獣人の幼女
俺達が運び込まれたのは、ここイオリンデ王国とお隣のバスコム帝国の国境沿いにある、寂れた町だった。
かつては王国と帝国とを結ぶ唯一の街道を通す町として賑わっていたけど、他の場所にもっと便利な道が出来たことで、すっかり人がいなくなってしまったんだとか。
でまあ、そんな寂れた町だから治安も悪く、衛兵にギハイオを突き出したら、ものっすごく面倒臭そうな対応をされた。
それだけならまぁ、ちょっと眉を顰めるくらいで済んだんだけど……。
「ロロン……この子、どうするの……?」
「どうしようなぁ」
ギハイオに捕まっていた、狼獣人の女の子。名前は、テオというらしいんだけど……この子の扱いをどうすればいいか聞いたら、「賊の“所有物”は原則捕まえた奴のものだ」ってあしらわれちゃったんだよね。
そもそも、女の子を所有物扱いするなよって話なんだけど……困ったことに、この国における獣人の扱いはこんなものだ。
人間しかいない完全な単一民族国家なのもあって、獣人に限らず異種族を忌避する傾向があるんだよな。
ただまあ、“避けるだけ”な分、お隣の国よりはマシだと思うけど。
バスコム帝国では、獣人を思い切り奴隷階級として扱い、危険な重労働で使い潰してるという話だし。
ギハイオもそれを念頭に置いて、帝国で売り飛ばすつもりだったのかもな。
「なあテオ、お前の家がどこにあるかは分かるか? 両親とか、帰るのを待ってくれてる人は?」
「えっと……テオはね、森の中で生まれたんだよ。パパとママと、お姉ちゃんがいるの」
あまり無体な扱いはされていなかったのか、想像以上にハキハキと答えてくれた。
なんでも、森で狩りの練習をしている時に魔物に襲われそうになり、必死で逃げている間に帰り道が分からなくなってしまったんだとか。
そうして当てもなく歩き続けていたところを、ギハイオに拾われたんだと。
「パパとママのことを知ってる人達のところへ連れて行ってやるって、そう言ってくれたの」
「そうか……」
この歳でひとりぼっちになったんだ、いくら怪しい男だろうと、他に寄る辺もなければホイホイついて行っちゃうのは理解出来る。
最悪、ギハイオと会わなければ迷子になったまま死んでいた可能性だってあるわけだし。
それを、ラッキーだったと言えるかどうかは、微妙なラインだけど。
「テオ……もう、帰れないの……?」
不安そうに瞳を揺らすテオを見て、俺は出来るだけ明るく笑ってみせる。
「大丈夫だよ、テオ。俺達がちゃんと、お前を家族のところまで連れて行ってやるから」
「ほんと……?」
「ああ、約束だ」
「……! ありがとう、お兄ちゃん!」
その不安が少しでも和らぐようにと頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振り回す。
感情表現が分かりやすいな……本当に犬みたいだ。
「ロロンなら、そう言うと思った。……でも、分かるの……?」
ミュリアが心配しているのは、“森の中”という情報しかないのに、本当にテオの故郷を見付けられるのかってことだろう。
正直、絶対なんて言えるほど自信があるわけじゃないんだけど……。
「ギハイオの目的が帝国でテオを売ることで、俺達はその道中でたまたま目を付けられた……っていう仮定に立てば、まあある程度絞れるさ」
獣人は森や山などの自然の中で集落を作って生活しているけど、人との無用な衝突を避けるため、居住地域はある程度知れ渡っている。
王国の近くで、今言った条件に当てはまる場所といえば……。
「このまま国境沿いに南へ降って行った先に、ルートン男爵領がある。その南側に広がる大樹海が、テオの故郷じゃないかな」
幸いというか、テオと一緒にギハイオが溜め込んでいた金も貰えることになったので、旅費にはもう困ってない。
俺達は王都の騒ぎが落ち着くまで、特に目的もない旅を続けなきゃいけない身だ、行先としてはちょうどいいだろう。
「もちろん、ミュリアさえ良ければ、だけど」
「ロロンがそうしたいなら、別にいいよ。二人きりじゃなくなるのは、残念だけど……」
ちらりと、ミュリアはテオの方を見る。
こてん、と首を傾げるテオを、ミュリアはちょいちょいと手招きした。
「よしよし……」
「???」
何の脈絡もなく頭を撫で始めたミュリアに、テオは戸惑いながらもなんやかんや喜んでいるみたいだ。
人懐っこい子だなぁと、呑気なことを考えていると……ミュリアは、そこでとんでもない発言をぶちかます。
「これはこれで……ロロンとの、子育ての練習になりそうだし……アリ」
「いきなり何を言い出すんだミュリアは!?」
確かにテオは小さいし、可愛いし、こんな子供がいたらと思わないこともないけどさ。
婚約すらまだまだ先の話なのに、子供が出来た後のことまで考えるのは早すぎるだろ!!




