原作ヒロインとの決闘
なぜか、アニメのメインヒロインと決闘することになってしまった。
理由を聞いても「終わったら教えてあげるわ!!」としか言ってくれないし、正直断っても良かったんだけど……。
「私が勝ったら、アンタは魔法兵装研究室に入りなさい!! もし私が負けたら、私が魔法遊戯研究室に入ってあげるわ!!」
そんな賭けの内容を聞いて、俺は一つ思い出した。
確かこの子、魔法が苦手で、基本的に魔道具で作ったゴテゴテした銃火器がメイン武器なんだよ。
所属は当然魔法兵装研究室。それで確か、お姉さんがその研究室の室長で、魔道具品評会で優勝の実績を残した天才魔道具技師。
そんなお姉さんに憧れつつも、なかなか上手く行かないエンジュを、主人公のルイスが前世の知識でアドバイスして成長させていくって感じの……つまり、そう。
もしかしなくても、この前の魔道具品評会でモニカ先輩が最優秀賞に輝いたのって、アニメのストーリー的にかなりのイレギュラーだったんじゃ?
つまり……俺の介入で、エンジュやそのお姉さんを取り巻く状況が、めちゃくちゃ大きく様変わりしてしまった可能性がある。
俺は、それを確かめなければならない。
「あのさ、始める前に一ついいか?」
「うん? 何よ」
放課後、魔法訓練用の武道場を一つ借りて、俺とエンジュは向き合っていた。
ギャラリーは、ミュリア以外にもアーメド殿下や、ルイス、モニカ先輩まで、噂を聞き付けて集まっている。
というか……俺の知り合いに限らず、かなり多くの生徒達が、試験組首席の俺と魔法兵装研究室室長の妹の決闘というマッチアップをひと目見ようと、ゾロゾロと集結していた。
まあ、人の往来であんな高らかに決闘を申し込んで来たんだから、こうなるのも想定通りだろうけど。
「俺が負けた場合の条件はそのままでいいから、勝った場合の条件は終わった後に決めさせてくれないか?」
「……どういうこと?」
「お前が何を思ってこんな勝負を吹っ掛けて来たのか、勝ち負けに関係なく終わったら教えてくれるんだろ? それを聞いてから、どうするか決めたい」
「ふーん……いいわよ」
エンジュが、その腰から魔道具を二つ取り出す。
それは、一言で表すならばまさしく“銃”そのもの。
銃口はなく、針のように尖った金属がこちらを向き、グリップ部分には魔力を充填するための魔石が一つ。
左右の手に一つずつ、二丁拳銃スタイルで構えを取った少女は、高らかに告げた。
「私が勝ったら、アンタは魔法兵装研究室に入る。逆にアンタが勝ったら、私はアンタの言うことをなんでも聞くわ!! 煮るなり焼くなり美味しく頂くなり、好きにしなさい!!」
「誤解を招くような言い方すんな!!」
それじゃあまるで、俺がエンジュに○○○な命令しようとしてるみたいじゃないか。
ねえ、なんか後ろからすごい悪寒がするんですけど!? ミュリアだよねこれ? 俺は別にいかがわしいことなんて何も考えてないから、落ち着いて!!
「行くわよ!! ファイア!!」
俺が内心めちゃくちゃ焦ってることなんてお構い無しに、エンジュが決闘を初めてしまった。
二つの魔導銃から放たれる、炎の弾丸。
それを察知した瞬間、俺は腰の刀に手を伸ばす。
「《滅魔斬り》!!」
飛来する弾丸を、居合で断ち斬る。
けれど、それで終わるはずもない。
「どんどん行くわよ!! ファイアーー!!」
二つの魔導銃は、エンジュが引き金を引くのに合わせ、次から次へと炎の弾丸を吐き出していく。
その連射速度と形成される弾幕の密度は、普通の魔法使いなら十人くらいでようやく作れるほどに濃密なものだ。
しかも、前世の世界にあった銃と違い、撃ちすぎたからって銃身が焼き付くようなこともない。
炎はあくまで銃口の先で発生させてるだけだから、いくら撃とうが熱が溜まったりしないんだ。
理論上、魔力の限り無限に連射し続けられる、拳銃サイズの機関銃。それが、エンジュの持つ魔導銃の力だ。
防戦一方になった俺に、エンジュは如何にも得意気に高笑いする。
「あはははは!! 見たか、これが魔法兵装研究室の新発明、“速射型魔法銃”よ!! この魔道具さえあれば、魔法なんてロクに使わなくてもこの通り、首席男だって完封勝利よ!!」
……何となく、分かってきたかもしれない。エンジュが俺に決闘を吹っ掛けてきた理由。
とはいえ、確信があるわけでもないし……今更研究室の所属を変えるのも、モニカ先輩に悪い。
申し訳ないけど、勝たせて貰うか。
「ほらほらほら!! 降参しないと火傷するわよ……って、あら?」
カチン、と虚しい音が響き、あれほどの暴威を振るっていた魔導銃が沈黙する。
……この魔導銃は、前世の世界で俺が知っていた銃と違い、いくら連射しても壊れることはない。
銃身は焼き付かないし、薬莢の排出に失敗して詰まることもない。
一方で、欠点もあった。
本物の銃弾と違い、魔法は亜音速で飛ばないから、迎撃が比較的楽だってこと。それから……。
魔石が高価過ぎて、弾倉の概念が存在せず、再充填にバカみたいに時間がかかることだ。
「何のこれしき……!!」
一応、エンジュもこの欠点は理解してたんだろう。二丁の魔導銃を捨てて、新しい装備を取り出そうと背中に手を伸ばす。
でも、この距離でそんな隙を晒されて、攻撃が間に合わないわけがない。
ワンステップで間合いを詰めた俺は、エンジュに足払いをかけてバランスを崩し、倒れ込む少女の体を後ろから受け止めつつ……鞘に収まったままの刀を、首筋に添えた。
「はい、終了。俺の勝ちでいいよな?」
「うぐぐ……分かってるわよ……」
ガックリと肩を落としながら、エンジュが負けを認めて。
集まったギャラリーから、歓声が上がるのだった。




