エンジュとの契約
エンジュとの決闘に勝利した俺は、取り敢えず騒ぐ野次馬達を振り切って、エンジュと落ち着いて話せる適当な空き教室へと入った。
一応、他の人がいると話しづらい事情があるかもしれないから、二人きりでだ。
ミュリアには、すっごい渋い表情されたけど。「浮気は、ダメ」とか言われたけど。
そんなことしないから、安心して欲しい。
「それで? 結局、俺に決闘なんて仕掛けてきたのは、どういう理由からなんだ?」
前置きなんていらないとばかりに、互いに椅子に腰を下ろして向かい合う。
そんな俺の質問に、エンジュは溜息と共に答える。
「迷惑かけて悪かったわね……私は、あなたとの決闘を広告塔にしようと思ったの。うちの魔道具の」
エンジュ曰く……この前の魔道具品評会で、姉が代表を務めた魔法兵装研究室の魔道具が暴発事故を起こしたことで、決まりかけていた姉の内定が吹き飛んでしまったらしい。
予想外に困った内容に、俺も顔が引き攣ってしまう。
「お姉ちゃん、卒業後は王宮の魔道具研究機関に入るって張り切ってたのに……あんな、たった一回の失敗で……!!」
「…………」
失敗ですらなく、悪魔の妨害を受けての結果だ。
しかも、俺はそれが起こり得ると知りながら、あの場で悪魔を仕留めるために……余計なパニックを起こさないために、それを黙殺した。
誰にも怪我一つ負わせなかったから大丈夫だと思ってたけど、まさかこういう形で影響があったなんて……。
「だから私、アンタをお姉ちゃんの魔道具で倒せば、みんな見直してくれるかなって、研究室のみんなにも内緒で……はぁ」
帰ったら怒られちゃうな、とどこか切なげにエンジュは言う。
アニメはアニメで、優秀な姉に憧れと嫉妬の入り交じった複雑な感情を抱いていたけど……姉が失敗すると、こんな感じになるのか。
不器用だな、全く。
「そんなわけだから、今日は付き合ってくれて本当にありがとう。賭けのことは忘れてないから、何かして欲しいことがあれば何でも言って」
それじゃあ、と立ち上がり、帰ろうとするエンジュ。
俺は、そんな彼女の手を掴み、引き止めた。
「本当に、なんでもいいんだな?」
「え、ええ……女に二言はないわ」
「そうか……」
立ち上がり、エンジュをじっと見つめる。
……ぶっちゃけ、俺が罪悪感なんて抱く必要はないのかもしれない。
エンジュの姉は、本当に優秀な人だっていう設定で、今回少しコケた程度で潰れるような人じゃないだろう。品評会の一瞬しか見た事ないけど、そこまでヤワには見えなかった。
それでもこれは……俺が変えてしまった運命のツケだ、責任は取らないと、俺が納得出来ない。
「え? 何この空気。ま、まさか……! ねえロロン、、なんでもとは言ったけど、あくまで常識的な範囲でよ!? その、そういうのは私まだ、初めてだから……!!」
いつまでも黙ってる俺に、何を勘違いしたのか。エンジュが慌て始める。
こいつはどんな勘違いを……いや、アニメでも結構脳内ピンクのムッツリヒロインとか言われてたっけ、こいつ。
「はぁ……常識的ならいいんだろ? ならエンジュ、俺の専属技師になってくれ」
「へ……!? せ、専属!?」
「ああ。お前が今後、俺のためにその技術を使ってくれるなら、俺が一時的に魔法兵装研究室のテスターとして、お前の姉ちゃんの魔道具を使って広告塔になってやる」
俺の力は、ルイスやミュリアほどの汎用性がない。
だからどうしても、遠く離れた敵に対する手札が不足しがちだったり、空を飛ばれただけで攻撃がワンパターンになったり……とにかく、要所要所で制限が多い。
エンジュの作る魔道具があれば、今以上に魔素を上手く使って、色んな悪魔に対抗出来るようになるんじゃないかって気がするんだ。
「この取引を受けることが、俺からの賭けの要求だ。そんなに悪いものじゃないだろ?」
「そ、それは……その……」
エンジュが顔を赤くしながら、もじもじし始めた。
……え、どうした? 急に。
「わ、分かったわ……なってあげる、アンタの専属。お姉ちゃんのためなら、仕方ないわよね。うん、仕方ない」
そんなに嫌なんだろうか、俺の専属になるの。
ちょっとショックなんですけど。
「……どうしても嫌なら……」
「べ、別にそういうわけじゃないわ!! 契約成立ね、契約書は後で用意するから……そ、それじゃあ、また明日!!」
「あ、おい」
まるで逃げ出すように去っていくエンジュに、俺は首を傾げつつ帰路に着く。
その翌日、届けられた契約書を見て、俺はようやく専属契約の期間を一切決めていなかったことを思い出し、慌てて訂正に向かうのだった。
……魔道具技師との“生涯”専属契約って、そこまでする気はないよ!!




