フレイの魔道具テスト
魔物は何もないところから……ただの魔力が何かの切っ掛けで寄り集まり、核を形成し、生物の形を象ることで誕生する。
その特性上、生物の体内からそこら辺の石ころや土の中から大気中にまで魔力が混ざっているこの世界では、魔物を絶滅させることは不可能であるとされていた。
じゃあ、いつどこで現れるかも分からない魔物に、常に怯えて暮らさないといけないのかというと、そうでもない。
魔物が生まれるためには一定量の魔力が一か所に滞留する必要があり、魔力が溜まりやすい場所というのは地域ごとにある程度決まっているからだ。
つまり、魔力が溜まりやすい場所を予め把握した上で、そこに出現する魔物を定期的に間引いてやれば、その周辺地域の安全は概ね担保出来る、というわけである。
「そういう場所は原則立ち入り禁止なんだけどな、王都の近くに、学生が授業で使えるように特別に解放された場所があるんだ」
「へぇ、そうだったんですか」
そうした話をフレイさんから聞きながら、エンジュ、ミュリアを含めた俺達四人は、王都近郊の小さな森へとやって来た。
ここは魔力が溜まりやすい一方で、この森以上に多くの魔力を溜め込む沼地が少し離れた場所にあるために強い魔物は出現しにくいという、何とも都合の良い特性を持つ土地だ。
そのため、生徒が実戦経験を積むための場所として、学園の管理下で解放されているのだと。
本来は教師が誰かしら引率しないといけないんだけど、最上級生の一部は特別に引率役の権限を付与されてるんだってさ。
まあ、フレイさんのことなんだけど。
「引率役になる代わりに、定期的に森の様子を見に来ないといけないんだけどな。魔物が増えすぎてたり、滅多にないけどやたら強い個体が紛れてたら、授業で使えなくなっちまうから」
「今回は、そのついでに魔道具のテストをしに来た、と」
「そういうわけだ」
ニヤリと、男勝りする笑みを浮かべるフレイさんに先導され、森の奥へ。
すると、さして間を置かずに魔物──ゴブリンが現れた。
小学生程度の体躯に緑色の肌を持つ、悪魔のなり損ないとか言われてるその魔物が三体ほどで固まっているのを見て、フレイさんは肩に担いでいた物騒な武器を俺に放り投げる。
「ほれ、早速やってみな」
「了解です。……ちなみに、これの使い方は?」
渡されたものを一言で表現するならば、バズーカだ。
円筒形の砲身に、照準器、大きなグリップを持ち、エンジュが浸かっていた物と違ってちゃんと銃口が付いている。
何となく想像はつくけど、念のため確認する俺に、フレイさんは適当に言った。
「そこの魔石に魔力を込めたら、後は狙いを定めて引き金を引けばオッケーだよ。ああただし、撃つ時は注意してな、棒立ちだと反動で吹っ飛ぶからよ!」
「……了解です」
普通の魔法を放つ魔道具なら、"反動"なんてものは存在しない。
一体何が起きるのかと、念のため身体強化魔法を程々に発動しながら、ゴブリン達に向かって構える。
「まあ、とりあえず先頭の奴を狙って……と」
肩に担ぐ部分に魔石が仕込まれているようで、そこに魔力を充填し、引き金を引く。
その瞬間、全身を駆け抜ける凄まじい衝撃。
いくら反動がすごいと言っても、そこまでじゃないだろうと油断していた。
円筒の中で何かが爆発し、砲口から放たれたのは岩魔法で作られた砲弾だ。
凄まじい勢いで飛翔したそれは、ゴブリンから大きく逸れて森を駆け抜け──その余波だけで三体のゴブリンが粉々に吹き飛んだ。
それどころか、周囲の木々も地面ごと吹き飛び、凄まじい傷跡を森の中に刻み込む。
あまりの光景に、俺もミュリアも絶句するしかなかった。
「うわぁ、すごい!! さすがお姉ちゃん、すっごい威力だよ!!」
「ふははは! そうだろう妹よ、これこそロマン!! これこそ最強!! 魔導砲百七十号ちゃんだ!!」
「うおーーー!!」
そんな俺達を余所に、マッドサイエンティスト姉妹二人はノリノリで魔導砲の威力を絶賛していた。
うん、なんというか……すごいわ、こいつら。
「ロロン、大丈夫……?」
「俺は大丈夫だよ。魔道具の方は、一発で吹き飛んだけどな」
心配そうに近付いてきたミュリアに、砲身の半ばから吹き飛んだ魔道具……魔導砲? を見せる。
この惨状を見たら、案外悪魔の妨害がなくても爆発してたんじゃね? と思わなくもない。
「これで、本当に使える魔道具なんて作れるの……?」
そしてミュリアは、こんなことで悪魔との戦闘に耐えうるような魔道具を作れるのかと、二人の技術を疑っているみたいだ。
まあ、そう言いたくなる気持ちも分からんではない。
「大丈夫だよ、エンジュが使ってた魔法銃は見たろ? あれでも"試作品"なんだ、絶対に悪魔にも通用するような、強力な魔道具を作れるようになる。この二人ならな」
アニメにおいても、エンジュはルイスにとって最初にして最大の相棒として、悪魔との戦いをずっと支え続けたんだ。間違いなく才能はある。
ここで俺が仲良くなって装備を作って貰いつつ……俺のせいで出会う切っ掛けすら失ってしまっているルイスとも引き合わせられれば、万々歳だ。
性別が同じだから男女の仲にはなれないけど、アニメであれだけ気が合ってたんだし、同性になっても上手くやれるだろう。多分。
「ロロンがそう言うのなら、信じるけど……」
ミュリアはそう言って、二人の方を指差す。
そこには、また新しい……如何にも物騒でロマン全振りな魔道具を携えて、こちらにいい笑顔で近付いて来るフレイさんの姿があった。
「さあロロン、次はこれを試してくれ!!」
「……本当に、大丈夫……?」
「大丈夫……の、はずだ」
……多分ね。




