王都脱出
アーメド殿下の計らいで、ミュリアを連れて逃げることになった。
なぜか俺がそういった事情を話すより前から、ミュリアが騎士を一人叩きのめしていたけど……まあ、ちょうど良かったってことで。
「仮の身分は用意しておいた。君達二人は、新型魔道具のテストをするためにファイアロード伯爵家に雇われた、新米冒険者だよ」
囚われていた騎士団の詰所から脱出した俺とミュリアの二人は、人目に付かない王都の路地裏でアーメド殿下と顔を合わせていた。
王都を脱出した後、しばらくの間どう暮らすか、という部分に関しては、まさかのファイアロード姉妹が実家に掛け合ってくれたらしい。
意外過ぎて目を瞬かせる俺に、アーメド殿下は大きな鞄を一つ手渡して来る。
確認すると、中身は大量の魔道具だった。
「二人から伝言だ。『テスターになるって言ったんだから、逃げるついでにその仕事もちゃんとやってくれよ。たっぷり宣伝しながら、良いフィードバックを持って帰って来ることを期待してる』『私を専属にするって言ったからには、ちゃんと責任取りなさいよね!』だそうだ」
「フレイさんはまだしも、エンジュはもうちょっと言葉を選んで欲しかったな?」
ミュリアがご機嫌斜めになってるんだけど。
「でもまあ……本当に助かるよ、二人にお礼を言っておいてくれるか?」
ファイアロード家は、元から魔道具製造に長けた家柄で、テストのために騎士団だけではなく専属契約を結んだ冒険者を多く抱えているのが特徴だ。
魔物を間引いて地域の平穏を守るのは、原則騎士団の仕事。
とはいえ、魔物は常に騎士団の活動範囲で出現するわけじゃないし、地域によっては単純に騎士団の手が足りなかったりもする。
そういった場所を中心に活動しているのが、冒険者と呼ばれる魔物狩り専門の民間組織だ。
今でこそ、仕留めた魔物の毛皮や骨、魔石なんかを集め、売り捌くことで金を稼ぐ仕事だけど、大昔は魔物に支配された土地を解放して、人の住める地に変える開拓者への尊称だったんだとか。
まあつまり、騎士の手が届かない辺境における、"地元の英雄"とも呼べる存在。
そんな冒険者が扱う武器には自然と注目が集まるから、魔道具の宣伝とテストを同時に期待する相手としてはベストなんだろうな。
「設定としては、君達は王都生まれの義理の兄妹。実家の商会が潰れてしまったところ、懇意にしていたファイアロード家から支援を受けて冒険者をすることになった、といったところだ。兄妹の距離感は……まあ、君達に任せるよ」
にやりと笑いながら告げるアーメド殿下に、俺は反応に困って曖昧に笑う。
一方のミュリアは、ここぞとばかりに体を寄せて来る。
「ロロン……私達、貴族じゃなくなっちゃうね……?」
「一時的にな? ダメだぞ、ハメを外し過ぎると色々取り返しがつかないからな!!」
「大丈夫……学園でもないし、口うるさいメイドもいないから……誰にも、バレないよ。私に、何をしても」
「そういう問題じゃなくてね!?」
いかん、ミュリアの理性のタガが今にも外れそうな雰囲気を醸し出している。
俺がちゃんとブレーキ役にならなければと、改めて決意を胸に秘めながら、アーメド殿下から荷物を受け取った。
「牽制はしているが、追手がかかるまでそう時間もかからないはずだ。脱出ルートは荷物の中にメモを入れておいたから、それに従うといい。隣町まで行けば、馬車に乗っても問題ないだろう」
「何から何までありがとう、ルイスにもよろしくな」
手を振って、アーメド殿下と別れる。
正直、こんな展開になるなんて全く予想してなかったけど、ミュリアと二人で長期旅行だと思えば、そんなに悪い話でもない。
少しでもミュリアが世の中を知って、成長する機会になってくれればいいな。
そんな風に考えながら、俺はミュリアと一緒に王都を後にするのだった。




