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魔道具品評会

 悪魔の感知に関しては、俺よりも……なんならルイスすら超えて、ミュリアが一番優れてる。


 そんなミュリアが言ったんだから、アインスさんに悪魔の力がくっ付いてたっていうのは事実なんだろう。


 ただ、その後は特に悪魔絡みの事件が起きることはないまま、時間だけが過ぎ……。


 ついに、魔道具品評会の日がやって来た。

 魔法学園の講堂を貸し切るような形で行われるが、参加者は生徒だけに留まらず、一般人も多く参加する。


 そのため、いつも以上に学園内には人が多く……モニカ先輩は、ガッチガチに緊張していた。


「さ、ささささ、ささぁ、み、みみみみなさん、い、行きましゅよ!!」


「モニカ先輩、落ち着いてください。大丈夫ですから」


 もはや壊れたラジオより酷い有様のモニカ先輩に、俺は苦笑を浮かべる。


 だってぇ……と半泣きの上級生を元気付けるべく、俺はその肩に手を置いた。


「モニカ先輩がこれまでしてきた努力も、積み上げてきた技術も、誰にも負けません。後は、それを証明するだけです」


 品評会は、代表者一名が作った魔道具の実演と解説を行い、審査員がそれを評価する方式だ。


 ぶっちゃけ、モニカ先輩には荷が重いってレベルじゃない。俺か、話題性を重視するならアーメド殿下に解説して貰うっていう案も、最後まであった。


 でも、モニカ先輩は最後まで、自分が代表として壇上に立つことに拘り抜いたんだ。

 婚約者のアインスさんに相応しい自分になりたいという彼女の想いに共感して、ミュリアも遅くまでプレゼンの練習に付き合っていたし……きっと上手くいくさ。


「はい……!! ありがとう、ございます……!!」


 一緒に来ていたミュリアやルイスにも見送られて、モニカ先輩は控え室へと向かった。


 さて、後のことはもう、モニカ先輩に託すだけ。俺達に出来ることは、もう何も無い。


 ……品評会そのものに関しては。


「それで、どうだミュリア? 何か感じるか?」


「……今のところ、何も」


 ただ、と。ミュリアは自分の胸に手を添えて、険しい表情で呟く。


「嫌な予感は、する」


「そうか……」


 悪魔の目的は、強烈かつ大量の負の感情と、それによって生じる魔力。

 その意味では、こういう大きなイベントは格好の狙い目なんだ。


 だから、もし本当にモニカ先輩やアインスさんが狙われるなら、ここかと思ったんだけど……。


「今は、警戒しつつ普通にイベントに参加するしかないね」


「そうだな……ルイスの言う通りだ」


 悪魔がこのイベントを狙ってるんじゃないかっていうのも、あくまで俺達の予想でしかない。

 モニカ先輩にとって大切なこのイベントを、そんな曖昧な理由で潰したくはないし……仮にこのイベントがなくなったとしても、俺達の知らないところでまた別の事件を起こすに決まってる。


