少女達の恋バナ(?)
異形の悪魔に襲撃された事件は、ロロン達の口から教師へと報告されたのだが……表向きは何もなく、ただ森が封鎖されるだけで終わった。
実のところ、報告だけならロロンは研究室に現れた個体も、品評会に現れた個体についても教師に伝えているのだが、既に討伐済みということもあって、全て揉み消されている。
絶対安全を標榜し、多くの貴族の信頼を得て運営されているこの学園に悪魔が現れたという事実は、学園側にとって都合が悪いのだ。
とはいえ、こうも立て続けに悪魔関連の事件が起これば、学園もその重い腰を上げて対策に乗り出す。
もっとも、悪魔との交戦経験はおろか、その姿を目にした経験がある者もほとんどいないため、連日特に意味の無い会議を繰り返しているだけなのだが。
「──というわけで、すっごいとんでもない目に遭ったのよ!! それなのに、あの二人どうしたと思う? 終わった傍からちゅっちゅしてたのよ!! 私達もいるのに!! 心臓に毛が生えてるわあのバカップル!!」
そんな学園の状況など知ったことではないとばかりに騒ぐのは、当事者の一人でもあったエンジュ・ファイアロードだ。
彼女の前にいるのは、ルイス・ラインベルク。
事件の後、ロロンから紹介される形で知り合った二人はあっという間に意気投合、学園内のカフェで女子トークを繰り広げていた。
女子トークと言っても、その内容はほぼロロンとミュリアに対する愚痴だったが。
一方のルイスもまた、エンジュの言葉に分かる分かると何度も頷いていた。
「あの二人、日に日にラブラブっぷりが加速してる気がするんだよね。しかも恐ろしいのは、あれで本人達は抑えているつもりだってことだよ」
「あれで!? 嘘でしょ!?」
「本当だよ。いやまぁ焚き付けたのはボクなんだけど」
「あんたが元凶かーー!!」
ルイスのぶっちゃけに、エンジュが叫ぶ。
まあまあと宥めながら、「でも」もルイスはにやけ顔を見せた。
「嫌いじゃないでしょ? エンジュも」
「ま、まあ、それはそうだけど……」
そう、二人が意気投合した一番の要因は、揃って甘いものに目がないというところである。
食べ物もそうだし、何より男女のアレコレも。
二人とも、同じロマンス小説を愛読しているくらいには。
「ただね、二人は一応まだ婚約者じゃないから、所構わずイチャつくのはあまり健全とは言えないのも確かだよ。二人には、きちんと節度を持った学園生活を送って貰わないと」
「それはそうよね、周りから何を言われるか分からないし、二人にとっても良いことじゃ……」
「そうして溜めた欲求不満を、二人で密かに熱烈に発散しているところをボクは見たい!!」
「百パーセント自分の欲望に忠実ねあなた!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐエンジュを、ルイスは笑い飛ばす。
実際のところ、自分の欲求ばかりで言っているわけではない。
ルイスにとって一番大事なのは、悪魔の脅威からこの世界を守ること。その上で、ミュリアの精神状態というのは非常に重要な意味を持つ。
悪魔は負の感情に惹かれて現れるため、ミュリアの心が幸せでいっぱいになっているうちは、悪魔を決して引き寄せない。つまり、“悪魔の器”だとバレることもないのだ。
その点、あくまで卒業するまで健全な付き合いをと考えているロロンに少しだけ不満を持ち、周囲に見せ付けるようにイチャつくミュリアの現状は、ルイスにとってあまり好ましいものではない。
色欲を我慢し過ぎれば負の感情を呼ぶが、あまりにもフリーに解放し過ぎるのもそれはそれで負の感情となってしまうのだ。
厄介な話である。
(ミュリアは結局のところ、ロロンの気持ちが自分に向いていることを確かめて、安心したがってる。どうしたものかなー)
なまじ幼少期の経験がある故に、どれだけ言葉を重ねても、何度口付けを交わしても、心のどこかでいつか捨てられるかもしれないという気持ちが捨てきれないように見える。
こればかりは、ロロンがどうこうではない。ミュリア自身が乗り越えなければならない問題だ。
「そのためにね、ミュリアにもっと甘くて焦れったい、“健全な”ラブロマンス小説を読ませようと思ってるんだ。エンジュ、一緒に候補を考えよう」
「別にいいけど……あの子、ラブロマンスなんて読むの? あんまりそういうところ見ないんだけど」
「読むよ。前に一度、ボクがすっごい濃密な○○○描写のある本を読ませたら、すっごくハマっちゃってたし……」
「ミュリアのアレはそのせいかぁーー!!」
エンジュに肩をガクガクと揺さぶられ、あははははと笑って誤魔化すルイス。
しかしその時、急に真剣な眼差しになったルイスが、なんとカフェの天井に向かっていきなり魔力弾をぶっぱなした。
あまりにも突然の凶行に、エンジュも唖然となる。
「……何かに見られてる感じがしたんだけど、気のせいか」
「気のせいか……じゃないわよ何してんのよ!?」
「大丈夫だよ、物は壊さない、退魔の魔力弾を撃ったから」
「そういう問題じゃないってのーー!!」
やいのやいのと、更に騒がしくなるエンジュとルイスの二人。
そんな彼女達を、天井裏からじっと見つめる悪魔がいた。
そして……その悪魔の目と耳を介して、情報を集めていた大悪魔が。
『なるほど、この子が悪魔狩りの力を持った、三人目の子供……なんて勘が良いのかしら。しかも、躊躇がない』
厄介ね、と溢しながら、アスモデウスは溜息を吐く。
ベルゼブブとベルフェゴールが倒されているのは知っていたが、アスモデウスの目から見ても、ロロン達を含めた三人の力は目を見張るものがある。
同時に相手取れば、自分も危ないかもしれない。
『でも……私の狙いは“悪魔の器”だけ。面白い情報も聞けたし……同時に相手出来ないなら、引き離して一人ずつ潰せばいい』
ニヤリと、妖艶に微笑む。
何も問題はないと、余裕の態度で。
『すぐに私の物にしてあげるから、待っていなさい。ミュリア・ルークウェル』




