから、情報をと思って……」
「つまり、なんだ? てめえはそんな厄介な奴を、てめえ自身の手でえっちらおっちらとこの町まで運び込んで来たってぇわけか?」
「ひっ!? ち、違います、俺は、俺は……!!」
ぐしゃり、と肉の潰れる音が響く。
ラッゾの肩から伸びるのは、人の身ではあり得ない巨人の腕。
成人男性よりも大きな拳からポタポタと大量の血を滴らせながら、ラッゾは周囲に控えていた部下へと告げる。
「片付けろ」
「へい」
腕が、みるみるうちに縮んでいく。
通常の人間サイズに収まったその腕についた血を、ラッゾはペロリと舐め取って……すぐさま、唾と共に吐き出した。
「クソ不味い」
「そりゃ、当たり前ですぜボス。俺らは魔物じゃねーんですから」
「こういう所に影響があるか、ちょっと試してみたかったんだよ。この力をクライアントから貰って、まだ一ヶ月と経ってねえからな」
自分の手を軽く握ったり開いたりとしながら、ラッゾは呟く。
元々、彼らの主要な取引先は帝国方面だった。今も、余裕があれば繋がりを保つために人を売っている。
しかし最近、王国内でも買い手が付くようになり、それがとんでもない高値で買い取って貰えるのだ。
それだけでも大きいというのに、クライアントは今後の活動がしやすいようにと、魔物の力をこの身に宿す手術を行ってくれた。
もちろんリスクはあったのだが、裏社会で生き抜くためには力と金がどうしても必要だったため、賭けに出たのだ。
その結果、ラッゾはたとえ正規の騎士団を相手にしても蹴散らせるだけの力と、適当なガキを攫ってクライアントへ提供するだけでどんな贅沢も思いのままになるほどの大金を手に入れた。
最高の気分とは、まさにこういうことだろう。
「だからこそ……気に入らねえな、うちの商品をかっぱらったガキってのは」
口直しだとばかりに、部下に食事を持ってこさせる。
顔のサイズほどもある肉の塊は、見る者が見れば貴族でもなければ滅多に口にすることもない高級品だと分かるだろう。それを無造作に掴み取り、豪快にかぶりつく。
続けて手に取ったのは、これまた一本で平民が一年は遊んで暮らせるような高級ワインだ。
本来なら芳醇な香りを楽しみながらゆっくりと嗜むべきそれを、まるで安物のエールのように流し込む。
その様はまさに、教養も何もない荒くれ者そのもの。せっかくの高級品も台無しとしか言いようがない。
だが、それを指摘するような愚か者は、この場には誰一人としていなかった。
誰もが羨むような贅沢を、自分達のような薄汚い存在がただ欲望のままに貪り喰らう。
それこそが至高だと、ラッゾは常々口にしているからだ。
「奪われた商品共々、そのガキ共を捻り潰して持ってこい。納品が遅れたノルマの分、そいつらの体できっちり償って貰う」
「へい」
こうしてロロン達は、またしても新たな脅威に目を付けられることになったのだった。




