ミュリアとのデート
俺のせいで運命を変えてしまったファイアロード姉妹に対する罪滅ぼしとして、俺自身の新しい装備を作って貰うため、魔法兵装研究室のテスターとして仕事をこなす毎日。
例の異形の悪魔との戦闘からヒントを得たことで、俺専用の魔道具にも目処が立ったので、なかなかに充実した毎日を送っている。
けど、忘れちゃいけないイベントが一つ、俺には控えていた。
そう……ミュリアとの、二人きりのデートだ。
「準備は出来たか? それじゃあ行こうか、ミュリア」
「うん……!」
ぎゅっと手を繋いで、二人で屋敷を後にする。
どこに向かうのかは、実のところちゃんと決めてない。
ちゃんと下調べしようと思ったんだけど、何気に俺達は王都の町をまともに歩くのが初めてなので、どうせなら初めて同士で楽しみたいとミュリアが言い出したのだ。
ミュリアがそれを望んでくれてるのであれば、俺も断る理由はない。
大雑把に、どの辺りにどういう店があって、どこに行くと危ないかは聞いているので、まあ何とかなるだろう。
「ロロン、どこ行く……? ロロンと一緒なら、どこでもいいよ」
もしかしたら、俺以上に楽しみにしていたのかもしれない。ミュリアは手を繋ぐだけでは足りないとばかりに肩を寄せ、笑顔を見せている。
いつもなら、周りの目を気にして少し遠慮するところだけど、今日は学園内ですらない休日の王都。
普段たくさん我慢させている分、思い切り甘やかしてあげようって決めている。
「そうだな、まずは商業区画に行こうか。朝ご飯がてら、何か買い食いしよう」
「うん……!」
繋いだ手を握り変えて、指を絡ませる。
いわゆる恋人繋ぎに、ミュリアが少しびっくりしていた。
「まだ婚約者ではないけど……ミュリアのことが好きな気持ちは誰にも負けないし、ミュリアのことは誰にも渡さないから。だからその……学園の外なら、こういうこともしたいなって」
ルイスからも、学園内に砂糖をばら蒔いてないで外でやれって怒られたし。
実際、学園の外なら制服でもないから、俺がミュリアと恋人ムーブしたってそれほど問題はないはずだ。多分。
「…………」
「…………」
特に何を話すでもなく、無言のまま歩く。
いや、本当はここでミュリアを楽しませるための小粋なトークを飛ばすべきなのかもしれないけど、緊張のせいで何の話題も提供出来ない。
いやだって、仕方ないじゃん。
恋人繋ぎなんて、転生前と合わせても人生初の経験だし……手のひら全体が、指一本一本に至るまでぴったりと密着しているから、ミュリアの手の温かさとか柔らかさとか、もう余すところなく伝わって来る。
しかも、握り方の関係で自然と腕や肩が触れ合って、とにかく距離が近いんだ。
歩きにくいのに、それが不便だとも感じない、何とも恥ずかしくて幸せな時間。
それをミュリアも感じていたのか、少し困ったような笑みを漏らした。
「こういうの、なんていうか……いつもと違って、ドキドキするね……」
「……そ、そうだな」
ミュリアのこんな反応、初めて見たかもしれない。
あまりにも可愛いんだけど、俺本当にこの子と今デートしてんの? 夢じゃない?
お互い少しドギマギしながら、到着した商業区。
目に付いた屋台で串焼きを買うと、近くのベンチで一緒に食べることに。
ミュリアにとっては、青空の下で食べるご飯なんて初めてだ。
少し戸惑いながらも、手にした串に小さな口を寄せ、肉にかぶりつく。
「ん……おいしい。こういうのも、いいかも」
「それは良かった。ミュリア、ちょっとこっち向いて」
「んぅ……?」
ハンカチを取り出して、タレで汚れたミュリアの口元を拭いてあげる。
じっとしているミュリアの口が綺麗になったところで、俺は「よし」と手を離した。
「ありがと、ロロン……」
「どういたしまして」
お礼を口にするミュリアの顔は、ほんのりと赤い。
これまで何度もやって来たことなのに、今日はなんだか照れているように見える。
そのことに少しばかり疑問を覚えていると、ミュリアは「あのね……」と語り出した。
「今まで、知らなかったんだけど……こういうことも、普通は……家族でなければ、恋人とすること、なんだよね……?」
「……まあ、そうかも?」
すごく今更だし、ミュリアのことは恋人である前に家族みたいにも思ってたから、そこまで気にしてなかったけど。
ただ、どうして急にそんなことを言い始めたのかは気になる。俺は、ミュリアの話に集中した。
「ルイスから、新しい本を貰って……その中で、恋人同士がやってた事、ほとんど……私、ロロンと、小さい頃からしてたなって……そう思ったら、なんだか……ドキドキしちゃって…… 」
「ああ、なるほど……」
今までのミュリアは、婚約者になるんだから特別なことをしようと、過激なくらいのスキンシップを求めていた。
でも、今までやって来たことも十分特別なものだったと知ることで、少し羞恥心が芽生えたらしい。
なんだか順序が逆な気がするけど、これで学園内における健全な付き合いが出来るなら、それに越したことはないだろう。
どんな本か知らないけど、ミュリアにそれをくれたルイスには感謝しないと……。
「今まで、私……ルイスから、前に貰った本でしか、恋人がどういうものか、知らなかったけど……あれ、本当は、すごいことだったんだね……」
「……そうだな」
いや今までのことがまずお前のせいかよルイス!! お礼を言おうかと思ってたけど、次に会った時はまず文句を言わせて貰おう。そうしよう。
そんなことを考える俺に、ミュリアは手を繋ぎながら、じっと見つめてくる。
「だからロロン……私に、本当の“恋人”がどんなのか……教えて……!」
「……分かった」
まさかの展開だけど、ここで俺が正しく対応すれば、俺が公爵様にぶっ殺されるような“間違い”を犯す危険がなくなるわけだ。
ならば、やり遂げなければならない。
ミュリアと俺の、将来のためにも……!!
「今日のデートで、俺がちゃんとした恋人の在り方を教えてあげるよ」
まあ……そもそも俺、本当の恋人がどんなのか、知らないんだけどね!!