 そっちの方が、状況としては余計に厄介だ。


「もし何かあったら、その時は騒ぎ一つ起こさずにケリを付ける。それが俺達の目標だ」


「うん……!」


「任せてよ」


 三人で頷き合い、俺達も会場入りした。

 関係者ってことで、客席の中でも最前列に座れるのは、ラッキーだったかもな。


「ん?」


「ロロン、どうしたの……?」


「いや、ほら……あそこ、アインスさんも来てるんだなって」


 客席の中でも目立たない、後ろの方の端と端の席。そこに、こそこそと座るアインスさんの姿があった。


 あの人も、やっぱりモニカ先輩の成果が気になって見に来たんだな。


『さあ、長らくお待たせ致しました!! これより魔道具品評会を開催致します!!』


 ちょうどそこで、品評会の開催が宣言された。


 ひとまずそちらに意識を戻すと、品評会のルールについて一通り説明があり、その後は参加者が一人ずつ現れては、自慢の作品を実演を交えつつプレゼンしていく。


 なかなか面白いものから、奇抜なものまで個性豊かな魔道具が紹介されていく光景は、見ていて結構楽しい。


 そんな時、一際強い歓声が上がった。


『さあ続きましては、魔法兵装研究室の作品です!』


 俺はよく知らないが、優勝候補筆頭らしい。

 モニカ先輩にとって一番のライバルになるかもしれない相手ということで、今まで以上に集中して見ようと席に座り直し……。


「あっ……」


 そこで、ミュリアが声を上げた。

 人差し指と小指を立てた……"悪魔"のサインをしながら。


「あの人の持ってる魔道具から、力を感じる。本体じゃなさそう」


「なんだって?」


 魔法兵装研究室の代表は、不敵な笑みで大きなバズーカみたいな武器を持ってる、赤髪のお姉さんだ。


 その見るからに危険そうな武器に、悪魔の力が宿っているという。


「行くぜ!! 論より証拠だ、見てろよ、オレ達の魔導砲百六十三号ちゃんの威力を!!」


 用意されているのは、入学試験の時にも利用されていた強固な的。

 安全のためか、同じ研究室の仲間と思しき男子生徒達が結界を張り、内外からの干渉を封じ込めてしまった。


 そんな状況で、代表のお姉さんが躊躇なく魔道具の引き金を引き──魔道具の中を魔力が巡ると同時に、俺にも感じられるほど悪魔の力が膨れ上がる。


「ルイス、合わせろ!!」


「オッケー!!」


 持ち歩いてる刀に手を添え、魔素を生成。

 周りの観客の目が壇上に注がれる中、目立たないように姿勢を低くして、抜刀。


 《滅魔斬り》で、結界を斬り裂いた。


「ん?」


 代表者のお姉さんが、自身の魔道具が放つ異常に気が付く。

 けれど、それよりも早く──ルイスの魔素が俺の斬り裂いた結界の隙間から入り込み、バズーカ型の魔道具を包み込んだ。


「《防御プロテクション》!」


 バズーカが、その発射口ではなく中ほどから爆発する。

 けれど、その衝撃はルイスの張った結界によって完璧に防がれ、大事には至らなかった。


 代償として、魔法兵装研究室の作品は、木っ端微塵になってしまったが。


「あぁぁぁーーーー!! オレの魔導砲百六十三号ちゃんがぁぁぁーーーー!!」


 絶叫しながら泣き崩れるお姉さん。

 会場には困惑と落胆、突然の爆発に驚いた人達の声が響き、一時騒然となる。


 もし、ルイスの結界が間に合っていなかったら……大惨事になっていただろう。


「晴れの舞台で気合いの入った作品を暴発させて、一生消えない心の傷と汚名を被せようってわけね……陰湿な」


 ルイスが、静かに怒りの感情を滲ませる。

 それが悪魔の狙いなら、確かに陰湿だ。大悪魔が起こすような分かりやすい惨劇ではないけど、だからこそ防ぎにくいっていうところまで含めて。


「仕込みがあれ一つであるとも限らないよな。しかも、起動する直前までミュリアでも感知出来ないとなると、対処も難しい」


「でも……あいつらなら、事件によって生じる感情を食べるために、必ずこの会場のどこかにいるね、間違いないよ」


 ルイスと視線を交わし、頷き合う。

 悪魔の狙いは分かった。それなら、やるべきことは一つ。


 その下らない企みを阻止して、今もコソコソとどこかから悲劇の種を撒いている悪魔を見付け出す。


「上にいるよ」


「上?」


 そこで、ミュリアから断言口調でそんな言葉が飛び出した。


 どうやら、あの爆発を起こすために少しだけ魔力を練り上げたことで、一瞬だけだがハッキリとその存在が感知出来たらしい。


「そういうことなら……ミュリア、お前はルイスと一緒に、ここで警戒を続けててくれ。これ以上被害を出さないためには、相手が何かを仕掛ける度にいち早く感知出来る、お前の力が必要だ」


「分かった……ロロンは、向こうの相手?」


「ああ、必ず仕留める」


 急いで立ち上がろうとした俺に、ミュリアは「待って」と制止をかける。


 どうしたのかと目を向けると……ちゅ、と。

 ミュリアが、俺に軽い口付けをした。


「行ってらっしゃい、ロロン……ここは、私がルイスと絶対に守るから……気を付けて」


「あ、ああ……行ってくる」


 頭の中が桃色に染まりそうになったのを、首を振って強引にシリアスモードに戻す。


 そのまま走り出した俺の後ろから、「こんな時にまで見せつけないでよ!!」とかいう、ルイスの真っ当過ぎる文句が聞こえた気がしたけど、俺は全力でそれをスルーした。

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