掴み取った成果
悪魔の脅威を無事に排除した俺は、気絶した警備員を担いで天井裏から降り、他の警備員へと託した。
悪魔に取り憑かれてました、なんて言うわけにも行かないので、貧血か何かじゃないですかねと説明して。
そんなこんなで、無事に悪魔騒動を乗り切った俺達は、魔道具品評会を最後まで見届けて、そして──
「おめでとうございます、モニカ先輩」
「ん……モニカ、頑張った」
無事、モニカ先輩が最優秀賞に輝いた。
俺とミュリア、それにルイスも一緒に……今日は政務の関係でこの場に来れなかったアーメド殿下の分まで拍手を送ると、彼女はただでさえ小さな体を更に縮こまらせながら、照れたように指先で自身の髪を弄る。
「えへへ、その、みんなが協力してくれたお陰です。そ、その、ありがとうございました!」
大きく頭を下げるモニカ先輩の腕には、最優秀賞を評する楯と賞状が握られ、表情には満面の笑みが浮かぶ。
今回の件が、少しでも彼女の自身に繋がってくれたらいいな──なんて、そう思っていると。
「モニカ」
そんなモニカ先輩にとって一番大切な人が、その場に現れた。
「あ……アインス様……」
おずおずと、モニカ先輩がアインスさんの前に向かう。
何を言うべきか、しばし迷うように視線を巡らせて……勢いに任せるように、口を開いた。
「あ、あの!! 私、最優秀、取りました!!」
「ああ、見ていたよ。素晴らしい結果だと思う」
「私、もっと、頑張ります!! これだけで終わらずに、もっとたくさん、立派な結果を出して……アインス様の婚約者に相応しい女に、なりますから! だからっ……」
最後まで言い切るよりも早く、アインスさんがモニカ先輩を抱き締める。
会場になっていた講堂の前だから、人目も多い。
だというのに、それがどうしたと言わんばかりの熱い抱擁は、見ているこっちまで照れ臭くなるくらいだ。
「もう、とっくになっているよ。最初から……君に初めて会った時からずっと、君以外と一緒になるつもりなど毛頭ない」
「えっ、いや、えっ、あ、ああアインス様?」
「すまなかった。人前に出るのが苦手なモニカは、あまり目立たない場所で密かに守ってやるのが一番なのだと、そう考えていたんだ。君が周りの見る目を気にしているのを知っていたのに……私自身が気にしていないのだから関係ないと、そう思って」
「あわ、あわわわ」
時が経つほどに集まる視線に、モニカ先輩はどんどんパニックになっていく。
けれど、アインスさんはそんなモニカ先輩の様子に気付くこともなく……。
「だが、君自身が周囲を見返し、私の婚約者として相応しくあろうと決意を固めたのなら、もう躊躇わない。愛しているぞ、モニカ」
「ふへ……?」
衆人環視の前で、モニカ先輩と熱いキスを交わしていた。
ひゅーひゅーと、おちゃらけた生徒が口笛を吹き鳴らし、それ以外の生徒も拍手喝采で二人の前途を祝福する中で。
「……あぅ」
モニカ先輩は、羞恥のあまり気絶していた。
モニカーー!? と絶叫するアインスさんの姿に、俺もルイスも苦笑する他ない。
「いやぁ、あの先輩すっごいね? なんだかボクまで赤くなっちゃったよ」
「ああほんと、すごいよな……」
俺には、とても出来る気がしないや。
そんな風に思いながら、邪魔者は退散しようかと振り向きかけて……途中、なぜか不機嫌そうなミュリアと目が合った。
「え、あの……ミュリアさん? どうしたの?」
「……た」
「え?」
「やっぱり……! 大人になる前から、婚約者はああいうこと、いっぱいしてた……!」
「ちょっ、えっ、ミュリア!?」
どうやらミュリアは、人前だろうと構わずいちゃつくモニカ先輩達を見て、羨ましくなったらしい。
あれは流石に例外だよ、と言おうと思ったんだけど、ふくれっ面のミュリアは止まらなかった。
「ロロン……私、今日頑張ったよね……?」
「え?」
「頑張ったよね?」
「あ、はい、そうですね……」
実際、今日はミュリアがいち早く悪魔の力を感知して教えてくれなければ、間違いなく犠牲者が出ていたし、悪魔にも逃げられていた。
だから、よく頑張ってくれたのは確かだけど……。
「じゃあ……ご褒美、頂戴……?」
期待の眼差しで、ミュリアが俺をじっと見つめる。
既にモニカ先輩を担いだアインスさんがいなくなったため、あれだけいた野次馬はまばらになっていた。
とはいえ、ゼロではない。
正直、この状況で同じことをするなんて、俺にはハードルが高すぎるんだけど……ここでその要望を拒否するのは、流石に違うだろう。
だから。
「んっ……」
意を決して、俺の方からミュリアにキスをした。
一瞬だけとはいえ、状況が状況だから恥ずかしくて、好きな人とキスしたという行為の内容も相まって心臓がバクバク鳴りっぱなしだ。
それでも、やり遂げた。俺はやり遂げたんだ。
そんな、微かな達成感に浸っていると……。
「えへへ……ロロン、大好き……♪」
「んむぅ!?」
今度はミュリアの方から首に腕を回して、もう一度キスしてきた。
しかも、力が強くて引き離せない!!
「好き……♪ 大好き……♪」
「わ、分かった、分かったからちょっと待っ……!?」
そのまま、俺はしばらくその場から動くことも出来ず、ひたすらミュリアに求められるままにキスを続ける羽目になるのだった。
「ねえ、今日はまた違う味の激甘スイート食べさせられたと思ったら、そこに更に後追いの蜂蜜シロップ流し込まれるとは思ってなかったんだけど? ボクも頑張ったのに何この仕打ち!! ビターチョコ全然足りないよ!!」
……なんかもう、ごめん。




