悪魔蹂躙
ロロン達が町で悪魔と遭遇した頃、ルイスもまたその出現に勘づいていた。
学園の寮にいたルイスはすぐさま飛び出し、魔法によって空を飛翔することで町に現れた異形の悪魔と対峙する。
「《白星》!!」
魔素を収束して放つ白い流れ星が、悪魔を貫く。
生半可な悪魔なら一撃で消滅させる力を持った魔法だが、その異形は平然と飛び続けている。
人型の体に生えた、蜻蛉の羽。
その両腕にあるのは、なんと蛇と獅子の頭だった。
ただ獲物を喰いちぎって捕食するという、ただそのためだけに作られたその悪魔は、心臓を射抜かれようと構わずルイスに喰らいつく。
「……本当に、悪魔ってのは……胸糞悪い!!」
普段なら絶対に使わないような乱暴な言葉遣いと共に、魔素をばら撒く。
その魔素一つ一つが白い鎖となって、異形の悪魔を縛り上げた。
「《白砲》!!」
全てを無に帰す純白の砲撃が、塵一つ残さず悪魔を消滅させる。
それでも、ルイスの表情は全く晴れない。
人の体を異形と化して、下級悪魔の戦闘力を強引に引き上げるという外道の手法に対する嫌悪感はもちろん……そんな異形が、少なくとも二十体。この王都に放たれているという事実に、憎悪すら湧く。
「一匹残らず……ボクが消し飛ばしてやる!!」
とはいえ、頭の片隅に冷静な部分は残している。
町の中には、悪魔と戦う強烈な魔力が二つ。
恐らく、今日デートに行くと言っていたロロンとミュリアの二人だろうと当たりを付ける。
そして……敵の悪魔は、町のかなり広範囲に散らばって出現していた。
被害を抑えたいのなら、三人それぞれ手分けして対処するしかない。事実、ロロンとミュリアの魔力は反対方向に進んでいる。
問題は……それこそが、悪魔の狙いかもしれないということだ。
(いくら悪魔でも、ここまで力のある配下はそう簡単に作れないはず……それを、まるで使い捨てるみたいにばら蒔いたんだ、他の狙いがあると見るべき)
ルイス達三人は、悪魔に対する特効を持つ“魔素”を操る。
だが、別に魔素がなければ悪魔に勝てないというわけではない。
町の衛兵程度では話にならないだろうが、近衛騎士団が出動すれば問題なく鎮圧出来るはず。
近衛すら蹴散らして王都を火の海にしたいのなら、こんな風にバラけさせるのではなく、一塊となって蹂躙すべきなのだ。
それでも敢えて、配下を失う前提でこのような配置にしたのなら、何かしらの狙いがあると見た方が自然。
問題は……たとえ狙いがなんだったとしても、悪魔に対抗出来る手練の騎士が駆け付けるまでの間は、手分けして対処するしかないということだが。
「ロロン……ミュリア……無事でいてよ……!!」
そう願いながら、ルイスは異形の悪魔達が暴れている場所を目指して飛んでいくのだった。
「《黒触手》」
『グアァァァ!?』
ロロンと手分けして悪魔に対処することになったミュリアは、順調に異形の悪魔を狩り進めていた。
そのペースは、ロロンやルイスと比べてもなお早く、既に単独で五体目の悪魔を屠っている。
ミュリアは、悪魔の力に対する感受性が特別鋭いというのもあるが……もう一つ、二人に比べて悪魔を宿主ごと滅ぼすことに躊躇がないというのがあった。
もちろん、助けられるならば助けるべきだという良心は持っている。
一方で、今回の異形のように、中の悪魔を滅した時点で肉体も死に絶えると分かっているのなら、わざわざ中身のみに的を絞って戦う必要はないと早々に割り切っているし、悪魔の外道行為にいちいち心を乱したりもしない。
なぜなら、ミュリアにとっての世界はどこまでもロロンが中心で、それ以外は世界を彩る飾りでしかないからだ。
愛着が湧いた人は助けたい気持ちもあるが、そうでない人は究極的にはどうでもいいのである。
今、身の危険を顧みず戦っているのも、決して人助けのためではない。
悪魔に人々が蹂躙されると、ロロンが悲しむから。
ロロンが悲しむ顔は見たくないから、悪魔から人々を守るのだ。
「これで……六体目」
『ギギャァァァァ!!』
バッタの足で飛び回り、蜂の針を腕に構えた異形を触手で捕らえ、滅ぼす。
粉々に砕いた魂の抜け殻、悪魔の力のみを抽出して、自身の内にある悪魔の器に流し込みながら、ミュリアは確かに己の魔力量が増えていることを実感していた。
(まだ、いっぱいになるには遠い……悪魔が入り込む余地もないくらい、いっぱい、食べないと……)
悪魔に延々と狙われ、その度にロロンに迷惑をかける人生などまっぴらだ。
悪魔を喰らい、器を満たし、その力で今度は自分がロロンを守る。
否、悪魔に限らず、あらゆる災厄からロロンを守るのだ。
誰にも負けない、最強の魔女となって。
「だから……この展開は、私にとっても……都合が良い」
倒した異形の数が七を数えたところで、ミュリアは空を見上げる。
気付いていた。あの異形の悪魔達が町に現れた時から、自分を付け狙う粘ついた視線があることに。
だからロロンに、自ら手分けして悪魔を倒すことを提案し、視線に導かれるままにここに来た。
大悪魔を喰って、己の糧とするために。
『ようこそ、よく来たわね、悪魔の器……ミュリア・ルークウェル』
妖艶な美女の肉体を持った悪魔が、宙に浮かんでいた。
男を誘惑する扇情的な服装に、無駄に大きな胸や腰周りなど、自分には乏しい女性的な魅力を惜しげも無く晒す姿には少々イラッと来たが、まあやる事は変わらないと気を取り直す。
『わざわざ言わなくても分かっていると思うけど……あなたの体、貰いに来たわ。あまり傷付けたくないから、素直に明け渡しなさい? そうすれば、苦しむことなく消えられるわよ?』
「こっちの、セリフ」
下級の悪魔では、何体喰ったところで満たされない。
だが……流石に大悪魔ともなれば、十分に足りるだろう。
「あなたを食べて……必死に溜め込んだその力を、私が貰う……覚悟して」
『ふふっ、いいわよ……あなたが消えるか、私が消えるか、勝負としましょう。……でもねえ』
ミュリアの周囲から、無数の触手が出現する。
それに呼応するように、その悪魔もまた漆黒の鎖を無数に出現させていく。
『この私を……大悪魔アスモデウスを、あまり甘く見ないことね!!』




