人攫い制圧
話を聞いてみたら、二つ返事で依頼を出てくれた。
しかも、出来るだけ急いで出発したいから、ギルドを通さず直接依頼を引き受けて欲しいと来た。割増料金を払うから、と。
うん、まぁ……。
「怪し過ぎて逆に対処に困るなぁ……」
「? ロロン、何の事……?」
「あー、うん、ミュリアはそのままでいてくれ」
「????」
よく分かっていなさそうなミュリアの頭を撫でながら、俺は馬車の揺れに体を預ける。
俺達が乗っているのは、やたらと都合良く現れた行商人の馬車、その荷台だ。
色んな商品(ガラクタにしか見えない)が雑多に詰め込まれていて、こんな劣悪な環境だと護衛依頼を引き受けてくれる冒険者もほとんどいないのだと、行商の男……ギハイオは語っていた。
完全に閉ざされた幌馬車で、御者のギハイオとも会話出来ない。
幌の隙間から差し込む明かりがあるとはいえ、確かに環境としては最悪だろう。
てか、扉まで付けて完全に閉じ込めるような形で護衛を連れ歩く行商がどこにいるよ。もう少し隠せ悪意を。
社会経験の少ないミュリアは、全く疑ってなさそうだけど。
この子は関わりの深い相手の心情を読み取るのが得意な一方で、初対面だと変な思い込みで盛大に勘違いするところがあるから、まあ仕方ない。
とはいえ、明らかに怪しいギハイオについて、何も話さず無警戒でいるのは危ないだろう。
「あのなミュリア、俺は正直、あのギハイオって奴は悪い奴だと思ってるんだよ」
「へー……そうなんだ」
「なんでかっていうと……って、軽いな、ミュリア」
まさか理由の説明もなしにあっさり納得されるとは思わなかったんだけど、ミュリアは大して気にもせずに言った。
「ロロンがそうだと思ったなら……私に、疑う理由なんてないもん。もし違ったら、一緒に謝るし……もし合ってたら、一緒に戦う。でしょ……?」
「……そうだな」
ミュリアから向けられる真っ直ぐな信頼と、何があっても一緒だという思いの強さが心地好い。
ああ、本当に俺は、単なる推しを越えて“ミュリア”って女の子が好きなんだなぁって実感しながら、しばらくはギハイオの思惑も忘れて、二人で肩を寄せ合い馬車の旅を楽しんだ。
そうして、何時間経っただろうか?
体感ではさほど長くもなかった馬車の旅が終わりを告げたのを、揺れが収まるという形で理解出来た。
「さて、何が起きるかなっと……お?」
出来れば俺の誤解で、本当にたまたま奇跡的な巡り合わせで護衛の依頼を振ってくれた親切なおっさんだったらいいのになぁ、なんて儚い希望を打ち砕くように、荷台の中へ謎の筒が放り込まれた。
先端に火が付いたそれは、すぐに爆発。
荷台の中を、奇妙な煙で一瞬にして満たしていく。
刀を構えて、それを斬り払おうとするんだけど……それを制するように、ミュリアが手を伸ばした。
「《暴食吸収》」
手のひらに発生した漆黒の魔力が、荷台の中を満たそうとした煙を全て吸い尽くす。
最後にパクンと飲みこむように手のひらを閉じると、何事もなかったかのように平穏が戻った。
「これで、いいかな?」
「ああ。でもそうだな……一応、少し演技を入れて様子を見てみよう」
「?」
ミュリアに話して、俺と揃って狸寝入りを決め込むことに。
その状態でしばらく待っていると、荷台の扉が開け放たれる音がした。
「へへへ、随分と騙しやすいガキだったぜ……身なりも良かったし、家出した貴族のガキとかか? まあどっちでもいい、現金がなくても売れば高そうなモン山ほど持ってやがるし、こいつら自身を売り飛ばしても金になりそうだ……」
これ以上ないくらい分かりやすく舌なめずりしながら、ギハイオが荷台に入って来る。
口元に布でも巻いているのか、若干くぐもった声をしているあたり、煙が無くなっていることにも気付いてないみたいだ。
「これで親分へのみかじめ料も何とかなるな……《《もう一匹》》良いのを拾ったし、しばらく喰うには困らないだろう」
もう一匹? 何のことだ?
とはいえ、これ以上聞き出すのは難しそうだし、他の人間の気配もない。
そろそろ、演技もいらないか。
「えっ」
瞼を開けると、あり得ない事態を前にポカンと口を開けたまま固まるギハイオと目が合った。
完全に動きを止めている無防備なその男の懐にすぐさま飛び込んだ俺は、腹に肘鉄を一発。
ごはっ、と胃の中身をぶちまけて卒倒したそいつを、すぐに適当な縄で縛り上げた。
「くちゃい……」
「ははは、悪い、もう少し手段を選ぶべきだったな」
胃液が放つ異臭に顔を顰めるミュリアへと、俺は謝罪の言葉をかける。
座った状態から最短で気絶させるなら最適な攻撃だったとは思ってるけど、明らかに戦闘慣れしていなかったコイツ相手なら、他にも色々と気絶させる手段はあったと思う。
まあ、俺もミュリアも馬になんて乗れないから、荷台は捨てていく以外に道はないし、いくら汚そうが関係ないといえばないんだけど。
「さて、ここは一体どこなんだろうなっと」
さっさとあの町から離れるっていう目的は果たせたわけだけど……人攫いをこんなところに放置して次の犠牲者を出すわけにもいかない以上、どこかしらの町で衛兵に突き出さないといけない。
人里に近いところならいいな、と思いながら荷台から降りると……どうやらここは、どこかの倉庫の中みたいだった。
一応、どこかの町? 村? ではあるらしい。
「……ん?」
何やら物音がして、俺は馬車の正面へと回る。
そこにあったのは、大きな檻。
攫った人を入れておくためのものだろう。そこには、既に"先客"が一人いた。
年齢は、五歳くらいだろうか?
ただし、普通の人間じゃない。頭には犬の耳が生え、お尻にもふさふさの尻尾がある。
青色の髪をポニーテールにしたその“獣人”の女の子は、俺をじっと見つめてこてんと首を傾げた。
「……お兄ちゃん、だれ……?」
それは俺が聞きたい。
いや、うん……この展開は予想外だよ。




