デートの終わり
ミュリアに正しい恋人の在り方を教える! と言ったものの、俺にそんな知識はない。
そもそも、デートの作法すらロクに知らないのに、一体何をどう教えればいいんだ。
頭を抱えつつも、ひとまず健全なやり取りだけ重ねていけばいいだろうと胸に誓い、二人で手を繋いで歩いていく。
見かけた劇場で演劇を見たり、本屋に立ち寄ってミュリアの好きな童話や、興味津々なラブロマンスを物色したり。
……ミュリア、“普通の恋愛観”を小説で学ぼうとするのはやめてくれ。
そんな密かな懇願をしながら過ごしていたら、あっという間にお昼時になったので、目に付いたレストランに入ることに。
洋風のお店で、看板メニューはピザらしい。
そういえば、この世界に来てからピザって食べたことなかったな。
割と俺の知る現代と比べても遜色ない、めちゃくちゃ発達した食文化を持つ世界なので、ピザがあることにそこまで驚きはないけど……久しぶりだから、ちょっと楽しみだ。
「んんっ、美味い!」
届いたピザを切り分けて、一切れ口に運ぶ。
トロトロのチーズとたっぷりとトマトやベーコンが載ったそれは、カリカリに焼けた生地と相まってすごく美味しい。
そんな俺の反応を見て、ミュリアもワクワクした様子で小さな口を開けてかぶりつく。
すると、一口が小さすぎるのもあってか、びよーんと伸びるチーズの対処に困っていた。
「ん……んー……!」
一生懸命引っ張るも、なかなかチーズが切れない。
そうこうしている内に、橋となったチーズが重力に引かれて垂れていき……俺は、反射的に手を伸ばして、それを受け止めた。
ついでにピザの方も手に取って、チーズを切るのを手伝ってやる。
「ははは、こういうのもピザの楽しみではあるけど……ミュリアは、もっと細かく切り分けて食べた方がいいかもな」
「んむぅ……」
ちょっぴり不満そうに、チーズを食べ進める。
そのまま、俺の手のひらに乗ったチーズにまで顔を近付けて……って、まずい!!
「はむっ!」
「あ……」
流石に、俺の手のひらに乗ったチーズを食べられるというのは絵面的にまずい。
それを阻止すべく、俺は素早く手のひらのチーズを口に放り込んだ。
ミュリアの口から伸びていたチーズの橋がぷつんと切れ、俺の口に吸い込まれていき……。
「……ねえ、ロロン」
「な、なんだ?」
「これも……間接キス、って言うのかな……?」
「…………」
そんな俺に、ミュリアが思わぬ爆弾を放り込んできた。
いや、厳密には違うはずなんだけど、照れ顔でそんなこと言われたら、なんだかそうなんじゃないかって気がしてくる。
「えへへ……なんだか、こういうのも……いいかも」
まあでも、堂々とキスするよりはずっと健全だし、多分これで良いはずだ、うん。
そんな風に考えていたら、ミュリアは自分のピザを手に取って、俺に差し出して来た。
「ロロンが切り分けてくれるなら、その分私が食べさせてあげる……はい、あーん」
それはあれですか、ミュリアの分のピザは俺に食べさせるのに使うから、切り分けるのは俺の今手元にあるピザでやって欲しいってことですか。
今度こそ疑問の余地もない完璧な関節キスの要求に、俺はドギマギしながらも応える。
「あ、あーん……」
目の前に差し出されたピザに、ゆっくりとかぶりつく。
自分で持ってるわけじゃないから、当然のように伸びるチーズに対処出来ず、垂れていくそれをミュリアは指先で受け止め、くるくると巻き取る。
「ほら、これも……」
「うえ!?」
それを食べろと!? ミュリアの指ごと!?
ほら、と伸ばされたそれに、顔が真っ赤になっているのを自覚しながらも、俺は口を開き……ひょい、と。
俺の口を躱すように指を引っ込めたミュリアは、それをそのまま自分でパクリと食べた。
「えへへ……残念でした……♪」
にこりと、小悪魔のように微笑むミュリアの姿を見て、俺はピシリと硬直する。
これは……どっちだ? またロマンス小説の変な影響を受けたのか? それとも素でやってるのか? 今のミュリアならどっちもあり得るのが恐ろしいんだけど!!
「それとも……やっぱり、食べたかった……?」
今の今まで咥えていた指を見せ付けながら問われたその質問を前に、俺は自分の煩悩を抑え込むのにめちゃくちゃ苦労させられるのだった。
丸一日、ミュリアとのデートを楽しんだわけだけど……いやうん、正しい恋人について教えるというより、相変わらず俺がミュリアの可愛さに振り回された感じがする。
まあ……それでも、楽しかったのは事実だけどね。
「ロロン……ありがと」
「うん? 何がだ?」
「デート……楽しかった」
えへへ、と微笑むミュリアを見て、同じ気持ちだったことが嬉しくなる。
俺もだよ、と答えながら、ミュリアの頭を撫でてやると、そのままこてんと肩に頭を乗せてきた。
「また……一緒に、デート……しよ?」
「ああ、約束だ」
何はともあれ、ミュリアが満足してくれたならそれでいい。
穏やかな心境でそう考えながら、俺はミュリアと一緒に家路に着き──その、途中。
町の一角から、悲鳴が響いた。
「……何……?」
「確認してくる。ミュリアは先に戻って……」
「ううん、一緒に行く」
ノータイムで即答するミュリアに、俺は一つ頷いて走り出す。
やがて、現場に辿り着いた時……そこには、この前仕留めたのとよく似た、異形の悪魔がいた。
それも、三体も。
「きゃああああ!!」
「やめてぇぇぇ!!」
いや、三体だけじゃないのか?
町のあちこちで悲鳴が上がり、破砕音が響くこの状況、もしかしたらもっとたくさんの悪魔が街に入り込んでるのかもしれない。
いつから? どうやって? 何を狙ってる? 裏で糸を引く大悪魔はいるのか?
いくつもの疑問が湧いてくるけど、答えを出している暇はない。
とにかく今は、目の前の悪魔を滅ぼさないと!!




