異形との遭遇
なんだか不安な気持ちになりながらも、あれやこれやと魔道具を試し……その半分くらいが暴発するという珍事に見舞われながらも、実戦での試験を続けて行った。
俺は続けるごとに疲弊するも、ファイアロード姉妹はどんどん元気になっていくのでどんどん気力の格差が広がっている。
とはいえまあ、一応目的はある程度果たせたと思う。
フレイさんの魔道具を色々試して、その性能のほどと改善点はしっかり把握出来たし。
後はきちんと改良されるのを待って、俺がテスターとして人前でしっかりとお披露目すれば良い。
唯一、上手く行ってないことがあるとすれば、それは……。
「んで、ロロンはそろそろ決まったのかい? エンジュに作って欲しい魔道具がどんたものか」
「うーん……」
そう、俺専用装備として作って貰う予定の魔道具。それをどんなものにするか、未だに決まらないんだ。
いくらテスターになると言ったところで、普段の授業や戦闘中に彼女達の魔道具を使ってなかったら、「やっぱりあいつらの魔道具って使えないんじゃ?」って印象を周囲に与えてしまう。
それに、最近はこれ以上どう強くなればいいのか道筋が見えなくなってたから、壁を越える意味でも魔道具の力は魅力的だ。
ただ……やっぱり、今のところしっくり来るものがない。
せめて、方向性くらい決めてから帰りたいんだけどな、今日。
「てかそもそも、オレはロロンの戦いを見たことないんだよな……エンジュは実際に決闘したんだろ? どうだったんだ?」
「んー、それがね……」
フレイさんの疑問に、エンジュは腕を組んで唸り……あっけらかんと言い放った。
「そもそも、ロロンが何してるのか、ぜんっぜん分からなかったわ!」
「え、どういうこと?」
「多分その変わった剣で私の魔導銃を防いでたんだと思うけど……剣筋も何も見えなかったのよ。速すぎて」
えー、とフレイさんが呆れ顔を見せる。
正直、俺も同じ気持ちだ。あんなにイキイキと連射してたのに、見えてなかったんかい。
「しかも、瞬きしたら次の瞬間にはすぐ目の前まで踏み込まれてたんだもの、びっくりしちゃったわ!」
「ん……ロロンは、すごい」
なぜか、俺の代わりにミュリアがえへんと胸を張って自慢している。可愛い。
しかし、今は俺の自慢よりも、作るべき魔道具への道筋こそが重要だ。
そしてそれは、今の話じゃ何も見えて来ない。
「うーん、話を聞く限りじゃ、魔道具なんて使う必要ありそうに思えないんだけど」
「そうでもないですよ、俺にも明確に何とかしたいシチュエーションはあります」
「へえ、例えば?」
例えば──と、俺はフレイさんの質問に答えようとして。
俺は素早く、腰の刀に手を伸ばした。
「全員伏せろ!!」
え? とフレイさんやエンジュは首を傾げていたけど、ミュリアはノータイムで反応し、漆黒の触手で二人を強引に地面へ叩き伏せた。
ちょっと気の毒だとも思ったけど……それでも、死ぬよりはマシだろう。
俺は、上空から飛来した無数の“何か”を、抜刀術で素早く弾き飛ばしていく。
「《柳返し》」
俺の間合いに入った敵の攻撃を全て防ぎ止め、小さく息を吐く。
周囲を見れば、散らばっていたのは……鳥の、羽? ただ、バカみたいに硬かったから、金属に近い材質なのか……あるいは、魔法で強化されているのか。
ともあれ、今は攻撃してきた相手の正体を探るのが先だと、顔を上げると……そこには、今まで見たこともない異形の化け物がいた。
「なんだ……あれは?」
まず、広げられた翼は間違いなく鳥のそれ。三対六枚の巨大な黒翼は、堕天使の降臨を思わせる。
けど、その翼にぶら下がっているのは、一般的な天使のイメージからはかけ離れた、異様な存在だった。
小さく器用な人の腕、大きく強靭な熊の腕、平原を素早く駆け回る馬の足に、どこまでも高く跳ねるウサギの足。
ただ目に付いた生き物を適当に捏ね回して作ったかのような、四椀六脚のケンタウロス。それが、翼を生やして飛んでいるんだ。
何がしたくてその形になっているのか、あるいは何も考えていないのか、それすら分からない怪物に、俺は一瞬だけ思考が真っ白になった。
「ロロン……!!」
そんな俺の意識を現実に引き戻したのは、ミュリアの声だった。
ハッとなる俺に、ミュリアは叫ぶ。
「あれは……悪魔……!!」
「っ……なん、だって……?」
有り得ない、と俺は言葉を失った。
何せ悪魔は、人に取り憑いて活動し、人が放つ負の感情、負の魔力を喰って生きる存在だ。そこだけは、下位の悪魔だろうが大悪魔だろうが変わらない。
つまり……空に浮かんでいるあれは……。
「人間……なの、か……?」
悪魔の本体が宿っているというのなら、そういうことになる。
少なくとも、本来は人間であったはずのものだと。
そして、飛んできた羽が魔力によって形作られた偽物ではなく、間違いなく本物の、実態を持つ鳥の羽であった以上、あの姿も幻影ではなく本物と見て間違いない。
つまりあれは……悪魔が取り憑く前か後かに、悪魔の手で改造されたものであると考えるのが自然。
ただ悲劇を撒き散らすという、悪魔の目的のためだけに。
「この……クソ悪魔が!! 絶対に滅ぼす!!」
『オォォォォン!!』
どこか物悲しい怪物の咆哮を合図に。
小さな森の一角で、異形の悪魔との戦いが幕を開けた。




