金欠とご都合展開(?)
王都を離れ、徒歩で隣町へ。
ぶっちゃけめちゃくちゃ遠いんだけど、俺もミュリアも魔法を使えるので、本気を出せば馬よりもずっと早く移動出来る。
追っ手がかかる可能性もあるので、当然大急ぎで走っていく……んだけど。
ミュリアが俺におんぶを要求して来たため、ちょっと困った事態になっている。
「あのミュリア……そんなに引っ付かれるとその、色々当たって……困るんだけど……」
「当ててるの……えへへ♪」
当たり前のように二つの膨らみを背中に押し付けて誘惑するミュリアに対し、俺はひたすら煩悩退散! と頭の中で念じ続ける。
尋問の影響で走るのが辛いから、などという言い訳が嘘であるなんてことは分かり切ってるんだけど、それでも断りきれなかったのは……うん、俺もこのシチュエーションをちょっと喜んじゃってるからだ。
仕方ないじゃん、ミュリアは世界一の美少女だもん。
それとまあ、一応フレアさんとエンジュから借り受けた魔道具の試験をするっていう意味もある。
今使っているのは、足首に巻くアクセサリー状の魔道具で、魔力を込めると空中に風の足場を形成してくれる、というものだ。
元々俺は魔素を強引に固めることで同じような魔法を使ってたんだけど、作った足場がコンマ数秒しか維持出来ない上、生成するには一秒程の時間が必要だったため、見た目ほど空中で自由が利かないという難点があった。魔素使い捨てだから消耗もデカいし。
その点、この魔道具を使うと足場の生成にかかる時間が限りなくゼロに近く、留まろうと思えばずっと空中に突っ立っていられる。
上手く制御すればトランポリンみたいに跳ねたり、鋼鉄の盾みたいに使うことも出来るので、かなり汎用性が高いと思う。
ポヨンポヨンと、さほど疲労感もなく大ジャンプを繰り返しながら空の旅を続けていると、一時間もしないうちに目的の町が見えて来た。
「そろそろ着くぞ、ここからは普通に歩いていくから、降りろよミュリア」
「ぶー……じゃ、手繋ご……?」
「まあ、それくらいなら」
俺の背中から降りたミュリアが、手を握って肩を寄せて来る。
にこにこと笑うその表情は如何にもご機嫌な様子で、ほとんど着の身着のまま逃げ出して来たとは思えないくらいだ。
「楽しそうだな、ミュリア」
「えへへ……だって、今日から当分は、ロロンと二人きり……ずーっと一緒にいられる……嬉しい……」
そんなにも幸せそうな顔で、俺と二人きりでいることを喜んでくれるなんて。
なんというか……本当に好かれてるんだなって、改めて実感する。
「ミュリア」
「んぅ? 何……!?」
ミュリアの頬に手を添えて、軽く唇を重ねる。
びっくりして目を丸くするミュリアへ、俺も自分の正直な気持ちを伝えた。
「俺も嬉しいよ、ミュリアと一緒にいられて。気が早いけど、その……ちょっとした、新婚旅行の予行演習だと思って、楽しもうな」
この旅で、ミュリアに不自由な思いなんて絶対にさせないし、辛い思いも絶対にさせない。
帰る場所をアーメド殿下が取り戻してくれるまで、ミュリアの心を守って何事もなく日常へ帰すのが、今の俺の為すべき役目だから。
「あぅ、あ……う、うん……」
すると、なぜかミュリアが顔を真っ赤にしてしまう。
いや、なんで? いつもミュリアからやってるよね!?
「ロロン」
「な、何?」
「……優しく、してね……?」
待って、本当に待って。
ミュリア、なんか変な意味で受け取ってないか!?
ちょっとミュリアの予想外の反応に見舞われながらも、俺達は町に入った。
後はここから、馬車に乗って自然な感じで更に辺境の地へ……と思ったんだけど。ここで、大問題が発生した。
金が無い。
「いやしまった、完全に失念してたな……」
結構慌てて王都を飛び出して来たから、アーメド殿下から渡された荷物の中に金があるかどうかなんてチェックしてなかった。
殿下も普段現金を自分で持ち歩いて使う機会なんてほぼないだろうから、あの短い間での準備に抜けがあっても不思議ではないし。
「どうするの、ロロン……?」
「んー、まあここからまた徒歩で移動するか……あるいは、殿下に用意して貰った冒険者の身分を使って、行商の護衛依頼でも受けるか、かな?」
徒歩の場合、土地勘のない俺達だと、ここから先の未整備の道で迷子になる恐れがある。
じゃあ護衛としてどこぞの商人に同行するべきかというと、そっちはそっちで難しい。
貴族でもなんでもない、“ファイアロード家の魔道具テスター”としてのロロンには、何の実績もないんだ。
そんなどこの馬の骨とも知れない奴を、いくら安かろうと護衛に選ぶ商人がいるか? って話。
「都合よく、俺達と同じ辺境へ行く予定の行商がいて、これまた都合良く誰でもいいから急ぎで護衛を見繕わないといけない、なーんて事態にでもならないと、厳しいな」
「そんなこと……ある……?」
「まあ、よっぽどないだろうなぁ」
「あーーー!! ちくしょおーーー!!」
そんな話をしていたら、俺達のすぐ近くでバカみたいな大声が響く。
ミュリアと二人で目を向けると、一人の男が頭を抱えて叫んでいた。
「これから西のデルーカ男爵領に向かわなきゃならねえっていうのに、まさか護衛の冒険者が依頼をドタキャンかますなんてよぉ!! 俺は急いでるってのに……今からすぐに都合のつく護衛なんて新しく見つかるのかぁ!?」
その会話内容を聞いて、俺はミュリアと顔を見合わせる。
「……いたみたいだね、ロロン」
「まあ、そうだな。せっかくだし、ちょっと話を聞いてみるか……一応」
あまりにも都合が良すぎる展開に、ちょっと不審なものを感じながらも、俺はその男に話しかけるべく近付いていくのだった。




