異形との激闘
空を駆けるように飛ぶ異形の悪魔が、再び翼を広げる。
飛ぶためのものではなく、攻撃のための器官なんだろう。その翼に備わった無数の羽が、俺達に降り注ぐ。
「《柳返し》……!!」
飛来する羽を弾き返し、後ろにいるミュリアやフレイ達を守る。
その直後、大きく息を吸って魔素を生成──必殺の一撃を放つ。
「《神炎ノ太刀》!!」
魔素の刃を伸ばし、抜刀の勢いで遠くの敵を斬り裂く技。
本来なら悪魔の本体や魔法にしか効果がないんだけど、炎属性を付与することで対物理にも対応できるようにしたものだ。
これで、あの悪魔の体を斬って地面に叩き落す──
『オォォォン!!』
つもりだったけど、異形の悪魔は自らの高度を上げることで、俺の神炎ノ太刀の射程外まで逃れてしまった。
くそっ、と吐き捨てる間も、異形の悪魔は羽による遠距離攻撃を続けて来る。
防ぐだけならどうにかなるけど、こちらからの攻撃が届かない。
魔素を足場にして駆け上がる技も一応あるけど、あれはそんなに空中で自在に動けるようなものじゃないし、何よりこの場を離れればフレイさん達が危ない。
どうしたものか。
「ミュリア、あいつ墜とせるか!?」
こうなれば、周りを頼るしかない。
俺にとって最愛にして最も信頼しているパートナーへ問いを投げ掛けると、小さな頷きが返ってきた。
「任せて。ロロンの道は、私が開く」
ミュリアが手のひらを掲げると、漆黒の魔素が無数の触手になって天へ昇る。
取り囲むように、四方八方から迫るそれに対して、異形は何をするでもなく空中で体勢を屈めた。
何をする気だ、と思った次の瞬間──異形は、ウサギの足で空中を蹴り飛ばし、急加速。
目にも止まらないスピードで、触手を振り切ってミュリアへと突っ込んできた。
翼を水平方向に大きく広げながらのその突撃は、間違いなく近接攻撃。翼でミュリアを切り裂こうというものだ。
「させるか……!!」
急な接近で驚いたけど、何とか体を割り込ませて、刀で異形の翼を防ぐ。
返す刀で反撃しようかと思ったけど、流石に体勢が悪すぎたのと、異形もそれを恐れてヒットアンドアウェイに徹して離脱したので間に合わなかった。
あんな見た目だけど、知能はちゃんとあるみたいだな。本当に厄介な。
「ロロン、守らなくていいから……攻撃の準備、しておいて」
「ミュリア!? けど……」
「信じて、ロロン」
じっと見つめ合う時間は、一瞬もあれば十分。
ミュリアが信じてくれと言ったなら、俺は信じて構えるだけだ。
「エンジュ……あなたの魔導銃で、あいつを撃って。当たらなくていい、牽制」
「えっ、私!? わ、分かったわ!」
まさかここで話を振られるとは思っていなかったのか、ミュリアの呼び掛けに驚きながらも、懐から二つの魔導銃を取り出して空へと放つ。
すると、妹にばかり任せておけないと思ったのか、フレイさんも奇跡的に壊れなかった魔導砲を取り出し、空へとぶっ放した。
宙を彩る、無数の魔法弾。
それを翼で防ぎ、あるいは回避する異形だけど、行動を起こすということはそれだけ次の行動への選択肢が狭まるということ。
その状態で、再び迫るミュリアの触手。
羽を飛ばして迎撃しようとするも、どうやら異形の羽よりミュリアの触手の方が丈夫らしい、構わず物量で迫っている。
すると当然、異形もまた急激な加速でそれを振り切ろうと、後ろ足に力を込め始めた。
また突っ込んで来るようなら、そこを迎撃しよう──そう思っていた俺の前で、異形は空中を二連続で跳躍。
俺が警戒していたのとは、全くの反対側からミュリア目掛けて突っ込んで行った。
「しまっ……!!」
迎撃は間に合わない。
こうなったらまた、体を割り込ませて庇うしかないか?
そんな考えが浮かび、構えを一旦解こうとして……止めた。
ミュリアが、信じてって言ったんだ。
なら俺は……最後まで、信じる!!
「ふふっ……」
その時が来るのを信じて、攻撃の構えを続ける俺の前でミュリアが笑みを溢す。そして……。
ツ カ マ エ タ
ミュリアの口がそう動いた瞬間、地中から飛び出した触手がミュリアを持ち上げ、その攻撃を回避する。
目標を見失った異形の翼が触手を切り裂くと同時、中からぶちまけられる大量の魔素。
それが異形に絡み付き……大量の触手となって、その動きを完全に絡め取った。
千載一遇のチャンスを物にするべく、俺は刀を抜き放つ。
「《神炎ノ太刀》」
炎の刃が、異形の翼と足を纏めて斬り裂く。
そんな状態にあっても、異形はなおもその腕をミュリアへと叩き付けようと伸ばして……それが届くより早く、俺の二の太刀がトドメを刺した。
「《滅魔斬り》」
異形の中に宿っていた悪魔を、魔素の刃で打ち払う。
その瞬間……異形の体は、まるで力尽きるようにして、塵となって消えて行った。
「ん……ロロン、勝った……ね?」
悪魔の消滅を確認するや否や、俺はすぐにミュリアを抱き締める。
戸惑うように目を丸くするミュリアに、俺はゆっくり口を開いた。
「信じてた……信じてたけど、でもやっぱり……攻撃されてるミュリアをそのまま見てるだけでいるのは、怖かったよ。……無事で良かった、ミュリア」
「う、ぁ……う、うん……」
「……? どうしたんだ、ミュリア? もしかして、どこか怪我でも……?」
妙に歯切れが悪いミュリアを心配して問い掛けるも、返ってきたのは否定の反応。
ぶんぶんと首を横に振りながら、赤くなった顔で呟く。
「その……いつも、私から抱き着いたりは、よくするけど……ロロンからは、久しぶりだから……なんか、恥ずかし……」
「…………」
正直、俺からとミュリアからで何が違うのかって感じだけど……でも、照れてるミュリアは、とにかく可愛くて。
外道過ぎる悪魔の行いにささくれ立っていた心が、癒されていくのを感じた。
「ありがとな、ミュリア」
「ふえ……?」
よく分かっていなさそうなミュリアに、軽く口付けをする。
ボン、とまた一段と赤くなる姿に、思わず笑ったりしながら……。
こうして俺は、異形の悪魔との戦いを、何とか切り抜けることに成功するのだった。
「あの二人、オレ達がいることもう忘れてねえか……?」
「う、うわぁ……!! す、すごい、これが恋人同士の……!! 眩しくて直視出来ない……!!」
「しっかり指の隙間から見てるじゃんかよ」




